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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんとドワーフさんからの報酬』

「へえ……木の精霊さんって、こうやってお食事をするんですね」


 アルマさん愛用の全長1メートルほどある木槌から、上半身だけ姿を見せた木の精霊さん。

 その木の精霊さんは、小さな両手で大きな木の実を食べています。

 とても美味しそうに、もぐもぐと……。


 身長はフウカさんと同じくらいですかね。


 木槌と一体化しているので正確なサイズはわかりませんが、恐らくそんな感じだと思います。

 ちなみに性別は女の子だそうです。


 興味深く眺めていると、隣でアルマさんが首を横に振りました。


「いんや、木の精霊だけじゃねーよ。ドワーフが契約している精霊は、だいたいこんな感じでメシを食ってるよ」


「え? そうなんですか??」


「ドワーフっつーのは、アイテムにしか強い魔力を残せねーんだよ。だからよ、エルフみたいに体ん中に精霊を宿せねーんだわ。体ん中にいりゃ、今回みてーなコトにはならなかったんだけどな。不便なこった」


 そう言いつつも、アルマさんは笑顔を浮かべています。


「アルマさんは木の精霊さんを大切に思っているんですね」


「相棒だからなっ。あたぼーよ! だからよ、ディーネの姐さんにはマジで感謝しんだ。報酬はなににすっかな。やっぱ金か?」


「そのことなんですけど……まずはこちらを読んでいただけますか?」


 そう言って、わたしはペドラさんに書いて貰った紹介状をアルマさんに差し出しました。


「ん? なんじゃこりゃ?! ペドラのオッサンからじゃねーか。いってえ、なんだっつーんだ……」


 手紙の文章を目で追うアルマさん。

 少しの間、お部屋の中が静かになりました。


 そして数分後……。

 アルマさんが驚きの声を上げたのです。


「なーにいっ? エリミアの姐さんの家がぶっ壊れやがっただとっ?! そんでもって、今の家の持ち主がディーネの姐さんって……コレ、マジなのか??」


「ええ、まあ。こんなことになってしまって大変申し訳ありません」


 わたしは深く頭を下げました。

 そのあとすぐに、お家を壊してしまったフウカさんも頭を下げたのです。


 そのフウカさんを見つめながら、アルマさんは深いため息を吐きます。


「はあぁぁ……ったく、しゃーねーなー。暴走なんて精霊と契約してりゃ誰にでも起きるコトだしな。解約しねーで死んじまった、エリミアの姐さんにも責任があるってもんよ。わーった、オイラがバッチリ直してやんよ」


「本当ですか! ありがとうございますっ!!」


「アリガトウ……ナノデス」


 わたしとフウカさんは、再び頭を深く下げました。

 お家の修理が決まり、笑顔になります。


 ですがアルマさんは、やや厳しい表情を浮かべていたのです。


「しっかし困っちまったなー」


「なにか問題でもありましたか?」


「できりゃあ、すぐにでも直しに行きてーんだけどよ。ソッコーで馬車を借りても、イールフォリオまで8日は掛かんだろ? 時間が経つと、どんどん家が傷んじまうからなー。そこをなんとかしねーといけねーな」


「それなら心配ないですよ。もっと早く移動できる方法がありますから」


「あー、フェンリスヴォルフかー。馬と比べりゃ確かにはえーな」


 アルマさんはシュヴァルツさんに視線を移します。


 いえいえ、もっと早く移動できる方法があるんですよ?

 それはあとで説明するとして、わたしは別のことが気になっていました。


「ところで、修理に来られるのはアルマさんだけですか? お家を建てる時に優秀なドワーフさんが数名いたと聞いたんですけど……他に誰か呼んだりしますか??」


「んなもん、オイラだけで十分だっつーの。そもそも弟子のヤツらはオイラに愛想をつかして国に帰っちまったからな、呼んでもムダってもんだ」


「お弟子さんとなにかあったんですか?」


「エリミアの姐さんが死んじまったあと、残りの金は次の買い手がつくまでいらねーって言っちまったもんだからよ。それが気に入らなかったみてーだ。中にはギルドに払わせろとか言ってたヤツもいたんだけどよ。姐さんがギルマスをしてたギルドに、んなこと言えねーだろ? オイラはすっげー世話になったんだからよ」


 アルマさんは義理堅いドワーフさんですね。

 でもそれ以上に驚くべきことがありました。


「え? エリミア様って……イールフォリオのギルドでギルドマスターさんをやってたんですか??」


「おうよ。ディーネの姐さんはしらねーのか?」


「はい。イールフォリオに来て、まだ日が浅いので」


「それじゃー、しらねーわな。ちなみにエリミアの姐さんの姉ちゃんはラドブルクで神官さまをやってんだ」


 姐さんのお姉さんって、ちょっとややこしい言い回しですね。

 ですがその人物には心当たりがあります。


「もしかしてそれって、エリサさんのことですか?」


「そっちはしってんのか。その姉ちゃんにも弟子が支払いを迫ってな。あん時はわりぃコトをしちまったなぁ」


 アルマさんは申し訳なさそうに頭をポリポリと掻いていました。

 その横で、わたしは目を丸くします。


 まさかエリミア様のお姉さんがエリサさんだっとは……。

 これまた驚きです。


 あれ? もしかするとエリサさんの隠し事って、自分がエリミア様のお姉さんであることなんですかね??

 別に隠すことでもないと思うのですが、そのあたりのことがちょっと気になります。


 でもそんなことよりも……。


「結局そのあと、どうなったのですか? 残金はそのままになってましたよね??」


「それな。アルファルムンにあった工房とか、アイテムなんかを全部売っぱらって金を用意したんだよ。それでもヤツらに払う金が足らなくてなー」


「それで愛想をつかされたと言うわけですか」


「そーいうこったな。無一文になっちまったけど、オイラは相棒さえいりゃあ、それだけでいいんだ。コイツと一緒なら、どこでも仕事ができっからよ。だからよ、ポルトヴィーンに拠点を移して、イチから出直したってワケよ」


 そう言ってアルマさんはニカっと笑いました。

 一方で木の精霊さんは、黙々と木の実を食べています。


 ただ、その頬は少しだけ赤く染まっていたのです。


 木の精霊さんもアルマさんを大切に思っているんでしょうね。

 お二人の関係に、とっても温かい気持ちになりました。

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