表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
48/165

『ウンディーネさんとセイレーンさんの女王様 ①』

 ゲームの中でお会いした時と、全く同じ姿をしているセイレーンさん。


 見た目はエルフさんにも似た整った顔立ち。

 美しいの一言に尽きます。


 海のような碧い瞳が、とても印象的なんですよね~。


 ただ、ゲームと少し異なるのは気品と言いますか、オーラが格段に違います。

 風に揺れる金色の髪も、青みがかった大きな翼も……。


 そのセイレーンさんですが、港に集まっている男性のエルフさんとお話をしていました。


「本当ニ、オラヌノカ?」


「嘘など吐いておりません。自分はこの町のギルドマスターになって、1年ほどと日は浅いですが、拠点登録している冒険者のことなら全て把握しております」


「フム、ソウカ。ナラバ、他ニ誰カ知ラヌ者ハオラヌカ?」


 そう言って、セイレーンさんは集まった人たちに向け視線を落とします。


 誰かを探しているみたいですね。

 わたしと同じです。


 まあ、わたしは見つけてしまったのですが……。

 ギルドマスターさんと名乗っていたエルフさんの隣に、受付をしている女性のエルフさんの姿を!


 さらにそこにはポルトヴィーンの神官さんもいました。


 さて、ではちょっと行ってくるとしますか。


「達成証明書を渡してくるので、シュヴァルツさんとフウカさんはそこで待っていてくださいね」


 こくりと頷くお二人に手を振り、わたしは受付のエルフさんの元へと足を運びます。

 かなり込み合っているので、たまに肘がぶつかりそうになりました。


「おっと、危ない」


 身の危険を感じたわたしは、フードを深くかぶります。

 

 そしてなんとか辿り着き、受付のエルフさんに声を掛けようとしたのですが……。


「セイレーンの女王様!」


 わたしよりも先に受付のエルフさんが、セイレーンさんに向かって声を上げたのです。


 と言いますか、セイレーンさんの女王様ですって?

 あのセイレーンさんが??


 その事実に思わず目を丸くします。

 そんなわたしに気づく様子もなく、受付のエルフさんは言葉を続けました。


「貴女がお探しになっている冒険者は、恐らくウンディーネ様のことだと思われます」


「ウンディーネ……ダト? ハテ、カノ水ノ大精霊ナラ我モ知ッテオルゾ。オ主ハ我ヲ馬鹿ニシテオルノカ??」


「決してそのようなことはございません。水の大精霊様ではなく、人族で『ウンディーネ』と名乗る神官様がいらっしゃるのです」


 別に名乗りたくて名乗ったわけじゃないんですけどね。

 アレは事故のようなものですから。


 それはさておき。

 セイレーンの女王様は、わたしを探しているのでしょうか?

 だとしたら理由はなんですかね??


 ゲームの中ならまだしも、こちらの世界では面識がありません。


 それだけに、わたしは首を傾げます。

 一方で、セイレーンさんの女王様は受付のエルフさんの言葉に興味を示していました。


「ホウ、人族ノ神官カ。ウンディーネ……フム、名前ガ似テオルナ。我ノ探シテイタ者カモ知レヌ。シテ、ソノ者ハ何処ニ居ルノダ?」


「イールフォリオでございます。ウンディーネ様が拠点登録している町が、そちらなりますので……」


「山ヲ越エタ、アノ町カ。カナリ遠クニ居ルノダナ。彼女ニ頼ミタイトコロダガ、ソレデハ間ニ合ワヌカモ知レヌ……」


 そう言い残し、セイレーンさんの女王様はガックリと肩を落とします。


 その直後、今度はギルドマスターさんが再び口を開いたのです。


「セイレーンの女王よ。高度な回復魔法を求めるなら、カスタリーニの大神官殿を訪ねてみてはどうだろうか? 貴女の翼をもってすれば3日ほどで着くはずです」


 カスタリーニ(王都)からポルトヴィーンに向かう場合、船だと5日くらい掛かりましたっけ。

 それが3日で済むとは驚きです。


 やはりお空を飛ぶと、移動時間が短縮できるんですね。


 わたしは感心するように頷いていましたが、セイレーンさんの女王様は険しい顔をしていました。


「オ主、正気デ言ッテオルノカ? 今、ソノ航路ニハ……賊ガ出ルノダゾ??」


「わかっております。ですが、それ以外に方法がありません……」


 万策尽きたと言った感じで、ギルドマスターさんも肩を落としました。


 そこでわたしは受付のエルフさんに訊ねます。


「あの~、何かあったんですか? またセイレーンさんが怪我でもされたんですか??」


「いえ、セイレーンではなく、今度はクラーケンが海賊との戦闘で大怪我をされたそうです」


 クラーケンさんが?

 受付のエルフさんのお話に一瞬眉をひそめます。


「え? でも……治療のお願いに来てるのはセイレーンさんの女王様なんですよね??」


「セイレーンの女王とクラーケンは同盟を結んでいるんですよ。この町に住んでいるのに、そんなことも知らないのですか?」


 同盟を結んでいるっ?!

 にわかには信じられません。


 だってセイレーンさんとクラーケンさんは……。

 いえ、今はそんなことを考えてる場合ではなさそうですね。


 わたしはフードを脱ぎながら、受付のエルフさんに言葉を返しました。


「すいません。この町の住人ではないので……」


 視線が合うと同時に、受付のエルフさんは驚きの声を上げます。


「ウンディーネ様っ?! いつこちらに来られたのですか??」


「ついさっきです。あとコレ、アルマさんから達成証明書をいただいたのでポイントをつけてもらえると助かります」


 わたしは達成証明書を受付のエルフさんに手渡しました。


「は、はい。わかりました。ギルドに戻ったらすぐに処理させていただきます……って、そうではなくて! 今、どういう状況か理解されていますかっ?!」


「まあ、なんとなくは……」


 受付のエルフさんは怒っているような、それでいてホッとしたような複雑な表情を浮かべます。

 そんなやり取りをしているわたしたちの元に、セイレーンさんの女王様が船の上から舞い降りてきました。


 そして、わたしの両肩をガッチリと掴み目を見開いたのです。


「オオッ! ディーネ殿デハナイカ!! 会イタカッタゾ」


「ご無沙汰してます……と言いますか、なぜわたしがディーネだとわかったんですか?!」


 ゲーム内でのわたしは、大人の姿をしてました。

 それもナイスなバディをしたお姉さんです。


 でも今は、貧相な体をした10代半ば女の子。

 別人過ぎて、到底わかるとは思えません。


 それなのにセイレーンさんの女王様は、わたしが『ディーネ』であると気付いている様子。


「理由ハ解ラヌガ、随分ト幼クナッテイルヨウダナ。ダガ、コレ程莫大ナ魔力ヲ持ツ人族ナド、ディーネ殿シカ考エラレヌ。ソレニ……ソノ衣カラ我ト同ジ魔力ヲ感ジル。我ガ持ツ翼ノ羽デ編ンダ物ナノダロウ?」


 セイレーンさんの女王様は、わたしのローブを指さしました。


 確かにこのローブはセイレーンさんの翼の羽で編まれたものです。

 ですが入手した場所はエンシェントワールドであって、こちらの世界ではありません。


 ゲームで起きた出来事が、なぜ現実の世界に繋がっているのでしょうか?


 違和感を覚えたわたしは、セイレーンさんの女王様に訊ねます。


「えーっと、女王様はエンシェントワールドの出来事を覚えているんですか?」


「ウム、覚エテオルゾ。我ト、我ノ分体ハ、()()()ナル物デ繋ガッテオルカラナ」


 あー……分体って、ゲームに登場したセイレーンさんのことだったんですね。


 さらにリンクときましたか。

 それならエンシェントワールドでの出来事を覚えているのも理解できます。


 ただ、わからないこともありました。


「そうなんですね。でも、なんでエンシェントワールドに、ご自身とそっくりな分体があったり、その分体とリンクとかされてるんですか?」


「仮想現実ト言ッタカ。ソノ世界ニ、()()()ナ要素ヲ取リ入レタイト、創造神ガ申サレテナ。我ト同ジ体ヲ用意シタカラ協力シテ欲シイト頼マレタノダ。詳シイ事ハ良ク分ラヌガ、分体ガ得タ経験ハ我ノ記憶トシテ、シッカリ残ッテオル。勿論、ディーネ殿ニ救ワレタ事モナ」


 懐かしむように、わたしを見つめるセイレーンさんの女王様。

 でもすぐに真剣な表情に変わりました。


「再会ヲ祝シタイ所ナノダガ、今ハ急ヲ要スル事ガアッテナ」


「クラーケンさんのことですか」


「ウム。ディーネ殿、コチラノ世界デモ我ヲ助ケテ貰エナイダロウカ?」


 セイレーンさんの女王様は訴えかけるように強い視線をこちらに向けます。

 でもわたしは、そのお願いをすんなり聞き入れることができませんでした。


 なぜなら、セイレーンさんの女王様と出会った時の出来事を思い出していたからです……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ