『ウンディーネさんと人族の英雄さん』
「ドーラさんは炎の精霊さんと契約しているんですね。それはどうしてですか?」
「ソレ……突っ込んで聞いちゃう? 天啓の話が出れば、そう言う展開になるから黙ってたんだけどね……」
「そ、それは申し訳ないことをした」
「なんか、すいません……」
わたしとグリエムさんは揃ってドーラさんに頭を下げました。
「別に謝らなくても良いわよ。町の皆は知ってることだし。あたしが炎精霊と契約したのは、父さんの影響よ」
「お父様の? では、ドーラさんのお父様も炎の精霊さんと契約しているんですか??」
「そうよ」
「父娘で炎精霊と契約するとは、ドーラ殿はエルフ族でも変わった家系なのだな」
このグリエムさんの言葉に、ドーラさんは首を横に振ります。
「いやいや、変わっているのは、あたしだけよ? 父さんは人族だから」
「ええっ??」
「なんとっ?!」
わたしとグリエムさんは同時に驚きの声を上げました。
「ではドーラさんは、ハーフエルフさんなんですか?」
「まっ、そういうことになるのかな。血はエルフの方が濃いんだけどね。見た目は人族の方が強く出てるの。ほら、あたしの髪って赤いでしょ? これは父さんからの遺伝なのよ」
「言われてみれば、赤い髪をしたエルフ殿など聞いたことがないな。しかし赤い髪の人族も………いや待てよ……」
そこまで話すと、グリエムさんは考え込むように頭を抱え始めたのです。
その数秒後、目をパッと見開きました。
「……もしや、ドーラ殿の父上は炎の剣術師のウルガン殿か?」
「なんだ、知ってたの」
「当然だっ! 燃えるような赤い髪をした人族などウルガン殿しかいないからな。我らが人族の間では英雄的な存在だぞ? 知らぬ者などいない」
グリエムさんは興奮気味に答えます。
あの~、すいません。
その英雄さんを知らない人がここにいるのですが……。
「ドーラさんのお父様は、そんなに有名な人なんですか?」
「有名もなにも、人族で初めてゴールドランクになった冒険者だぞ? ディーネ殿は知らないのか??」
「ええ、まあ。知らないから聞いているんですけどね」
「うーむ、それもそうだな。ウルガン殿は炎精霊と契約を交わせるほど凄まじい魔力を持った剣術師でな。上位種族と共にフレイムドラゴンを撃退した伝説の冒険者なのだ。後にも先にも、人族でゴールドランクの冒険者になった者はいない」
凄まじい魔力を持った剣術師さん?
ああ、天啓の時にお話されていた剣術師さんって、ドーラさんのお父様のことだったんですね。
しかしこれは困りました。
返す言葉がみつかりません。
「え? あ……そうなんですか。それは、すごいですね……」
「どうした、ディーネ殿? 顔が引きつっているぞ??」
「な、なんでもないですよ。あはははは……」
ゴールドランクで英雄とか伝説になっちゃうんですよ?
この状況で『わたしもゴールドランクの冒険者です!』なんて言えるはずがありません。
ここは笑って誤魔化すのが最善策だと考えます。
そう思っていたのに……。
「その情報も古いわよ。ディーネもゴールドランクの冒険者だから」
……と、ドーラさんがあっさり暴露してしまいました。
それに驚くグリエムさん。
「何っ? それは本当かっ?!」
「ギルマスのあたしが嘘を吐いて、どうすんのよ。ディーネは神官なんだから、別に不思議な話でもないでしょ? それに2日前、ディーネは単独でフレイムドラゴンを追っ払ったからね。実力は父さんよりも遥かに上よ」
「あの巨大な水魔法はディーネ殿によるものだったのか」
「え? もしかして見てたんですか??」
「ああ、丘の上からな。とんでもない水の魔法使いがいると思ったが、ディーネ殿なら納得だ」
うんうんと頷くグリエムさんを見て、少し恥ずかしい気持ちになりました。
なので話題を変えることにします。
「ところでドーラさんのお父様は、今どちらにいるんですか? リジェンさんを治療した時に、お家にはいませんでしたよね??」
「父さんなら、ラドブルクのギルドで働いているわ。忙しくて、たまにしか帰って来ないけど」
「もしや、ウルガン殿もギルドマスターをしているのか?」
「そんなに偉くはないわよ。ゴールドランクって言っても人族だしね。エルフの上には立てないわ。だからギルドでは副マスをやってるわよ」
「副ギルドマスターか! それでも凄いではないか。流石は伝説の冒険者だな」
「やめてよ。もう冒険者は引退してるんだから」
今度はドーラさんが恥ずかしそうにしてました。
そんなドーラさんに向かって、グリエムさんは深々と頭を下げたのです。
「ドーラ殿は人族の血が流れているから、私のような罪人にも良くしてくれるのだな。本当に有難く思う」
「勘違いしないで。あたしは父さんを見ているから、人族に対しては特に厳しく接してるのよ? グリエムを助けようと思ったのは、ハンターらに騙されてるって気づいただけ。あなたは罪人でもなんでもない。多分、父さんに事情を説明すれば、牢に入れられることもないと思うわ」
「それでグリエムさんの処罰をラドブルクに委ねたのですか?」
「まっ、そういうこと。イールフォリオだと周りの目があるからね。ギルマスとしては厳しい罰を与えるしかないのよ」
その言葉を聞いて、グリエムさんは再び頭を下げました。
「ドーラ殿にも、ディーネ殿にも、感謝の言葉しかないな」
「それは全部片付いたから言ってちょうだい」
「ですね。では、そろそろ出発しますか」
「ああ、そうだな」
休憩を終えたわたしたちは、山間の道に向かって移動を始めました。
そこで巨大なモンスターさんと遭遇するとも知らずに……。