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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんとマイホーム ①』

「こちらの鍵を返しておきますね」


 わたしはエリミア様のお家の鍵を、シリフィさんに渡します。


「エリミア様のお屋敷は、いかがでしたか?」


「とても素敵なお家でしたよ」


 まあ、見た目はログハウスでしたが……。


「そうですか。何か変わったことは、ありませんでしたか?」


「変わったことですか? うーん、少し気になったことなら、ありましたよ」


「何が気になったのですか?」


「誰も住んでいないと言うわりに、お部屋がとても綺麗だったんですよ。どなたか定期的に、お掃除されているんですか?」


「いいえ、そう言う方がいるとは聞いたことがありません。場所が場所だけに、行ける冒険者も限られますから。仮に、お掃除のクエストを出したとしても、引き受ける方は誰もいないと思います」


「ですよね」


 では誰が掃除をしているのでしょうか?

 謎は深まるばかりです。


 わたしとシリフィさんは考えこむように両腕を組みました。

 すると突然、シリフィさんが、ハッとした顔をしたのです。


「あっ、もしかすると……お屋敷のお掃除をしていたのは、エリミア様の従属精霊かも知れません」


「従属精霊さん? それって一般的に行われている契約と何か違いがあるのですか??」


「はい。通常行われている契約は、こちらから精霊にお願いするものであって、そこに主従関係はありません。ですが、稀に精霊から契約をお願いされる場合があるのです。この時に限り主従関係が生まれます」


 確か、精霊族は妖精族のエルフさんより、上位の種族でしたよね。

 それを考えると……。


「精霊さんからお願いされるとは、凄いお話ですね」


「エリミア様はハイエルフでしたから、それが可能だったのだと思います」


 なるほど、ハイエルフさんなら、話が変わりますね。

 立場としては精霊族に属するのですから。


 力の弱い精霊さんなら、従えていても不思議ではありません。


「でも契約って……相手がお亡くなりになっていたりすると、解除されたりしませんか?」


「本来なら、そうなりますね。ただ、主への想いが強いと、共に暮らしていた場所から離れられなくなる場合があると聞きます」


 では、あの時に感じた視線は、エリミア様の従属精霊さんだったと言うわけですか。


「なんだか切ないお話ですね……」


「そうですね。恐らく、お掃除していたのは名も無い低位の風精霊だと思います。綺麗好きな精霊と契約を結んだと、エリミア様がお話されてましたから」


 風の精霊さんと言うことは、掃除機みたいに、お掃除するんですかね。


 変わらぬ吸引……いえ、なんでもありません。


「なるほど、風の精霊さんなら、お部屋が綺麗なのも頷けます」


「それで……ディーネ様に、ひとつお願いがあるのですが、よろしいですか?」


「ウンディーネと呼ぶのはナシですよ?」


「違います! そう言った私事ではなく……いえ、これもある意味、私事になりますね」


「どう言うことですか?」


「主を失った精霊は、その寂しさに耐えきれず狂暴化するケースがあると聞きます。ですが誰かが傍にいれば、そのようなことは起きません。ですからお時間がある時だけで構いませんので、今後もエリミア様のお屋敷に足を運んでいただけないでしょうか? もちろん、ギルドから依頼料はお支払いします。私の個人的なクエストとして……」


 そう言うと、シリフィさんは深々と頭を下げました。

 切実なお願いなだけに、わたしも真剣に考えます。


「実を言いますと……このクエストが終わったら、イールフォリオから出て行こうと思ったんですよ。見ての通り、わたしは人族ですからね」


「そんなっ! ディーネ様は、この町の水の守護神(アクアガーディアン)です。人族であることなど、誰も気に留めません!!」


水の守護神(アクアガーディアン)としての実感はありませんが、町の皆さんが受け入れてくれていることは、わかります。それに、今はちょっと事情が変わりまして、イールフォリオでお世話になろうかなあ……とか思ってます。まあ、少しばかり問題があるのですが……」


「どう言った問題ですか? ディーネ様がこの町に残ってくださるのなら、なんでもします!」


 おお、それは心強い。

 では遠慮なく……。


「シリフィさん、こちらに来てもらって良いですか?」


 わたしはシリフィさんに手招きをして、表へと誘導します。

 そして外に出ると、シリフィさんはポカンと口を開けたまま、固まりました。


 シュヴァルツさんを見上げたまま。


「ディーネ様……これは?」


「シュヴァルツさんです」


「シュヴァルツ? この黒いフェンリスヴォルフには個体名があったのですね」


「いえいえ、個体名がわからなかったので、わたしがお名前をつけました」


「え? あの気高きフェンリルの一族が、神族以外の名付けを受け入れたのですか??」


「よくわからないですけど。そうみたいです。ね、シュヴァルツさん」


「わおん♪」


 可愛くお返事しながら、シュヴァルツさんはコクリと頷きます。

 その一方で、シリフィさんは戸惑った様子を見せていました。


「そ、それで……問題と言うのは?」


「シュヴァルツさんと一緒に暮らそうと思うのですが、どこかに良い物件とかありませんか?」


「暮らす? このフェンリスヴォルフとですか?!」


「ダメですか?」


「な、なんとかします。いえ、絶対になんとかさせます! その前にドーラさんに報告させてください」


 シリフィさんは、慌ててギルド会館に戻ります。

 それから数分後……。


 今度はドーラさんが、ポカンと口を開けてました。


「ディーネって、魔物使い(モンスターテイマー)だったのね」


「いえ、神官さんです」

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