精霊界
一年後--王都近くの森深くにある精霊門。その場所に、膨大な魔力を持つ者たちが集まっていた。
ルシウス率いる白雷隊、王国の魔術師隊、そして風竜シルヴィラ、竜王ネレイデス、エルフの村の戦闘員10名、吸血鬼の真祖カズィクル=ベイ、それに帝国の勇者五名。
本来ならば、一同に介すことなどないであろう埒外の戦力すら含まれており、精霊界に喧嘩を売るのに相応しい戦力だ。
「準備はいいか?」
ルシウスが皆へ問う。それに対して、全員が静かに頷いた。
それを見たルシウスが、精霊の涙へ魔力を流した。精霊の涙が輝き、眩しい程の光を発する。
それに呼応するように精霊門が現れ、精霊界への門を開いた。
「いくぞ!」
ルシウスが精霊門へと消えていき、それに全員が続いていく。後には輝く精霊門だけが残っていた。
◆
精霊門に入った先は、見たこともない巨大な木が林立する場所だった。その枝には色鮮やかな果実が生っている。
「ここが精霊界……」
初めて見る景色に一行が目を奪われていると、ポツポツとカラフルな魔力の玉がいくつも現れはじめた。
「下位精霊だ」
アグニが告げる。そしてルシウスが指示を出す。
「魔術師隊! ここは頼む!」
「「「「応!!」」」」
二十名から構成される、王国が誇る魔術師隊が魔法の詠唱をはじめた。
「いくぞ!」
魔術師隊に下位精霊を任せて、ルシウス達は先へ進む。行く手を阻んだ下位精霊を薙ぎ倒しながら。
巨大な木が林立した場所を抜けると大きな滝があり、膨大な質量の水を眼下に見える川へと叩きつけていた。
「ちょ……ボク達飛べないんだけど……」
「シルヴィラ頼む」
「はいはい」
シルヴィラの巻き起こした風が、白雷隊の隊員達をその背に運ぶ。
「うわわわ!?」
ドスっと音をたてて背に乗せると、翼を広げて滝壺へと落ちていく。
「「「ぎゃぁあああ!?」」」
絶叫をあげて、振り落とされまいと背にしがみつく。そして滝壺へ落ちる直前、急激に向きを変えて上昇する。
「「「うぉおおおお!?」」」
半端ではないGに悶絶する隊員達だが、鍛え抜かれた身体強化を駆使して、なんとか振り落とされずにしがみついていた。
「あれは?」
空を飛ぶ一行の先に、蜥蜴や水亀などが浮かんでいた。
「上位精霊だ」
それを聞き、ルシウスが再び指示を出す。
「みんな、シルヴィラ。ここは頼んだぞ」
「まっかせてよ!」
「ボクのスーパーパンチを見せてやるー!」
「やっと出番ね!」
「ルウ君、気をつけてね!」
「頑張ります!」
「相手にとって不足はねぇ。任せな!」
みんなの頼もしい言葉を背に受けて、ルシウス達は突き進む。
残っているのはルシウス、ネレイデス、ベイ、勇者一行だ。アグニはまだ召還していないため、肩に乗るアグニの欠片だけだ。
「精霊王はどこに?」
ルシウスがアグニへ問う。それにアグニが先へ視線を向けたまま答える。
「この先に世界樹がある。そこを六大精霊が守護している」
「そこに精霊王もいるんだな?」
「そうだ」
「よし、いくぞ」
更に速度を上げる一行。景色が背後へと流れていく。精霊界は途轍もなく広い。途中に現れる下位、上位精霊を消滅させながら突き進んでいった。
◆
『フレイムランス!』
『アクアスプラッシュ!』
『エアハンマー!』
魔術師隊が複数の属性の魔法を発動させる。王国の誇る魔術師隊は、練度が高い。
あくまで人の範囲ではあるが、下位精霊の対となる属性で的確に攻撃することで、確実に数を減らしていた。しかし--
「--くそ! 数が多すぎる!」
下位精霊はあまりに数が多い。ポツポツと現れていた光は、既に半球状の全天を覆い尽くしている。
「手を止めるな! 全てを滅する必要はない! 耐えきれば勝ちだ!」
先ほどまで一緒にいた、埒外の化け物達を信じて魔法の詠唱を続ける。
詠唱の必要がない精霊に対して、数名ずつ発動をずらすことで隙をなくしていた。
「魔力を回復しろ!」
たった今魔法を放ったチームが、魔力ポーションを飲み干す。
ルシウスの丸薬は割合回復のため、膨大な魔力を持つルシウス達には効果的だが、王国の魔術師隊レベルだと、特級の魔力ポーションのほうが効率が良いのだ。
瞬間的に回復した魔術師隊は、再び詠唱を開始する。
「気を抜くなよ! 誰も死ぬことは許さん! 最後まで戦い抜け!」
「「「応!」」」
◆
『夢心地の氷地獄』
マリーの放った魔法が周囲を空間を凍り付かせる。
「いっくぞー!」
『--女神の一撃!』
凍り付いた空間へ、地を付与した拳を振り下ろした。
空間を内にいる精霊ごと爆裂させる。そして、シルヴィラから飛び出していたレーナは自由落下を開始する。
「うわ、うわわわぁああ!?」
ポスっと滑り込んだシルヴィラの背に落ち、胸をなで下ろすレーナ。
「ふぃー! ありがとーシルちゃん!」
「いいけど、あんまり飛び出さないでよね」
「わかったわかったー!」
「じゃ次あたしがいくわよ」
『絨毯爆撃!』
ルシウスを模倣した魔法名を紡ぐと、空を埋め尽くすように炎球が現れた。
エリーが口角をあげ「喰らいなさい」と腕を振り下ろす--
--同時に空を埋め尽くす炎球が落ちてきた。
「うおっ! あっちぃ! エリー! ちょっと近すぎるんじゃねーか!?」
飛び散る火の粉からレウスが逃げ回る。シルヴィラは強固な鱗で守られており、この程度の火の粉でどうにかなることはない。
「っていつのまに!?」
既にレウス以外は身体強化を発動させており、火の粉程度ではダメージにならなくなっていた。
「俺も……『嵐の皇帝!』」
レウスの周りを嵐のような風が吹き荒れる。
「ちょっと! その風早く抑えなさいよ!」
嵐に髪を巻き上げられながらエリーが叫ぶ。
「レウス君……は、早く止めてー!」
「ご、ごめんなさい」
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