『ウンディーネさんと毒を受けたクラーケンさん』
「シレーヌさん! 大丈夫ですか?! しっかりしてくださいっ!!」
甲板の上に倒れるシレーヌさんを抱きかかえながら、大きな声で呼びかけます。
しかし返事はありません。
気づけば空は暗くなり、厚い雲が、お日様の光を遮ります。
なんですか? このシチュエーションは……。
嫌な予感がしてなりません。
それから間もなく、マルホフさんたちが駆け寄ってきました。
「セイレーンの女王に何があったのだ?」
「シレーヌさんはクラーケンさんと血盟の儀式を互いに結んでいるんですよ」
「ではクラーケンが力尽きたことによって、女王様も倒れたと言うことですか……」
そう言ってきたのは、ボーラさんです。
ボーラさんは青ざめた表情を浮かべていました。
そしてわたしは、ボーラさんの言葉に小さく頷いたのです。
「恐らくは……クラーケンさんの受けた毒が全身に回ってしまったんでしょうね」
クラーケンさんに視線を向けると、数本の矢が体に刺さっているのが見えました。
あれが全て毒の矢だと思うとぞっとします。
ぶるっと体を震わせていると、ファフルさんがわたしの横をスッと通り過ぎて行ったのです。
その直後、ファフルさんはクラーケンさんに向かって両手を突き出しました。
「でしたら、わたくしが治療致しましょう。解毒!」
ファフルさんの両手が一瞬光るも、魔法の発動は不完全に終わります。
「解毒! 解毒!! 何故魔法が発動しないのですか?!」
何度唱えても結果は同じ。
両手を見つめながら、ファフルさんは困惑していました。
そんなファフルさんに向かって、べリアさんが薄ら笑いを浮かべていたのです。
「そんなレベルの低い解毒魔法じゃ~、その毒を取り除くコトはできないわよ~。あのイカの化け物を助けたいなら、大神官サマでも呼ばなきゃダメよ~」
この言葉にマルホフさんがいち早く反応し、べリアさんを睨みつけます。
「厄介な毒だと聞いてはいたが、大神官様を必要とするほどの物だと言うのか? 貴様、どんな毒を使ったのだ!!」
「さあね~。毒はボスからの支給品だから、詳しい内容なんてしらないわ~。しっているのは、この毒が解毒魔法じゃ治療できないってコトだけよ~」
「解毒が効かないと言うのなら、その魔法の遥か上を行く完全回復なら治せるのか?」
「治せるんじゃな~い。でも、そんな高等魔法を使える神官サマなんて、大神官サマくらいでしょ~? 残念だったわね~」
残念だと言う割には、ずっといやらしい笑顔を浮かべているではあえませんか。
べリアさんの態度に腹が立ちます。
そもそも完全回復なら、わたしにだって使えますからね?
でもわたしは完全回復を使おうとしませんでした。
なぜなら……。
「た、大変ですっ! 女王様が息をしていません!!」
そう……シレーヌさんの命はすでに尽きていたからです。
ポーナさんが叫ぶよりも少し前に……。
原因はクラーケンさんが絶命したことによるもの。
そして血盟の儀式の影響でシレーヌさんの命も奪った。
それで間違いないでしょうね。
そこでわたしは思います。
もしわたしがクラーケンさんと同じ立場だったら……と。
そんなことを考えた瞬間、胸がキュッと締め付けられる感覚に陥りました。
「大切な家族が、こんなかたちで離れ離れになるなんて……わたしは絶対に認めません!」
だからわたしはシレーヌさんを甲板の上に、そっと寝かせて、すぐに立ち上がったのです。
そしてシレーヌさんとクラーケンさんを視認したあと、両手を空高く掲げました。
「範囲魔法発動! 蘇生!!」
魔法名を告げると、金色に輝く神々しい光がシレーヌさんとクラーケンさんを包み込みます。
その直後、虹色に光る球体が厚い雲を切り裂き舞い降りてきたのです。
問題なく魔法は発動している様子。
シレーヌさんの上には20センチほどの球体が、クラーケンさんの上には1メートルほど球体が見えました。
体の大きさによって、球体のサイズが違うんですね。
……って、今はそれどころではありません。
やがてその球体は各々の体内に収まり、光が消えました。
それからすぐに……。
「スゥ、スゥ……」
シレーヌさんの寝息が聞こえたのです。
クラーケンさんも足がゆっくり動いているのも確認できます。
「良かった。これでもう大丈夫ですね」
ホッと胸を撫で下ろすと、ファフルさんが目を見開いたまま、こちらにやってきました。
「ま、まさかとは思いますが……今のが伝説級の回復魔法、蘇生なのでしょうか?」
「伝説級かどうかはわかりませんけど、蘇生で間違いないですよ」
「信じられません。範囲魔法で二体同時に蘇生させるだなんて……貴女は本当に人族なのですか?」
「えーっと、人族ですよ。あはは……」
苦笑しつつ、わたしは言葉を返します。
そんなわたしを見つめながら、ポーナさんがへたり込みました。
「ほ、本当に使えたんですね。蘇生……噂だけだと思ってました」
「ええ、まあ。これでも一応神官さんですから」
「一応って……大神官様でも使えない究極の魔法だぞ? いや、失礼した。今までの非礼を詫びさせて頂きたい、ウンディーネ殿」
そう言ってきたのは、マルホフさんです。
マルホフさんは深く頭を下げていました。
急に態度と言葉遣いが変わったので、ちょっと驚いちゃいましたね。
でもそれ以上に驚いていたのは……。
「お嬢ちゃん……アンタ、水の魔法使いじゃなかったのかい?!」
それは、べリアさんでした。
「わたしのジョブは、お水の魔法使いさんではなく、神官さんなんですよ」
「じゃ、じゃあ……グリエムって女が言ってた神官サマって…………」
「たぶん、わたしのことだと思います。グリエムさんの妹さんを治療したのは、わたしですから」
「そ、そうだったのかい……」
「これで馬鹿げたお話は事実であると、理解してもらえましたか?」
わたしが問いかけると、べリアさんは無言で頷きます。
そして俯いたまま、肩を震わせていました。
何故か涙を流しながら……。




