アルベール王国vsオルデンブルク帝国3
「それでは中堅、前へ」
次はレーナとあの藤堂ってやつか。殴り特化の拳闘士とガチガチの聖騎士、面白い戦いになりそうだ。
「中堅戦----はじめ!」
『聖なる鎧』
『大地の女神』
どちらも身体強化からは定番になったな。それにしてもレーナの魔法名は短くて、発動速度が早いな。深淵のことを考えてもいいと思う。俺の魔法名長いからなぁ……でも短くすると、うまくイメージに繋がらなくて効果が落ちるし、難しいところだ。
「いっくよー!」
レーナが強化された体で強く踏み込んだ。そして弾けるように藤堂へと迫る。対して藤堂は、続けて魔法を行使した。
『天撃』
藤堂のメイスに光が集まり、魔力が収束していく。メイスを振り上げ、レーナの拳に合わせて振り下ろした。
ガァン!とおよそ拳が出すとは思えない音を響かせて、二人ともが弾かれる。
「強いねー!」
「……あなたも」
二人は笑いあうと、再び肉迫して互いの武器を叩き込む。その度に爆裂するような音をさせながら攻防を繰り広げている。会場内は二人の戦闘に沸いている。
「うりゃー!」
「まだまだ……!」
レーナが動き回り、四方八方から攻撃を仕掛けている。それに対して藤堂は最小の動きでほとんど動かず、聖騎士らしく確実に攻撃を防いでいる。ただ、反撃する余裕まではないようだ。
「そこ!」
ガキィという音で頭上から狙った拳が弾かれる。しかし、藤堂の盾に罅が入っている。
「とっておきだー!」
『女神の一撃!』
「なっ!?」
レーナのあれは魔法名言ってるけど別に魔法じゃない。単純に全魔力を拳に集中してるだけだ。魔法を発動させるわけじゃないので、魔力制御の難易度は多少下がっている。当然威力も魔力消費に見合ったものだ。
敵に当たると同時に魔力を解放するからレーナはあれを打ったら何もできなくなるだろう。だが、あの聖騎士の護りを貫くには悪くない一手だ。
「くらえぇえええ!」
レーナが飛び出す。それを藤堂は盾を構えて迎え撃つ。そして衝突--拳が出すとは思えない爆裂音をさせて藤堂の持つ盾を破壊した。
それでも勢いは落ちず、そのまま藤堂を捉える。
「くっ……ぐぁああああ!」
あんな勢いで人が飛ぶのか、という速度で藤堂は会場の壁へ吹き飛ばされた。
「ありゃ……まだ退場になってない?」
藤堂は衝突した壁を破壊し、そのまま倒れ込んでいる。まだ強制退場にはなっていないが、あの状態ならすぐに強制退場させられるだろう。
「あ、消えた。良かったー!」
ほらな。さすがにレーナの魔力全開の一撃をまともに喰らって耐えるには、あの聖騎士では足りないだろう。この先成長していけばわからんがな。
「中堅戦勝者----ラレーナ=ベルナベル!」
「勝ったよー……あ」
魔力を出し尽くしてレーナも限界だったようだな。あそこでもしもあの聖騎士がギリギリでも耐えていたら負けていたのはレーナだったかもしれない。
倒れかけたレーナをエリーが支えた。
「頑張ったわね」
「これであと一勝だな! 俺だけ負けちまってすまん……」
「まぁそう言うな。レウスも惜しかったさ。戦い方を少し変えれば勝てただろうし。またその辺も訓練しよう」
「そうだな……」
「それでは副将、前へ」
ついにエリーとあの梔とかいう男か。正直かなり厳しい戦いになると思う。あの男の剣技はかなりのものだった。
「副将戦----はじめ!」
『深紅の鎧』
『疾風の息吹』
梔は風の身体強化か……あの剣技に速度が更に倍加すると考えるとかなり厄介だな。だけどエリーもそれが分かっているのか、速度にかなり寄った魔法式になっている。よく考えているな。
「あんたはガキだが、さっきまでの奴らとは違うようだな」
梔の話にはつき合わず、エリーは次の手を進めている。
『炎の獣王』
魔法属性=火
性質=精霊
精霊格=150
覚醒=100
魔力減衰=2
発動数=1
魔力=7500
正に炎に包まれた百獣の王だ。その体躯は炎猫の優に数倍はあり、感じる魔力も比ではない。
そしてその手は正解だ。梔はかなりの使い手、普通に一対一をやっていたんじゃ捉えることは難しいだろう。少しでも手数を増やして気を逸らす必要がある。
「へぇ、やるなぁ。じゃあ、そろそろいくぜ」
『蜃気楼』
なるほど、魔法のほとんどは戦闘の補助に使うようだ。それほど自分の剣に自信があるということだろう。
「くっ……いきなさい!」
エリーが精霊を仕掛ける。獣王は一息に梔の元まで迫る。そして焼き切る爪を振り下ろした。
「悪くない手だ。だがちょっとばかし遅ぇな」
さすがに風属性で、更に速度寄りの身体強化の速度は速いな。獣王の速度も通常であれば十二分に通じるものではあるが、梔の速度には対応できていない。
『灼熱空間』
直接梔を捉えることが難しいと見て、広範囲魔法での削りに切り替えたか。梔の身体強化のレベルであれば大したダメージにはならないが、この会場内であれば確実にダメージを与えられる。
ここ限定ではあるが、捉えるのが難しい状況では最善ではないが、悪くない。ただ勝ちに繋げることも難しい状況だ。
『暴風』
こいつ本当に対応が早いな。僅かに火傷は負っているようだが、暴風でエリーの魔法を吹き飛ばしたか。だが、エリーの本命はこの後のようだ。灼熱で塞がれた視界を利用して、梔の背後に回っている。静かに、そして迅速に強化した拳を振り下ろし----空を切った。
「なっ!?」
ははは……あれを避けるのか。武道の達人ってのは厄介だな。エリーの手はかなり良かった。梔を相手にして勝つために短い時間でよく考えたと思う。しかし、それでも足りなかったか。
「惜しかったぜ」
そしてエリーの背後から閃光のような斬撃が走り抜けた。そしてエリーはその一撃を見ることなく、強制退場させられていた。
「く……ごめんなさい。勝てなかったわ……」
「気にするなよエリー。あれはかなりの達人だ。それに俺たちよりも年上だしな。エリーならすぐ越えられるさ」
「そうだよ! すごかったよエリー!」
「相手に合わせてうまく戦ってたように見えたぜ! さすがだな!」
「えぇ……。ありがとう。」
白雷隊のみんなはまだ十歳なのだ。梔は確かに強いが、みんななら越えられる。何せ目標はあの化け物だからな。今のレベルで満足してもらっちゃ困る。ビシバシ鍛えちゃるよ。
「まぁ、後は任せてくれ。俺が勝って終わりだ」
「ルウ、頼んだわよ」
「ルウがんばれー!」
「ルウ君、がんばってね」
「がんばってください」
「頼んだぜ!」
魔導師の戦いってのを見せてやろうかね。新米勇者さん、悪いけどこれは俺が勝たせてもらうよ。
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やっと対抗戦も佳境。次で最終戦です。ルシウスvs勇者!




