表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
30/165

『ウンディーネさんと魔法の熟練度』

「シャアアアーーーッ!!」


 深夜の町に響く、不気味な声。

 鳴き声の主は蛇山の王(サーペントキング)こと、バシリスクさんです。


 そのバシリスクさんの動向を調査していた冒険者さんのお話によると……。


「このままだと、奴は町に突っ込んでくるぞっ!」


 ……とのことでした。


 この緊急事態を受け、ギルド会館のホールには多くの冒険者さんたちが集まります。

 そこでウルガンさんから指示を言い渡されたのです。


「ブロンズランク以下の冒険者は町の皆を中央の広場に誘導して欲しい。残った者は僕について来てくれ。寝ぼけたバシリスクを叩き起こしに行こうじゃないか」


 そう言うと、冒険者さんたちが『おうっ!』と声を上げました。

 そこにはドーラさんの姿もあります。


「あれ? ドーラさんも行くんですか??」


「まあね。町の外は暗いから、炎魔法で周りを照らすのよ」


「なるほど」


「でさ……良かったら、ディーネも来ない?」


 予想もしなかった一言に、わたしはジト目でドーラさんを見据えました。


「それ、本気で言ってます? わたし……誰とも戦いたくないと言いましたよね??」


「いやいや、戦うとかじゃなくてね。神官として来て欲しいのよ。怪我人とか出るかもしれないでしょ?」


「そう言うことですか。でもそれなら、この町の神官さんが治療するべきではないですか?」


「この町の神官様なら、先行部隊に同行してるわよ。多分……役に立ってないと思うけど……」


「役に立ってない? どう言うことですか??」


「行けばわかるわよ……」


 理由を聞かされないまま、わたしはシュヴァルツさんを連れて町の入口へとやってきます。

 ドーラさんとウルガンさん、それと100人ほどの冒険者さんと一緒に。


 そこで大騒ぎをしている、女性のエルフさんを目にしたのです。


「ふえぇ、こっちに来ないでくださぁい! もう、無理ですぅ!!」


 白いローブをまとった、そのエルフさんは杖を振り回しながら、こちらに走ってきました。


「まさか、あのエルフさんが……」


「そう、ラドブルクの神官様。エリサ様よ」


「なんか逃げ回ってませんか?」


「だから言ったでしょ? 役に立たないって」


「あー、確かに……門の隅っこで、うずくまっちゃいましたね」


「エリサ様は、とても臆病な性格をしてるのよ。戦場に立つと、いつもあんな感じになるらしいの。父さんが嘆いてたわ」


 ドーラさんの言葉通り、頭を抱えるウルガンさんの姿が見えます。

 ウルガンさんは冒険者さんたちを連れて、先にお外に出て行きました。


 回復役さんが冷静さを失うと、パーティが全滅したりするんですよねぇ。

 ゲーム内でも、何度かそう言う場面に遭遇したことがありましたっけ。


 なんと言いますか……心中お察しいたします。


 ウルガンさんを見送りながら軽く一礼しました。

 それからほどなくして、次から次へと別の冒険者さんたちが町の中に入ってきたのです。


 先行部隊のエルフさんたちのようですね。


 それもバシリスクさんの攻撃を受けたのか、皆さん怪我をしています。

 その中のリーダーさんらしきエルフさんが、うずくまる神官さんに声を掛けました。


「エリサ様、治療を!」


「うう……無理ですぅ……」


 ぶるぶると震える神官さん。

 取り合ってくれる様子はなさそうです。


 ちなみに負傷している冒険者さんは8人います。

 中には石化が始まっているエルフさんもいました。


 仕方ありませんね。

 この町の神官さんがいる前で、やりたくはなかったのですが……。


範囲魔法発動レンジマジックアクティベート! 完全回復(フルリカバリー)!!」


 魔法名を告げると、白い光が冒険者さんたちを包み込みました。

 8人分なので、かなり大きな光です。


 ですが、治療する時間は1人にするのと変わりません。

 なのですぐに光は消えました。


 この様子を見ていた、ドーラさんが目を丸くします。


「今……何をしたの?」


「何をって、完全回復フルリカバリーですよ?」


「それは、わかってるわよ。でも今……全員同時に治療したわよね?」


「ひとりずつ魔法を掛けている時間がもったいなかったので、範囲魔法で完全回復フルリカバリーしたんですよ」


「範囲魔法って、普通は弱い魔法でやるわよね? それを完全回復フルリカバリーでやったの?! そんなことしたら魔力が尽きちゃうんじゃない??」


 不安そうに聞いてくるので、わたしはニッコリ笑いつつ、首を横に振りました。


「いえいえ、ドーラさんが思っているよりも、完全回復フルリカバリーは魔力を消費しないんですよ」


 別にドーラさんを安心させる為に嘘を吐いているわけではありません。

 完全回復フルリカバリーの消費魔力は本当に少ないのです。


 その秘密は『エンシェントワールド』のゲームシステムにあります。

 実はこのゲームには、経験値と呼ばれるものが存在しません。


 代わりに存在するのが熟練度。

 この熟練度が一定の数値を超えるとレベルがアップします。


 例えば剣士さんなら剣の技術を磨くことで熟練度が上がるのですが、斬ってばかりいると突き技が弱くなるそうです。

 レベルアップしても、弱体化する部分があるとか、ちょっと怖いですよね。


 チュートリアルを読んでいる時に、寒気がしたのは懐かしい記憶。


 でも逆を返せば、同じことをやり続けると、その部分が特化するのです。

 わたしの場合、事あるごと完全回復フルリカバリーを使っていたので、レベルアップの度に完全回復フルリカバリーの消費魔力が減っていました。


 気づけば小回復(ライトヒール)と同じ消費量になるくらいに……。

 ちなみに小回復(ライトヒール)の消費魔力は10です。


 魔法の熟練度を上げると、魔力量の基礎数値も上がります。

 さらにレベルアップ時に得られるスキルポイントを、ほとんど魔力に振っていたので魔力の最大値がレベル100の時点で1万を超えてました。


 つまり、完全回復フルリカバリーに限って言えば、1000回くらい使ってもわけないのです。

 なので……。


「お外に出て行かれた冒険者さんたちだけなら、全員まとめて完全回復フルリカバリーできますよ。まあ、10回くらいが限界ですけどね」


「10回も? 冒険者は100人近くいるのよ?! 流石にそれはウソよね??」


 本当のことを言っているのに、ドーラさんは信じてくれませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ