『ウンディーネさんとハンターさんとの取引 ①』
ポルトヴィーンへと戻る船の甲板で、わたしはシレーヌさんからいただいたアイテムを眺めます。
ひとつはシレーヌさんの翼の羽根が10数枚。
もうひとつはクレークさんの牙が2本です。
シレーヌさんもクレークさんもお金を持っていませんので、これが依頼料と言いますか……。
治療費の代わりになりました。
「別にここまでしてくれなくても、良かったんですけどねぇ」
以前お話ししたことがあると思いますが、セイレーンさんの羽根には魅了を回避できる効果があります。
その他にも幻覚や混乱なんかも防げるので、非常に優秀なアイテムだったりするのです。
それだけに高値で取引されるとかなんとか……。
わたしは売ったことはありませんが、羽根1枚で金貨5枚くらいの価値があると聞いたことがあります。
そんな貴重な羽根が、わたしの手元に10数枚あるわけですよ。
金貨にして50枚以上の価値。
いや、シレーヌさんはセイレーンさんの女王様なので、もっと高値がつくかもしれません。
一方クラーケンさんの牙は、それ以上の価値があると、マルホフさんが言ってました。
と言うのも、クラーケンさんの牙は強度も高く、撥水性にも優れ、なにをしても錆びないと言う特性があるからだそうです。
武器にしても、防具にしても、超一流の装備。
特に海上での戦闘において無類の強さを誇るのだとか。
あとはクレークさんがクラーケンさんの王様だと言うことが、価値を高めている理由だそうです。
わたしは武器に関して全く興味が湧かないので、クレークさんの牙を使う機会はないでしょうね。
防具にしても同じこと、完全に宝の持ち腐れになると思われます。
そんなことを考えながら、シレーヌさんの羽根とクレークさんの牙をバッグにしまいました。
するとここで、背後から声を掛けられたのです。
「お嬢ちゃん、アタイと取引しないかい?」
声の主はべリアさんでした。
わたしは振り返ったのち、首を傾げます。
「取引……ですか?」
「そう。アタイと取引して欲しいんだよ。差し出すモノは……そうだね、ハンターギルドのボスに関する情報。どうだい?」
「『どう』と言われても……」
なんて返事をしていいのかわかりません。
答えに迷っていると、そこにマルホフさんさんがやって来ました。
「随分と興味深い話をしているじゃないか」
「フン! アンタには聞いてないよ」
「つれないな。しかしギルドのトップを裏切るとは……貴様、何を考えている?」
「別に裏切ってなんかいないさね。そもそもアタイらは、ボスを仲間だなんて思ってないからねぇ」
べリアさんの言葉に、マルホフさんが怪訝な表情を浮かべます。
「仲間ではないだと? それはどう言う意味だ??」
「アタイらはボスの奴隷なのさ。そこに仲間の関係なんてあると思うかい? 嘘だと思うなら、アタイのくびねっこを見てみな」
そう言って、べリアさんは大きく左に首を向けます。
すると、うなじの辺りに『ᛗᚢᛚᚲᚢᚠ』と書かれた文字が見えたのです。
「これって……魔術刻印ですよね?」
「ふむ、そのようだ。しかも古代ルーン文字とはな。貴様に術を施した者は相当な術者とみえる」
「でしょうね~。アルファルムンの看守たちも、これを見て驚いてたわ~。まっ、その隙に逃げられたんだけど~」
いつもの口調に戻ってますね。
マルホフさんを相手にすると毎回こんな感じになります。
「その程度の隙で逃げられるものか。アルファルムンは迷宮都市と言われるほど複雑な造りをしているのだぞ?」
そう言えば、アルファルムンの町って迷路みたいになってましたっけ。
地図がないと迷子になっちゃうんですよね。
初めて訪れた時は、わたしも道に迷いました。
苦い思い出が頭を過る最中、べリアさんはニヤリと笑います。
「町のコトをしらなければ、そうなるわよね~。でも、アタイらはアルファルムンの貧民街で育ってるのよ~。エルフがしらないような道も把握してるわ~」
なるほど、それで脱獄できたと言うわけですか。
それでもひとつ、気になることがあるんですよね。
そこでわたしはべリアさんに訊ねます。
「あの~、さきほどから『アタイら』と言ってますが……それって、捕まったハンターさんたちのことですか?」
「そうさね。アタイが仲間だと言えるのは、あの子たちだけさ。アタイらは同じ境遇で育った孤児でね。親の顔なんて、しりもしない。だけどアタイらは貧しくとも身を寄せ合って生きてきたのさ。毎日狩りをして、飢えをしのいで……でも、ある日を境にアタイらの生活が一変したさね」
「なにかあったんですか?」
「狩りに行った仲間のひとりが毒を食らって帰ってきたのさ。それも解毒魔法が効かない毒をね」
「え? それってまさか……」
「お察しのとおりよ。でも、この時はモンスターにやられた毒だと思ってた。そのあとすぐにボスが現れて、『その毒を抜いてやる』って言ってきたのさ。今思えばタイミングが良すぎるって話さね。アタイはバカだったよ」
べリアさんは悲しそうに笑いました。
まるで自分の愚かさを悟るように……。
「では毒を抜く代わりに、奴隷さんになったと言うわけですか」
「ホント察しが良い、お嬢ちゃんね。でも嫌いじゃないさね……で、取引のコトだけど、アタイの頼みを聞いてくれるかい?」
「内容によりますね」
悪いことなら、すぐにお断りしますから。
そう思っていたのですが……。
「仲間にかけられた、隷属の刻印を解いて欲しいのさ」
隷属の刻印を解く?
まったく予想していなかったことだけに、頭が混乱します。
「え? そんなことができるんですか?!」
「ボスは『神官ならできる』みたいなコトを言ってたけど……できないのかい?」
質問を質問で返され、わたしとべリアさんはお互いに首を傾げました。
そこにファフルさんとポーナさんが現れます。
「過去の文献によりますと、魔術刻印を解く魔法は確かに存在しています。ただ、それがどの魔法なのかは記載されておりません」
「そうなんですか。それは残念で……」
言い終える前に、今度はポーナさんが口を開きました。
「ちょっと待ってください! そのお話なら、私も目にしたことがあります。奴隷に掛けられる魔術刻印は、魂に刻まれる呪いに近いものだから、浄化魔法で解ける……そう書いてありませんでしたか?」
「それは御伽噺の中の、お話ではありませんか。わたくしが申し上げたのは大神殿にある書庫の文献です。そもそも神官の使う魔法に浄化魔法などありませんから!」
そう断言するファフルさん。
でもわたしはその言葉に耳を疑ったのです。
神官さんの使う魔法に浄化魔法がない?
いやいや……。
「浄化魔法ならありますよ」
それを証明するべく、わたしはべリアさんに両手を向けるのでした。




