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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと海賊さん ②』

 海賊さんたちが放つ矢を華麗に躱しながら、シレーヌさんはわたしたちのいる船に戻ってきました。

 傷ひとつ受けていないようなので、ホッとします。


 ですがシレーヌさんは顔をしかめていたのです。


「クッ……賊ノ奴等メ。同胞ノ羽根ヲ使ッタ、羽根帽子ヲ被ッテオッタワ」


 なるほど、それで魅了の歌声が効かなかったのですね。


 納得はしましたが、同時にとても嫌な予感がしました。


「そうですか。もしかして、その羽根って……」


「賊ニ襲ワレタ同胞ノ物ダロウ。案ズルナ、賊ニ捕マル様ナ間抜ケナ奴ハ居ラヌ」


「それなら良かったです」


「ソウ言エバ……先日、ディーネ殿ニ救ワレタ者モ、『羽根ヲ毟リ取ラレタ』ト言ッテオッタナ」


 それって、アルマさんのお家に忍び込んでいたセイレーンさんのことですよね。


「あのセイレーンさんですか。確かに翼の傷が酷かったですよね。体調のほうは大丈夫そうでしたか?」


「今デハ元気ニ飛ビ回ッテオル。ソノ件ニツイテ、礼ヲシテイナカッタナ。セイレーンヲ統ベル者トシテ、心カラ感謝スル」


「いえいえ、わたしは神官さんとしてのお仕事をしたまでですよ。それよりも……今はセイレーンさんを傷つけた海賊さんたちをどうにかしましょう」


「フム、ソウデアッタナ。シカシ魅了ガ効カナイトナルト、我デハ打ツ手ガ無イナ。ギルドマスターヨ、オ主ニ良イ考エハアルカ?」


 そう言って、シレーヌさんはマルホフさんに視線を移します。


「じ、自分にですかっ?! そうですね……状況から察するに、逃げるしか無いかと思われます」


 この提案に対して、ポーナさんが声を荒げました。


「はあ? 逃げられると思ってるんですかっ?! 向こうの船の方が早いんですよっ!!」


「しかしだな、戦うにしても戦力差があり過ぎる。いくら相手が人族でも多勢に無勢だ」


 やはりと言いますか、海賊さんは人族の集まりなんですね。

 同じ種族として情けない気持ちになります。


 そんなことを思っている最中、マルホフさんとポーナさんの会話にファフルさんが入っていきました。

 右手を半分ほど上げながら。


「あの……お話し合いで解決すると言う訳にはいきませんか?」


「無理だな」


「無理ですね」


 ファフルさんの提案に、マルホフさんとポーナさんは同時に即答します。


 言い争っていたお二人の意見が、はじめて合いましたね。

 ファフルさんはガックリと肩を落としていましたが……。


 それはそうと、海賊船との距離が100メートルを切りつつありました。

 そこでわたしは、海賊船の甲板上に、見覚えのある女性の姿を見つけたのです。


 褐色の肌をした、露出度の高い服を着た女性を。


「あれ? あの人は……ハンターさんじゃないですか!」


 ハンターさんもこちらに気づいたのか、とても驚いています。


 いやいや、驚いたのはわたしのほうですからね?

 アルファルムンの牢屋にいると思ってたのに、こんなところで再会したのですから。


 目を丸くしていると、マルホフさんがこちらに近づいて来ました。


「君は、あの女を知っているのか?」


「ええ、まあ。ハンターさんたちの捕獲に協力したことがあるので。でも、アルファルムンの牢屋に送られたと聞いたのですが」


「そのことなんだが、隷属の刻印を押される直前に脱獄したそうだ」


「脱獄? もしかして……マルホフさんたちがお話しされていたのって、ハンターさんのことだったんですか??」


「ああ、そうだ。あの女は人族のみで結成されたハンターギルドの幹部をしていると、アルファルムンのギルドから報告が上がっていた。まさか、海賊と手を組んでいたとはな」


 思いがけない出来事だったのか、マルホフさんは困惑した表情を浮かべます。


 ですがわたしは、マルホフさんさんの言葉に違和感を覚えました。


「まさか……と言うことは、ハンターさんと海賊さんは、お仲間さん同士ではないのですか?」


「個人同士での交流はあるかも知れないが、仲間であると言う報告は上がってないな。何故そんなことを訊く?」


「それは……」


 わたしはハンターさんが使用している矢と、海賊さんが使用している矢に同じ毒が使われている可能性があると説明します。

 そして、このお話を聞いたマルホフさんの表情が厳しいものに変わりました。


「あの特殊な毒か。それが事実なら、ここで捕まる訳にはいかないな。もし他の領地に広まりでもしたら、とんでもないことになる。なんとしてでもカスタリーニのギルド本部に報告せねば」


「ギルマスの気持ちはわかりますが、逃げ場なんてありませんよ?」


 そう答えたのは、ポーナさんです。

 そこにファフルさんが、再び右手を半分ほど上げて近づいてきます。


 それもなぜか、わたしの方に向かって。


「あの……少し宜しいですか?」


「え? あ、はい。なんでしょう??」


「先ほど、『ハンターの捕獲に協力した』と仰ってましたが、どういった事をされたのですか?」


「どういったこと? えーっと、そうですね。まずはこんな感じで……」


 そこまで話したところで、海賊さんたちに弓を向けられました。


 おお、これはナイスタイミング!

 わたしは海賊船に向かって両手を伸ばします。


「バブルドーム! からのムーブ&フルスピン!!」


 掛け声と同時に現れる、船をすっぽりと包み込む大きな泡の壁。

 船の全長が30メートルほどなので、バブルドームは50メートルくらいのものを生成してみました。


 バブルドームは船のスピードに合わせて一緒に進んで行きます。

 巨大な渦を発生させながら。


 ん? 巨大な渦?!


「……あっ!」


 声を上げた時には全てが遅すぎました。


 真っ青な顔をした、ハンターさんと目が合うのも束の間。

 次の瞬間には海賊船が渦に飲み込まれていたからです。


「ああ、またやっちゃいましたね……」


 フルスピンを解いた時、海賊船は沈没船になっていました。

 海賊さんたちは壊れた船の木材にしがみついています。


 幸いなことに怪我人は出ていない様子。

 いやぁ、良かった良かった。


 ホッと胸を撫で下ろし、ファフルさんに視線を戻します。


「まあ、こんな感じでハンターさんを捕獲したんですよ。さすがに、ここまで酷くなかったですけどね……」


 頭をポリポリ搔きながら、ちょっと苦笑い。

 そんなわたしとは対照的に、ファフルさんは口を開けたまま固まっていました。


 なぜかマルホフさんとポーナさんも一緒になって。

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