『ウンディーネさんと町を治めるハイエルフさん ②』
メイリーさんが用意してくれたお茶を飲みながら、わたしとティーニヤさんは、お話にお花を咲かせます。
とても盛り上がっていると思うのですが……。
わたしは、どうしても気になることがあったのです。
そこで、思い切って話題を変えることにしてみました。
「ティーニヤさん。ひとつお訊ねしても良いですか?」
「あらあら、まあまあ。なんでしょう?」
「ティーニヤさんって、ハイエルフさんの貴族さんじゃないですか。もしかして……エルフさんの領地を治めている、領主様のご親戚かなにかだったりしますか?」
「ええ、そうですわよ。わたくしは領主を務めるお兄様からみて、二番目の妹にあたりますわ……」
やはりそうでしたか。
ハイエルフさんの貴族さんと聞いた時から、そんな気がしてました。
疑問に思っていたことが解消して、わたしはスッキリした気持ちになります。
ところがティーニヤさんの表情は、少しだけ暗くみえたのです。
そして、そのまま言葉を続けました。
「ただ……お母様は違いますのよ。わたくしはハイエルフの中でも身分の低い、側室が生んだ子ですの……」
言い終えたあと、ティーニヤさんは遠い目をします。
これは聞いてはいけないことを聞いてしまいましたね。
ですからわたしは、すぐに頭を下げました。
「すいません。ヘンなことを聞いてしまって……」
「いえいえ、良いんですのよ。何時かおわかりになる事ですし、それが少し早かっただけの事ですわ。良い機会ですから、お話しさせて頂きますけれど……わたくしがイールフォリオに滞在しているのは、体のいい厄介払いですのよ」
「厄介払い? それはどう言う意味ですか??」
「側室の生んだ子でも、わたくしの体には先代の領主である、お父様の血が流れておりますわ。それを無下に扱う事など出来ません。だからと言って、傍に置いておくわけにもいきませんでしょ? 正室やお姉様の目がありますもの。そこでわたくしの扱いに困ったお兄様がお考えになったのが、領地の中でもアルファルムンから一番遠くにあるイールフォリオに送る事でしたの。領地を与えておけば面目が保たれますからね。ですが出立の日に用意されたのは、馬車一台と護衛が一人だけでしたのよ?」
そう言って、苦笑いを浮かべるティーニヤさん。
厄介払いだと言ってましたが、それはあまりにも……。
「酷いお話ですね」
「流石に護衛が一人と言うのは心許なく思いまして、ゴールドランクの冒険者の方達を雇いましたわ」
「ゴールドランクの冒険者さんですか。それなら心強いですね」
「お陰様で何事もなく、イールフォリオに着く事が出来ましたわ。因みに申し上げますと、その中のお一人が、エリミアさんでしたのよ」
嬉しそうにティーニヤさんは話します。
その一方で、わたしは驚きを隠せずにいました。
「え? エリミア様って、冒険者さんだったんですか??」
「ええ、そうですわよ。一緒に旅をしている間に意気投合しまして、そのままわたくし専属の護衛になって頂きましたの。とても信頼のおける御方でしたから」
「そうだったんですか。でもエリミア様はギルドマスターさんも、やっていたんですよね?」
「ええ、町の方達に頼まれて、お名前だけ貸していましたわね」
「お名前だけ? どうしてそんなことになったんですか??」
「当時のイールフォリオのギルドは万年ウッドランクの評価を頂いていたそうですわ。それが災いして、ギルドマスターが定着しませんでしたの」
「あー、フレイムドラゴンさんの影響ですか……」
「ええ、そのようですわね」
なるほど、そこでお水の魔法が使えるエリミア様をギルドマスターさんにしたと言うわけですか。
納得はしましたが、いろんなことを一度に聞きすぎて、頭がパンクしそうです。
それでも、もうひとつだけ訊ねたいことがありました。
「ところでエリミア様って、どんなかただったんですか?」
「そうですわね……兎にも角にも、好奇心が旺盛な方でしたわ。あとは旅をする事が、お好きでしたわね。少しでも旅の気分を味わいたいと仰って、聖なる森にお屋敷を建てたほどですわ」
「エリミア様は本当に旅がお好きなんですね。わたしも旅をするのが好きなので、お話を聞きたかったです」
「あらあら、まあまあ。ディーネさんはエリミアさんと似てますのね。水魔法だけでなく、その性格も……。では何時か、イールフォリオから旅立たれるおつもりですの?」
「それはないですけど……その言い方だとエリミア様は、イールフォリオを旅立とうとしていたんですか?」
「ええ……ある日、こんな事を仰いましたの。『1か月後に旅に出たい』と。淋しくなりますけど、必ずお戻りになると約束してくださいましたから、承諾致しましたわ。ですが、その2週間後にエリミアさんは、お亡くなりになりましたの。突然の事で、本当に驚きましたわ……」
当時のことを思い出したのでしょうか。
ティーニヤさんの瞳は潤んでいるように見えました。
辛い思いをされたんでしょうね。
それだけにエリミア様の死の真相が、再び気になりだしたのです。
「エリミア様がお亡くなりになる前、なにか変わったことなどなかったんですか?」
「変わった事? そう言えばあの頃……わたくしとお話しする機会が減りましたわね。詳しい事は存じ上げておりませんが、ギルドのお仕事でラドブルクに行かれる事が増えたと仰ってましたわ」
「え? ラドブルクにですかっ?!」
「ええ……そんなに驚く事ですの?」
ティーニヤさんの問い掛けに、わたしは小さく頷きました。
「そうですね。一応確認しておきたいのですが……ティーニヤさんは、エリミア様のお姉さんがラドブルクで神官さんをしているのは、ご存じなんですよね?」
「勿論存じ上げておりますわ。エリサさんの事ですわよね? 大変仲が宜しくて、ラドブルクに行かれる時は必ずお会いになるそうですわ」
「なるほど……そうなると、やっぱりおかしいですね」
「おかしい? 何故そう思われますの??」
「わたしが聞いたお話だと、エリサさんはエミリア様とは滅多に会わないとのことです」
シリフィさんにエリミア様の死因を訊ねた時。
間違いなく、そう答えていました。
そしてこの言葉に、ティーニヤさんは顔をしかめたのです。
「仰っている事が事実なら、確かに妙ですわね」
「ですよね。なので今からエリサさんに会って、確認してこようと思います」
「今から行かれますの? 馬車を出しても、ラドブルクに着くのは夜になりますわよ??」
「大丈夫です。わたしには秘密兵器がありますから。パッと行って、パッと戻ってきますね」
そうと決まれば即行動。
わたしはソファーから立ち上がります。
するとティーニヤさんも腰を上げたのです。
意を決したような表情で。
「で、でしたら……わたくしも連れて行ってくださいな。真実を知りたいんですの!」




