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白雷のルシウス  作者: がおがお
真祖討伐編
40/72

不死性

 ガリッと音をたてて丸薬を飲み込む。


「相変わらず魔力回復薬はまずいな……」


 ルシウスは睡眠をとったことで、ある程度魔力が回復していたが、完全ではなかった。だから魔力回復薬を使ったのだが、その味は慣れることがない不味いものだった。この丸薬の良いところは、固定値回復ではないところだ。

 体内の魔力に干渉、活性化することで回復を促す。つまり人並み外れたルシウスでも、割合で回復するようなものだ。


魔力探知(マナサーチ)


 ルシウスは漆黒の森上空まで飛ぶと、魔力探知を全域へ広げた。そして、悪い予感を証明するように、真祖の禍々しい魔力反応を見つける。


「くそ……」


 自分がきっちりと跡形もなく止めを刺していれば、と唇を噛み、出血が顎へと流れる。


 そして、魔力反応が動いていることに気づく。そしてその向かう方向は、王都だった。


「行かせるか!」


 光の尾を引きながら、ルシウスが魔力反応へと向かう。



 ヴァレリアは再生した後、周辺の魔物を喰らった。そうすることで魔力を補充しているのだ。本来は人の血が一番なのだが、ここにはいなかったのだ。

 しかし、今夜は満月。無理矢理拡張されたヴァレリアの魔力炉は、月光を浴びることで急速に回復していた。


「足りない……」


 ヴァレリアは歩を進める。空からは、まだ満月の月光が大地を照らしていた。吸血鬼(ヴルコラク)の夜はまだ明けない。


 ヴァレリアは道中の魔物を喰い荒らしながら、王都へと文字通り真っ直ぐに突き進む。

 猪型の魔物を視界に捉える。ヴァレリアの姿を見ると、何にでも突進する習性のある魔物が脱兎のごとく踵を返して逃走をはじめる。


 しかし、既に展開されているヴァレリアの暴食(グラトニー=)の闇(オプスキュリテ)に捕まり、闇に沈んでいく。


 その時、上空から見覚えのある白砲がヴァレリアへと降り注いだ。


「ぬぅぅ……!」


「ホントに生きてやがったか……詰めが甘いな、俺は」


「殺す…殺してやるぞ。人間」


「……満月の下でやるのはきっついな」


 ヴァレリアの魔力が高まっていく。そして魔法名が紡がれる。


漆黒の血(ノワールブラッド)


魔力炉=(アクティルス)臨界起動(オーバーロード)


 ルシウスは、膨れ上がるヴァレリアの魔力を見て、昼間とは別物だと感じていた。

 魔力自体が増えるわけではないようだが、その効果自体が増幅されている。昼間のままでは倒せないだろうと。

 故に無理を押した。魔力炉臨界起動の魔力変換効率を1:2から1:3へと書き換えた。体へかかる負荷はこれまでの比ではないが、ルシウスの魔力が増幅されて500万に迫る。それは命を削る魔法だった。そして強化の魔法名を紡ぐ。


覚醒強化(アウラザルエンハンス)-雷火(=トニトルスイグニス)


魔法属性=雷火

形状=纏

特殊=麻痺 火傷

魔力減衰=2

持続魔力=720

強化=14000×2

魔力=2592000

速度=4000×2


 これまでで最大の強化。使用する魔力も、魔力制御も尋常なレベルではない。いくらルシウスと言えど、いつ暴発してもおかしくない状態だった。

 しかし、満月の下でこの真祖と戦うとはそういうことだ。無理を通さずに勝てる相手ではない。


「ガぁああ!」


 体に走る痛みを無視して、ルシウスがヴァレリアへと駆けた。無意識下で腕へと雷炎が収束される。それを砲身と見立て、拳が加速。埒外の速度へ到達した拳が、雷神と見紛う破壊をヴァレリアへと見舞う。


暴食(グラトニー=)の闇(オプスキュリテ)


 ヴァレリアから、イザベラ達の極大魔法を喰らった闇が更に溢れ出す。そして腕を巨大化させるように纏わせると、雷神へと打ち出した。

 極大魔法のように全方位への攻撃ではないため、一点に収束させた闇は、満月の力も得ていることもあって、尋常ではない魔力濃度を持った一撃となっていた。


 雷炎と暴食の闇が激突する--稲妻(いなづま)が間近に落ちたような爆裂音が響きわたり、轟、と辺り一体を薙ぎ払う衝撃破が吹き荒れた。


 どちらもが限界を超えた人外の一撃。無事で済むはずがない。ヴァレリアは一見元通り再生しているように見えるが、その実、精神体にまで及ぶ人外の一撃によってダメージが体を蝕む。

 ルシウスの腕も血だらけになっており、体の至るところが魔力炉臨界起動による無理な負荷によって血管が破裂していた。


「殺す! 殺す殺す殺す!」


(頭イってるなコイツ……)


 ルシウスの魔力は無限ではない。そしていくら命を削って強化しているとは言っても、満月の力を得ている真祖を圧倒する程の余裕はなかった。


黒い森の(シュヴァルツヴァルト)棺桶(=コフィン)


 ヴァレリアの周囲に、黒の森が出現する。それはヴァレリアを囲むように乱立すると、内側の物質を押し潰すように爆縮する。

 収縮する瞬間、ヴァレリアは体に纏う闇を球状に広げて自身を内に隠した。


 メキメキ、と軋む音が聞こえるが、闇を破壊するには至らず、闇の膨張を抑えきれなくなると、黒い森が千切れるように弾け飛んだ。


「あれを弾き返すのかよ……」


腐敗(ニグレド=)の渦(ボルテックス)


「やば……!」


 足下にドロドロに腐敗した空間が突如として現れた。ルシウスはそれに足をとられると、すぐに魔法名を紡ぐ。


改竄の蜃(カルシフィケーション)気楼(=ミラージュ)!』


 ルシウスが足をとられたという事実が書き換えられ、ヴァレリアの背後にいたと書き換えたルシウスは、そのまま雷炎を纏う拳をヴァレリアのわき腹へと振り抜いた。


 バキバキと骨が砕ける音をさせて、ヴァレリアが大地を削りながら吹き飛んでいき、その体には雷炎が纏わりつくように波打つ。


 一瞬の静寂--そして、再びヴァレリアの魔力が膨れ上がる。


「どうなってんだよ!? 満月卑怯すぎるだろ!」


 真祖にとっての満月とは、心臓のようなものだ。元々不死性を持つ真祖だが、満月の夜はその不死性が極限まで高まる。生中なことでは、満月の下で真祖を滅することなどできはしない。


 濃密な魔力がヴァレリアから吹き上がる。憎悪が、殺意が、ルシウスへと叩きつけられる。


「これは……本気でやばいかもな……」


 戦いは更に苛烈なものへとなっていく。

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