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白雷のルシウス  作者: がおがお
精霊の涙編
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解放

 天を轟かすような轟音が響きわたり、二つの砲が拮抗する。


 拮抗する破壊は球状に広がり、ガリオベラ山に空いた巨大な穴を削り、削ぎ、吹き飛ばす。


「ぐぅぅうう!」


 白雷の砲身で超加速し、自らを弾丸として射出したルシウスの攻撃は、アグニの護りすら貫く破壊力を持つ。しかし紅蓮の球は、その弾丸に拮抗している。


「ぐぅ……ぁぁああああ!」


 ルシウスが更に魔力を注ぎ込む。そして更に加速した弾丸が、拮抗していた紅蓮の球を--貫いた。


 弾丸は止まらず、ネレイデスの腹部へと直撃した。


「ぬぅ……!」


 一瞬拮抗するかに見えたが、体をくの字に曲げて穴の壁へと弾丸に吹き飛ばされる。


 爆裂するような音と共に壁へ罅を入れ、それでも勢いは止まらず、壁を削りながら奥へと突き進む。


 破壊は大地を揺らしている。そして、その破壊はガリオベラ山を貫通し、太陽の光が照らす大地へと飛び出した。


「ぐはっ……!」


 ネレイデスの腹部は大きく抉れているが、致命傷にはなっていない。


「はぁはぁ……」


 大地に伏しているネレイデスを警戒する。背後では巨大な穴を空けたガリオベラ山の一部が崩れて土砂が舞っている。


「……クハハハ! 我にこれ程の傷を負わせるとは!」


「これで納得してくれたか?」


「笑わせるな。この程度はすぐに治る」


 言葉通り、ネレイデスの抉れた傷が、ヴァレリア程ではないが、じわじわと回復していく。


(はぁ……仕方ない……長期戦は望むところじゃないからな……これが効かなけりゃ打つ手はないが……やるしかない)


「そうだと思ったよ……全力でいくぞ」


「早く見せろ。貴様の全力とやらを」


 ルシウスは雷と化した体で、一瞬でネレイデスへと近づき、手を触れる。


「む……?」


 バチバチと弾ける雷が鱗を焼くが、ネレイデスにとっては何の痛痒も感じない。


「死ぬなよ」


 呟きの後、魔力が爆発的に膨れ上がる。そして--


解放(リリース)


「これは……! 『黒化大地(二グレド=エルデ)!』」


 瞬時にネレイデスを、黒い大地が覆い尽くして硬化した。

 

 ルシウスを包む白雷と黒炎が、ルシウスを中心に極大の爆発を起こす。カッと閃光が走り、その後を白雷と黒炎が全てを飲み込む勢いで広がった。


 大地が大きく抉れ、一部が崩壊していたガリオベラ山すら完全に飲み込まれた。



----



 後に残るのは、所々が赤熱した荒野だ。その中心には、精霊化が解けたルシウスと、大地に伏したネレイデス。


「はぁ……はぁ……」


(くそ……これを使うと絶対に意識を保てないな……)


 そのまま倒れ込むように大地へと身を預けて、ルシウスは意識を手放した。その体は無理を押した反動で、至る所の血管が破裂して血だらけになっている。


「グハぁっ!」


 せき込むようにネレイデスが意識を取り戻す。その身を包む鱗は、黒化大地で護っていたにも関わらず、先の爆発で大部分が剥がれ、消し飛び、溶けていた。


 爆発に一番近かった右腕は、右翼と共に肩口から先が消滅している。


「……凄まじい魔法だ。認めてやる……ん? 何故貴様が倒れている……」


 眼下で倒れ、意識を失っているルシウスを見る。


「よくわからん人間だ……」







「ん……」


「気づいたか」


 頭上から響く、低く重い声に目を開く。覗きこんでいるのは、巨大な黒い鱗を持つ竜王--ネレイデスだった。


「うわぁぁああ!?」


 飛び起きて距離を置き、焦って無様なファイティングポーズをとる。


「何をしている?」


(あ、そうか。さっきまでこいつと……)


 状況を思い出したルシウスが警戒を解く。よく観察すると、ネレイデスの体の鱗は、所々が爛れたままで、治癒していない状態だった。


 ルシウスがネレイデスの傷を見ていると


「この傷か? 大した魔法だ。我の治癒でも治らんぞ」


「そうか……悪いな」


「いや、このくらいでないと我は認めなかっただろうからな」


 ネレイデスは何かを足下から摘まむと、ルシウスへと差し出した。


「これは?」


「精霊の涙だ」


「いいのか?」


「そういう約束だろう」


「いや、確かにそうたが、あれで勝ったのかと言われると……」


 ネレイデスは確かに深手を負って、一時的に意識を手放したが、すぐに意識を取り戻した。


 対してルシウスは、ネレイデスへ深手を与えたが、魔力を使い果たした反動で、意識を先程まで失っていた。


 生き死にという視点で見れば、間違いなくネレイデスの勝ちだろう。


「これ程の--しかも治らない傷を受けたのは初めてだ。かつて大精霊と戦った時ですらこんな傷は負わなかったのだ! クハハハ!」


 とても楽しそうにネレイデスは笑う。


「あなたがいいと言うなら、ありがたくもらっておくよ」


 ネレイデスに摘ままれていた精霊の涙を受け取る。大きな透き通るような碧の宝石のようなその中には、魔力が渦巻いていた。


「なぁ……もっと楽しい戦いをしたくないか?」


「精霊か?」


「……何故わかる?」


「貴様の肩に隠れているのは黒炎の大精霊(アグニ)だろう。確か精霊界をどうにかしたいと言っていた」


 隠蔽で消えていたアグニが姿を表す。


「よく分かったな」


「ふん……その人間が黒炎を使っていた時点で想像がつく」


「そうか。それと、我の契約者の名はルシウスだ。人間やら貴様などと呼ぶな」


「そうか。我はネレイデスだ」


「ネレイデス、頼めるか?」


 真剣な瞳でネレイデスを見つめる。彼の力は現大精霊を越えている。アグニに匹敵するその力は、恐らく精霊王に近いものだ。彼の力を得られれば、非常に大きな戦力になることは確実だ。


「……いいだろう。精霊との戦い、面白そうだ」


「そうか! 助かる!」


 これで大精霊以上に対する戦力が、ルシウス、アグニに続いてネレイデスで三人となった。


 魔法具のおかげで、解放を使わない限りはルシウスの継戦能力も解決している。確実に精霊界を攻める戦力が整っていっていた。



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