表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
10/165

『ウンディーネさんと湖の調査 ②』

 まさかここがエリミア湖だったとは……。


 池と化した湖を見て、わたしは驚きを隠せずにいました。

 信じられませんが、事実なんでしょうね。


 地図がそれを証明しています。


 さらにシリフィさんから預かった鍵が決定的でした。

 ログハウスのドアが開いてしまったので……。


 あのお家は紛れもなく、エリミア様のお屋敷のようです。


 でもまあ、この状況なら水不足にもなりますよね。

 水位など図るまでもありませんから。


 一応湖の周りを一周してみましたが、水たまりがあるのは中心部のみのようです。

 それと湖の右端に溝のようのものがありました。


 恐らくこの溝が、川に続いているのだと思われます。

 中心部にあるお水は、その溝にギリギリ届く感じです。


 このままでは、町に流れている川が、もっと細くなることでしょう。


 うーん、これは困りましたね。

 報告とかしている場合では無いように思えます。

 

 ならばやるべきことは、ひとつだけ。

 わたしは湖に向かって両手を伸ばしました。


「ウォーターボール!」


 名前の通り、何の変哲もない、ただのお水の球体です。

 ただし、その大きさは昨日生成した『デュアル・アクアシールド』の3倍ほど。

 なので直径が300メートルはあるかと思います。


 それでも、湖を満たすほどではありません。


「全然足りませんね。ではもう一度」


 同じ作業を何度か繰り返し、ようやく湖のお水が一杯になりました。

 なんとも言えない充実感。


 そしてわたしは思います。

 エリミア様も同じことをしていたのではないかと……。


 この湖はお水が溜まりにくい環境なんでしょうね。

 初めから、ただの池だったかもしれません。


 誰にも知られていないと言うのが、その証拠。


 そんな無名の湖をここまで大きくしたのは、他ならぬエリミア様のお水の魔法があったからこそ。

 湖の管理をしていたのも、水不足に対応するためだったと考えられます。


 なぜそうしたのかは、わかりません。


 ただ……フレイムドラゴンさんの襲撃だけでなく、色んな意味でイールフォリオの町を守っていたと思います。

 エリミア様は本当の意味で、真の水の守護神(アクアガーディアン)だったのです。


 ……などと湖に向かって祈るように両手の指を組んでみましたが、全てわたしの推測にすぎません。

 そうだったら素敵だなあ、と勝手に思っているだけです。


 それはさておき。

 立て続けに魔法を使ったからか、少しだけお腹が空きました。


 そこでバッグから、リンゴをひとつ取り出します。


 このリンゴは王都の食材屋さんで購入したもの。

 もちろん、ゲーム内のものです。


 果たしてその味は?


 もぐもぐもぐ……。

 歯ごたえはリンゴそのものですね。


 でも、味が全くしません。


 神様……現実世界での再現は不可能でしたよ。

 残念です。


 そう言えば、聖なる森(ホーリーフォレスト)にはブドウとかオレンジの木がありましたよね~。

 わたしの人生において、味がしないものなど、ドロドロのお粥だけで十分です。


 なので果物を探しに行くことにしました。


 来た道を戻ること数分。

 森の奥にオレンジの木を見つけます。


「これはこれは、美味しそうではありませんか♪」


 ワクワクしながら、オレンジの木に近づきました。

 ところが、どこか様子がおかしいのです。 


「あれ? あの枝……上下に動いていませんか??」


 それもかなり激しく。

 その枝には一際大きなオレンジの実がついていました。

 むしろこのオレンジに問題があるのかもしれません。


 と言うのも、黒い縞模様をしているからです。


 そもそもオレンジに希少種(レア)なんてありましたっけ?

 少なくともゲーム内では見たことがありません。


 しばらく眺めていると、枝の動きがピタリと止まりました。

 真相を知るため、わたしはオレンジを下から見上げます。


「こ……これは! キラービーさんではありませんかっ!!」


 キラービーさんは、森に生息する巨大なハチさんです。

 ヴァイパーさんと同じく、毒を持つモンスターさん。


 オレンジだと思っていたのは、キラービーさんのお腹だったんですね。

 頭部が葉っぱで隠れていて、気づきませんでした。


 いやはや、お恥ずかしい限りです。


 さらに良く見てみたところ、キラービーさんは枝に挟まっていることがわかります。

 無理に動いたせいで、体中傷だらけ。


 これは放っておくと大変なことになりますね。


 そこでわたしはオレンジの木から数歩後ろに下がります。

 そしてキラービーさんが挟まっている枝に向かって右手を鋭く振り下ろしました。

 空手のチョップみたいに。


「ミズイタチ!」


 掛け声と共に、指先から刃渡り50センチほどのお水の刃が放たれます。

 このミズイタチも、わたしが編み出した、お水の魔法のひとつです。


 カマイタチをイメージして作ったので、ミズイタチ。

 我ながら安易なネーミングセンスだと思います。


 普段は薬草の採取などに使っていますが、その威力は十分。

 過去に氷の柱を切断したこともあるほどです。


 その威力が示す通り、枝は綺麗に切り落とされました。


 一緒にキラービーさんも落ちてきましたが、全く動きません。

 かなり弱っているようです。


 ならば、お次は……。


完全回復(フルリカバリー)!」 


 両手から放たれた白い光が、キラービーさんを包み込みます。


 もっと低位の回復魔法でも良いと思うんですけどね。

 治療するなら完全に治したいのです。


 それが神官さんのお仕事。

 少なくとも、わたしはそう思っています。


 やがて白い光は粒子となって消え、キラービーさんの羽が動き始めました。

 元気になったみたいですね。


 良かった、良かった。

 では……逃げるとしますか。


 プレイヤーさんを見たら襲ってくる。

 モンスターさんとは、そう言う生き物です。


 わたしはキラービーさんを見据えながら、後ずさりします。


 ところがキラービーさんは、わたしではなく、オレンジの木に向かいました。

 そして、オレンジの実をひとつ取ると、こちらに戻ってきたのです。


 そのオレンジは、わたしの足元に置かれます。


「え? もしかして……治療のお礼ですか??」


 信じられませんが、そうみたいです。


 驚くわたしを他所に、キラービーさんは再びオレンジの木の止まります。

 そこで新たなオレンジの実を手にすると、森の奥に飛んでいってしまいました。


 こんなことって、あるんですね……。


 このあと、キラービーさんからもらったオレンジを食べてみました。

 甘酸っぱくて、とっても美味しかったです♪


 魔力だけでなく、心も満たされました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ