勇者と地と風
「真也! そっちは任せたぜ!」
「あぁ!」
白銀が聖の身体強化に身を包んだ三枝と、ノームに向かい立つ。
「やっぱり勇者なら女の子みたいな精霊より、こういう化け物相手がいいよね」
見上げる程巨大なノームを相手に軽口を開く。ノームはそれを見下ろして、
「ばけもの? どこどこ?」
子供のような反応をして、キョロキョロと辺りを見回している。
「うーん? なんかキモ可愛い?」
ワームのような醜悪な見た目をしているノームだが、そこから発せられる声が少年のように高く、見た目とのギャップが激しい。
「……違和感がすごいな」
「むー。どこにもばけものなんかいないじゃないか。僕をだましたなぁ?」
「はぁ……三枝、援護を頼む」
「任せて!」
『--無敵の戦士』
白銀を光の膜が包み込む。対抗戦の時と同じ魔法だが、込められた魔力が大きく向上していた。
『--光剣』
そして輝く光の剣が手に無手だった手に出現する。そして三枝が杖を掲げ、
『--神聖な聖域!』
範囲結界を構築した。辺り一体を覆うこの結界は、内にいる勇者一行の能力を底上げする。
個別の実力向上は勿論だが、この聖魔法によって勇者一行が得た力は大きい。
「いくよ!」
巨大なノームの眼前へと駆ける。そして光の剣を下から上へと斬り上げた--
--ノームは光剣が触れる瞬間、弾けるように飛び散った。
飛散した土塊が白銀と三枝の体に付着している。
「うぅぅ……気持ち悪いです……」
「倒した……? いや斬った感覚はなかった……これは一体……?」
そして、辺り一体に声が響いた。
「その剣あぶない! 君やっぱり悪いやつだなぁ? 悪い奴には--こうだ!」
飛散した土塊から硬化した棘が、無数に飛び出した。
「くっ!」
「きゃあああ!」
身体強化の上から貫いた土の棘は、かなりの魔力が内包されていた。
「くそっ! この土塊が全部お前か!」
「ふっふーん。そうだぞー。君たちなんかには負けないんだぞー!」
空間に響きわたる声に、耳を抑える白銀は、刺さっている棘を抜きながら、魔力を練り上げていた。
「この土塊が全てお前だというのなら--こういうのはどうだい?」
白銀の内で膨れ上がった魔力が、臨界を迎えて甲高い音をあげている。そして--
『聖なる棺桶!』
三枝が白銀とノームの飛散した土塊の大部分を範囲とした隔離結界を発動させた。そしてその直後--
『--極光爆発!』
白銀を中心に、結界内を埋め尽くす極光の爆発が埋め尽くした。連鎖するように爆発を続けるそれは、結界内を焼き尽くす紅蓮のようだ。
数十秒後、爆発が治まった結界内には、白銀の姿だけが存在し、土塊は跡形もなく消し飛んでいた。
「やったかな?」
三枝が近寄る。
「……離れろ!」
白銀が叫ぶとほぼ同時、ノームが巨大なワームの姿となって現れた。
衝撃で吹き飛ぶ白銀と三枝は、なんとか体勢を立て直して、ノームを見据える。
「少しいたかったかなあ。そんなにいたくはなかったけど、でもちょっとムカついたかも」
「ほとんどダメージはないらしい」
「あれでダメならどうすれば……」
--その時だった。他の大精霊たちのところで膨れ上がった魔力が、いくつもの砲となって射出された。




