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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと翼を傷めたセイレーンさん』

 セイレーンさんの治療をするため、わたしたちはアルマさんのお家へと向かいます。


 ところが案内された場所は市街地ではなく、町から少し離れた丘の上でした。

 その理由はアルマさんの契約している木の精霊さんにありまして……。


『町の中よりも、自然の中で暮らしたい』


 ……と言う要望が、あったからだそうです。


 そしてその要望通り、丘の上にぽつんとたたずむ木造建ての一軒家が見えてきました。


 ほお、あれがアルマさんのお家ですか。

 どことなくわたしのお家に似てますね。


 遠目に見えるのは、別荘地にありそうなログハウス。

 同じドワーフさんが建てたのですから、当然と言えば当然です。 


 そのアルマさんのお家から250メートルほど離れたところで、わたしは足を止めました。

 そこで道案内をしてくれているアルマさんに声を掛けられます。


「ん? どーかしたか??」


「えーっと、ここから先はわたし一人でいきますね。セイレーンさんの魅了の範囲は200メートル程度なので、このくらい離れていれば問題ないはずです」


「いやまあ、そーだけどよ。ディーネの姐さんはどーすんだ?」


 ディーネの姐さん……。


 依頼を引き受けたあと、フウカさんに『ディーネ様』と呼ばれているのを聞き、何故かアルマさんに、そう呼ばれるようになったのです。


 しかし『姐さん』って、どうなんですかね。

 明らかにわたしの方が年下なのですが……。


 まあ、それはさておいて。

 怪訝な顔をするアルマさんに、わたしはニッコリ笑って言葉を返します。


「わたしなら大丈夫ですよ。シュヴァルツさんとフウカさんも、ここで待っていてくださいね」


「くぅーん……」


「ディーネ様、本当ニ大丈夫デスカ?」


「心配しないでください。わたしに魅了は効きませんから」


 恐らく不老不死(イモータリティ)の効果なら、魅了も無効にできるはずです。

 なにせ即死以外なら、どんな状態異常からでも回復できる、とんでもスキルですから。


 でも、それ以外にも対抗手段があったりします。


 その方法はあとでお伝えするとして、念のために……。


「バブルドーム!」


 わたしは遮音性抜群のお水の泡を作り出しました。

 すっぽりと包まれる()()を見て、アルマさんは目を丸くします。


「な、なんじゃこりゃーっ?!」


「お水の魔法で作った完全防音の防護壁です。この中にいれば、セイレーンさんの歌声は一切聞こえてこないので、決して出ないでくださいね」


「マジで水魔法も使えんのかよ。ディーネの姐さんはとんでもねーなー……」


「それほどでもないですよ。では行ってきますね」


 バブルドームに人が通れるゲートを作って、わたしは外に出ます。

 そしてすぐにゲートを閉じました。


 とことこ歩くこと100メートル。

 アルマさんのお家に近づくも、今のところセイレーンさんの気配はありません。


 本当にいるんですかね?

 思わず首を傾げます。


 さらに50メートルほど進むと、お家の中から物音が聞こえました。


 ガタッ、ガタガタッ。


 お? やはりセイレーンさんはいるようですね。

 ですが姿が見えないので、回復魔法を発動できません。


 視認しないと不発に終わるのが、回復魔法の辛いところだったりします。


 そんなことを思っていたら、突然お家の中から美しい歌声が聞こえてきたのです。


「ラ~ララララ、ラ~♪」


 アルマさんのお家まで残り100メートル。

 ばっちり魅了の効果範囲内です。


 でもわたしは構わず前に進みます。

 もちろん正常な状態で。


 すると今度はお家のドアが開き、セイレーンさんが姿を見せてくれました。

 これで回復魔法が使えます。


 わたしは安堵の笑みを浮かべますが、セイレーンさんはひどく驚いているようです。


「何故、オ前ハ……私ノ魅了ガ効カナイノダ?!」


 そう言って、再び美しい歌声を奏でます。


「ラ~ララララ……」


「何度やっても無駄だと思いますよ? わたしには()()がありますから」


 わたしは自分のお洋服の胸元を軽く摘まみ上げました。


「ソノ服ガ、何ダト言ウノダ?」


「このお洋服はセイレーンさんの羽から作られた糸で編まれたものなんですよ。あなたもセイレーンさんなら、この意味がわかりますよね?」


「魅了ヲ無効ニスル効果カ……」


 そう、このお洋服が魅了を回避できる専用のアイテムなのです。

 他にも幻覚や混乱なんかも防げたりします。


 精神攻撃に対して優れた効果を発揮するレアなアイテム。

 炎の杖やマジックバッグと同様に、わたしのお気に入りのひとつです。


 そんなお気に入りのお洋服を見つめながら、セイレーンさんは言葉を続けました。


「……ダガ、何故ソンナ物ヲ持ッテイル?」


「以前、あなたのお仲間さんを助けた時に羽をいただいたんですよ」


 もちろん、ゲーム内でのお話ですけどね。

 そのセイレーンさんに、羽には魅了などの効果を無効にすると教わりました。


「仲間ダト? 同族ガ人族ニ助ケラレタ事ナド……イヤ、女王様ガ命ヲ救ワレタト仰ッテイタナ。ソウカ! 貴女ガ、ソノ人族ナノダナ。コレハ失礼ナ事ヲシタ」


 え? それ、人違いですよ??


 そう言い返せる雰囲気でもなく、わたしはセイレーンさんの謝罪を受け入れることになりました。

 却って申し訳ない気持ちになります。


 ここは話題を変えたいところですね。


「そうそう! セイレーンさんも怪我をされているんですよね? 良かったら、わたしに治療させてもらえませんか??」


「良イノカ? ソレハ助カル」


 わたしはセイレーンさんに近づき、病状を確認します。

 どうやら翼と腕を痛めているようです。


 特に翼の損傷はひどく、羽を毟り取られた跡がありました。


 これではお家に帰ることはできませんね。

 飛べる状態ではないのですから。


 ふうと息を吐いたのち、両手をセイレーンさんに向けました。


「ではいきますよ。完全回復(フルリカバリー)!」


 白い光がセイレーンさんの傷を一瞬で癒します。


「コレガ女王様ヲ救ッタ回復魔法カ。オ聞キシタ通リ、実ニ素晴ラシイ魔法ダ。ディーネ殿、感謝スル」


「いえいえ」


 ……って、わたし自分の名前を名乗りましたっけ?


 記憶をさかのぼっても、どうも思い当たりません。

 問いただそうとしましたが、セイレーンさんは大海原の上空へと飛び立ってしまいました。


 まあ、セイレーンさんが元気になったので良かったです。


 わたしは満足した気分で、アルマさんのところに戻るのでした。

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