アルベール王国vsアルフォンソ国4
「それでは大将戦をはじめる。大将は前へ」
「ルウがんばれよ!」
「えいえいおー!」
「無理しないでくださいね」
「ルウ君がんばってね!」
「やり過ぎないようにね!」
うむ。エリーが正しい。俺はやり過ぎたらダメなのだ。まぁこの点についてはみんながやり過ぎてくれたし、白雷隊ができた時点で正直俺の気持ちの問題だ。いってしまえば陛下直属の部隊みたいなもんだ。そこらの貴族がちょっかいなんて出せるはずもない。
「準備はいいな?」
もちろんだ。ここに立つまでに準備は終わっている。そうじゃなければ出る資格がないだろうしな。アルフォンソ国の大将も気合いの入った顔をしている……というか女の子なのか。
「それでは大将戦----はじめ!」
『身体強化』
なんだ、詠唱破棄できるのか。やるじゃないか。それにしてもやっぱり魔法は女性のほうが向いてるんだろうか。
『突風』
ほう! 身体強化だけじゃなく、それに加えて自身の背後に風の魔法か。身体強化の数値以上の速度だ。方向転換は難しそうな方法だが、この子はセンスがありそうだ。確かエルネットって名前だったかな。
『風の翼』
エルネットは先ほどまで俺がいた場所を通り過ぎて止まった。
「飛行魔法!? くっ……」
やっぱり飛行魔法を使える魔術師は少ないのか。結構便利なんだけどな。なんで覚えないんだろう。さて、どうするかな?
『暴風!』
なるほど、風を乱して落とす気か。着眼点は悪くない。それに魔法の選択もいい。無駄に規模が大きくなく、すぐに発動できるレベルの魔法だ。あの子は実戦を想定していたのだろうな。ノロノロと詠唱をする魔術師だけじゃなく、戦士とか同じように詠唱破棄をする相手と戦う想定だ。
本当にセンスがある。白雷隊に欲しいくらいだ。さすがに他国の要になるような人材を引っ張るわけにはいかないが、強敵に育ちそうな気がするな。
『大地の棺桶』
頑強な岩が俺を包み込む。風魔法でこの盾を抜けるのはかなり難しいだろう。岩の隙間からエルネットが唇を噛むのが見える。実戦を想定した自分の魔法が通じず、苛立っているのだろうか。
だけど俺じゃなければかなりいい勝負になっていたかもしれない。属性付きの身体強化こそ使っていないようだが、それを別の魔法で補っているし、慢心せずに実戦を想定して詠唱破棄までモノにしている。
本当にいい人材だと思う。
『火炎の爆風!』
俺のすぐ側で空間が爆ぜた。その魔法は最小の範囲に威力が集中しているようで、大地の棺桶が半分ほど吹き飛んだ。
風が苦手とする地の魔法にも対抗できる魔法を用意しているとは、マジですごいな? しかも火との複合魔法。あの子は欲しいなぁ。なんとかならないかなぁ。
『突風の嵐!』
本当にすごい子だ……だけど、負けてやるわけにはいかないかな。それに、ここで勝ったほうがあの子はもっと成長しそうだ。
『氷の矢』
最小の氷の矢が瞬時に精製し、エルネットへ射出する。氷の矢はエルネットの身体強化を容易に貫いて胸へと突き立った。エルネットの魔法は、魔力が乱れて不発に終わった。
「く……くそ」
エルネット、君はよくやったよ。だけど君はもっと強くなる。いつか一緒に深淵と戦う日が来るかもしれないな。
「大将戦勝者----ルシウス=ヴァルトシュタイン!」
割れんばかりの大歓声だ。勝った俺だけじゃなく、健闘したエルネットを讃える声も聞こえる。いい試合だった。
「第一回戦の勝者は……」
その時だった。初戦のあの男が舞台袖からこちらへ向かって歩いてきた。なんだ? 虚ろな目をしている。嫌な予感がする。
「君、どうしたんだ? 降りなさい」
審判が声をかける。しかし男は何の反応も示さない。
「お前らが悪いんだ。お前らがボクを虚仮にするから」
逆恨みか。何をする気だろうか。
「死ね」
何か食べた? まさかお菓子のわけないだろうけど……いや、魔力が膨れ上がった? 何だ? 何をした?
「ぐぅ……ぐぉおおおお!」
爆発的に魔力が膨れ上がり、男の体が浅黒く変化していく。目が赤く、焦点が合っていない。
「まさか!? 魔人化か!?」
魔人化……聞いたことがある。原因は不明だが、実力の高い魔術師が稀に魔人化することがあると。こいつの場合は当てはまらないな。さっきなんか食べてたし、あれが原因だろう。
「逃げろ!」
確かかなり危険な相手だったと思うが、なんとかなるような気がする。まだなりかけみたいだし。
「グアアアアアアア!」
「何をしている! 早く逃げろ!」
とりあえず試してみるか。
『堕落の逆説』
「ガ……?」
浅黒く変色した男の肌が、肌色を取り戻していく。そして肥大化した体も徐々に萎んでいった。ついでに洗脳っぽいのもかかっていたみたいだ。
堕落の逆説でまとめて解除されてるけどな。
初戦の時は気づかなかったが、もしかするとあの時から洗脳にかかっていたのかもしれない。
相手は分からないが……どうしても帝国を疑ってしまうな。だけど恐らくこいつに聞いたところで黒幕に繋がる情報はもっていないだろう。
「な……何をした?」
魔人となったはずの男は、元通りの姿となって意識を失っていた。今回は目の前でなってくれたから間に合ったが、完全に定着したら元に戻すのは無理だろうな。そういう意味ではこいつは運が良かった。
「完全に魔人化する前だったので、引き戻してみました。どうやら洗脳もされていたようですね」
「そんなことができるのか!? いや……ありがとう。危機的状況だったんだが、君のおかげでみんなが救われた」
「いえ、ただ魔人化から無理矢理戻した影響で、体にかなり負担がかかっていると思います。医者に見せたほうが良いかと」
「ああ、分かった。伝えておくよ」
初戦の時はどうしてやろうかと思っていたが、洗脳されていたというなら話は別だ。自分の手は汚さず十歳の子を使ってまで王国に、俺に手を出してくるとはな。
「ルウ! 何があったの!?」
「あぁ、もう終わったよ。初戦のあいつ、洗脳されてたみたいだ」
「洗脳!? そうだったの……」
「それで魔人化? したみたいなんだが、それも多分洗脳したやつらの仕業だろうな」
「魔人化!? それ大丈夫なの!?」
「ああ。完全に変わる前だったからな。なんとか引き戻すことができた」
「そう……そんなことできるのね。じゃあもう大丈夫なのね?」
「大丈夫だ。ただ……黒幕が分かっていない。だから油断はできない状況だな」
「分かった。私も気をつけるわ」
「ボクも気をつけるよ! まっかせて!」
「そうだぜ! 俺らも白雷隊なんだからよ!」
「ルウ君、私も手伝う……!」
「できることがあれば言ってくださいね」
ホントにいいやつらだ。だからこそこんな危険な真似をしたやつを許すわけにはいかない。俺がいなかったらどうなっていたことか……
「少し邪魔が入ったようだが、ヴァルトシュタイン君のおかげでなんとかなった。途中になっていたことを進めてもいいかな?」
「あ、はい。お願いします」
「ゴホンっ……第一回戦の勝者は----アルベール王国!」
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