ケタ違いの戦い
「セルフィ!」
『嵐の特異点』
巨大な嵐が数多の上位精霊を包み込むように展開された。その中心は台風の目のように静かだが、その中に入ることも、出ることも叶わない。
セルフィが拳を握る動作をすると、巨大な嵐が収縮をはじめた。
端に近い上位精霊が巻き込まれ、切り刻まれながら上空へと渦を巻いて舞い上がっていく。
実体を持たない精霊だが、魔力を介した攻撃ならダメージを与えることができるのだ。
身体強化による物理攻撃では与えられないが、レーナがしたように魔法で凍らせた上で砕くなど例外はあるが。
「まだ死んでねぇ! 気をつけろ!」
イザベラが叫び、全員が警戒を崩さずに次々に魔法名を紡ぐ。
嵐が、煉獄が、氷河が上位精霊へと押し寄せる。しかし--
--炎を纏った嵐、複合魔法の炎嵐が上位精霊から放たれる。
『神聖な空間!』
アリスの鈴が鳴るような澄んだ声が響き、シルヴィラを包み込むように、聖なる膜が展開された。
炎嵐はその膜を突き破ることはできず、周囲を渦巻いている。
「今のうちに次を!」
「アリスちんありがとー! よーっし!」
アリスの言葉に全員が再び魔力を練り上げて、魔法名を紡ぎ、上位精霊へと攻撃を加えていく。
「キリねーなこれ」
「文句言ってる暇はないわよ!」
「ルウ達が倒すまでここはボク達で耐えるんだー!」
ガリっとルシウス特製の丸薬を噛み砕く。戦いはまだ終わらない。
◆
ルシウス、ネレイデス、ベイ、勇者一行は、世界樹へ向けて飛んでいた。ついに白雷隊の隊員達は飛行魔法を修得できなかったが、勇者達はできたようだ。
異世界での考え方に、どこか重要な部分があるんだろう。
(ルシウス、何故お主の仲間でなく、勇者とかいう奴らを精霊王のところまで連れていくのだ?)
精神を介してアグニがルシウスへ問いかける。
(精霊王はもちろんだが、大精霊も強い。アグニ程じゃないにしてもな。白雷隊のみんなは強くなったけど、まだ大精霊を相手にするのは厳しい。特に飛行できないのはな)
(それはそうだが、信用できるのか?)
(わからんが、信じるしかない。それに……同郷だしな)
(ほう?)
(まぁそれはいいんだよ。戦力を考えるとこう配置するしかなかった。それだけのことだ)
(そうか)
視線の先に、天を突くような世界樹が現れる。
「あれかい?」
白銀が問う。
「そうだ。周囲に光の玉が見えるだろう。あれが大精霊だ」
世界樹の周りには、一定の間隔をあけて各属性の光の玉が浮いていた。
上位精霊とは比べものにならない魔力を放つそれは、一行の接近を感じてか、輝きを増して何かを象りはじめた。
「水のウンディーネ、風のシルフ、地のノーム、光のルクス、闇のテネブラエ、そして我の後釜に収まった火のイフリート……やはり奴か」
ウンディーネとシルフは人族の女性を、ノームは巨大なワームを、ルクスは狼を、テネブラエは羊を、イフリートは二つの角を生やしたミノタウロスのような獣を象った。
「知ってる奴か?」
ルシウスが尋ねる。
「あぁ。元々我の下についていたやつなのだがな、思想が破壊に寄っている」
「何だそれ……精霊って危ないやつばっかなんか?」
眉をひそめてルシウスが問いかける。
「人の思い描く精霊がどうかは知らないが、平和を愛し品行方正……などと言える精霊はおるまいよ」
「貴様はどうなのだ。アグニよ」
ネレイデスの重い声が響き、肩に座るアグニが見上げる。
「我程平和を愛し、品行方正な精霊などおらんだろう」
「クハハハ! いきなり我に喧嘩を売った貴様がか? ならばそこらの精霊も平和を愛しているのではないか?」
からかうような口調で笑い、大きく口をあける。
「お前は無駄なことばかりよく喋るな。竜王よ」
「なんだと?」
ギョロリとネレイデスの大きな瞳が、アグニを睨みつける。
「目の前に大精霊がいるってのに、何してるんだい君たちは……」
呆れるように白銀が呟く。
「喧嘩は後にしろよ。今は相手が違うだろ」
ルシウスの言葉に、仕方なく威圧を解いて目の前の敵に向かい合う。
「よぉアグニ。トカゲの友達ができたみてぇだなぁ? それに随分小さくなったなぁ?」
イフリートがからかうようにアグニへ話しかける。アグニは面倒そうに
「お前は相変わらずのようだ」
「あぁ? どういう意味だ」
「お前の言うトカゲと同じで無駄な話が好きだ、と言っている」
「「なんだと!?」」
イフリートとネレイデスがハモり、くつくつとアグニが笑う。
「アグニ! テメェ殺す!」
「やはり貴様を先に殺すべきか」
「あぁあああもう! うるせえ!」
ルシウスの魔力が膨れ上がった。
「ふむ。今の相手は奴らだ。竜王よ、我らの戦いはまた今度だ」
「わかっておるわ」
イフリートがわなわなと震えて呟く。
「人間如きが、この俺にうるせえだと……?」
--纏う炎が蜷局を巻いて天へ舞い上がり、周囲へ熱波が押し寄せた。
「ちょっと! もっと離れてやりなさいよ!」
ウンディーネが腕で熱波を遮りながら叫ぶ。
「黙れ。こいつは俺がやる」
イフリートが空中で一歩を踏み出した瞬間--
「--消えろ」
竜咆がイフリートを襲った。轟と大気を爆発させて、イフリートは大地へとたたき落とされる。
「貴様の相手は我だ」
「頼んだよ」
ルシウスが世界樹へと進もうとする道を残った大精霊達が塞ぐ。
「おっと、僕を忘れてもらったら困るねぇ」
『魔力形成』
ベイの魔力が爆発的に膨れ上がり、魔力の嵐が吹き荒れ、大精霊達の表情に驚愕が宿る。
そしてネレイデスも同様に魔力が倍加する。二つの大精霊すら越える巨大な魔力の嵐が場を埋め尽くしていた。
「とんでもないね全く……」
白銀達勇者一行は、けた外れの魔力に自信をなくしながらも、同様に魔力を増幅させる。
「これは……遊んでいる場合ではないぞ」
羊を象った闇、テネブラエが大精霊へ警告を発する。
「そうみたいですね……」
そして大精霊達の魔力も膨れ上がった。ネレイデスがイフリートとテネブラエを、ベイがルクスとウンディーネを、勇者一行がノームとシルフと対峙している。
そしてルシウスが大精霊達の横を通り過ぎた。大精霊達は、眼前の強大な敵を前に、ルシウスに手をかける余裕がなくなっていた。そして--
--極限の力が衝突する。
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