『ウンディーネさんとエルフのメイドさん』
ファフルさんから推薦状を書いてもらえたのは良かったのですが……。
ベリアさんがアルファルムンに到着するのは5日後になるとのこと。
そう言えば、ゲームでもポルトヴィーンからアルファルムンまで、そのくらい掛かりましたっけ。
船でも行けるのですが、大回りする箇所があるので、馬車の方が早いんですよね。
そんなことを思い出しながら、ベリアさんを乗せた馬車を見送りました。
するとここで、ファフルさんに声を掛けられたのです。
それもどう言うわけか、慌てた様子で。
「ウンディーネさん?! 何故貴女は馬車に乗らなかったのですか!!」
「え? 乗らないとダメでした??」
「駄目と言う事はありませんが……推薦状を渡すタイミングが遅くなれば、彼女たちの主になれなくなりますよ?」
「あ、そうなんですか。でも、ベリアさんが乗っている馬車よりも早くアルファルムンに着けば、問題ないですよね?」
「先に着く事が出来るのであれば、問題ありません。ですがアルファルムンへの定期便は3日後になりますから、間に合いませんよ?」
普通に考えたら、そうでしょうね。
でも大丈夫です。
わたしには秘密兵器がありますから。
神具の腕輪に触れながら、わたしはニッコリ微笑み返します。
「まあ、なんとかなりますよ。推薦状を書いてくださって、ありがとうございました。わたしはこれで失礼しますね!」
わたしの言葉を不思議そうに聞いている、ファフルさん。
そのファフルさんにペコリと頭を下げ、冒険者ギルドに向かいました。
冒険者ギルドでは、ポーナさんから達成証明書を受け取ります。
これでやっと全ての用事が終わりましたね。
「では帰りましょうか」
シュヴァルツさんとフウカさんにそう告げて、神殿へと歩き始めたのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「門よ開け! 移動目的地イールフォリオ!!」
神具の腕輪を使い、わたしたちはイールフォリオに戻ってきました。
まだ夕方だと言うのに、今日は色々ありましたねぇ。
1日の出来事をまとめながら、今後の予定について考えます。
べリアさんたちを迎えに行くのは5日後ですから、その前にエーリィル様に会いに行きたいところ。
そして、翻訳念話のスキルをゲットするんです!
これでシュヴァルツさんとお話できますよ~♪
嬉しすぎて、テンション爆上がりです……ムフフ。
ニヤニヤしながらシュヴァルツさんにスリスリ、モフモフしていたのですが……。
トントントン。
「ディーネ! ちょっと相談があるんだけど、いるー?」
神殿の扉を叩く、ドーラさんの声が聞こえたのです。
「はーい。いますよー」
返事をしつつ、扉を開けます。
するとドーラさんの後ろにメイド服を着たエルフさんが立っていたのです。
お団子ヘアにした金色の髪に、キリっとした顔つき。
ピンと伸ばした背筋は美しく、そして礼儀正しい仕草。
メイドさんであることは一目瞭然ですが、敢えて訊ねます。
「あの~、そちらのかたは?」
「彼女はティーニヤ様のお屋敷でメイド長をしている子よ」
「初めまして、ウンディーネ様。メイリーと申します。以後お見知りおきを」
ティーニヤ様って、この町を治めているハイエルフさんでしたよね。
そのハイエルフさんにお仕えしているメイド長さんが、何故わたしのところに来ているのでしょう?
疑問が渦巻く中、わたしは言葉を返します。
「あ……こちらこそです。ところで、わたしに何の用ですか?」
「立ち話でする内容じゃないから、中に入ってもいいかしら?」
「そんな込み入ったお話なんですか?」
「ちょっとね……」
なんだか嫌な予感がしますね。
かと言って、断るわけにもいかないので、ドーラさんとメイド長さんこと、メイリーさんを神殿の奥に案内しました。
神殿の中には長い椅子がいくつか設けられているので、そこに座ってもらうことに。
そして腰を掛けると同時に、ドーラさんの口が開いたのです。
「……で、用件なんだけどね」
「ドーラ様、それはわたくしから説明致します」
「そうね。じゃあ、お願いするわ」
わたしに軽く一礼してから、メイリーさんはお話を始めました。
「単刀直入に申し上げます。ウンディーネ様には、ティーニヤ様のお話し相手になって頂きたいのです」
「お話し相手? わたしがですか?!」
まさかの申し出に、わたしは目を丸くします。
「はい。お願い出来ませんか?」
「えーっと、その前に……どうしてそうなったのか、説明してもらってもいいですか?」
「かしこまりました。ウンディーネ様は、ティーニヤ様がエリミア様を懇意にされていた事は、ご承知でしょうか?」
「あ、はい」
「そのエリミア様がお亡くなりになってからというもの、ティーニヤ様は塞ぎ込まれてしまい、屋敷の者とも殆ど、お話しされなくなってしまいました。ところが先日、フレイムドラゴンを撃退した水魔法を見た際に、お久しぶりにお言葉を発されたのです。『エリミアさんが帰ってきた!』と、それはもう興奮されたご様子で」
「もしかして、それって……」
「ウンディーネ様の水魔法で御座います」
あー、やっぱり。
「でも、エリミア様の魔法じゃないと、わかっているんですよね?」
「はい。ドーラ様から、すぐに報告がありましたので。勿論、ティーニヤ様も存じ上げております」
「ではショックを受けたのではないですか? わたしはエリミア様ではないですから」
「いえ、そのような事は御座いません。フレイムドラゴンを撃退しただけでなく、水不足の問題も解消して頂き、とても感謝しておられます。それで是非お会いしたいと申されたのですが……」
そこまで話すと、メイリーさんはわたしから視線を逸らしました。
その代わりと言うべきか、今度はドーラさんがお話を始めます。
それも、やや呆れた様子で。
「ディーネがラドブルクから帰って来ないから、その機会を逃したってワケ。しかも帰ってきたら、今度は家の修理が始まったでしょ? ティーニヤ様はディーネと縁が無いと思って、落ち込んじゃったのよ」
「あー、それはすいませんでした。わたしで良ければ、いつでもお話の相手になりますよ」
「あ、有難う存じます! では明日、お屋敷に来て頂いても宜しいですか?」
明日はエーリィル様のところに行こうと思ってましたが、仕方ありませんね。
こんなに喜んでくれるのですから。
なのでわたしはニッコリ笑って、答えます。
「はい。大丈夫ですよ」




