第1話 俺と幼馴染
俺、榊 真人は高校一年生だ。
これと言って特技もなく、好きなことは中学時代まで続けていたバスケぐらいだが、それを辞めてしまった今となっては、ラブコメをネットで読むことが数少ない俺の楽しみの一つとなっている。
今日も急いで家に帰って続きを読まなければ、そう思って帰る準備を始めた時だった。
なにやら、今まで散々騒がしくしていた男子達が途端に会話を止め、教室の扉の方へ視線を向けている。
何事かと思ってそちらを見ると、視線を集めているものを理解した。
正確に言うと、ある人物。そう、俺の幼馴染だった。
彼女、明瀬 夏音は俺の幼馴染だ。
幼稚園の頃から親同士の仲がよく、家も隣同士のため一緒に遊ぶことが多かった。
そのため、子供の頃から仲良しで、今でも下校は一緒に帰っているほどの仲を保ち続けている。
いつからだろうか。
そんな幼馴染の夏音をただの幼馴染だと思えなくなったのは。
中学の頃から、
「お前ら付き合ってんの?」
と、からかわれることもしばしばあった。
しかし、当時の俺は
「そ、そんなんじゃねぇし!」
こんなふうに恥ずかしがって強めに否定していた。
今になって思う。
そうだと言っとけよぉぉぉ。
まあ当時の俺はまだまだ子供だったのだ。
ただ、こうして疑われるうちに、だんだん夏音のことを意識する回数が増えた。
そんな中で、日頃の彼女の仕草や可愛い笑顔に惚れたのだろう。
もう友達としての夏音は俺の中からいなくなり、一人の女の子としての夏音が誕生した。
気づけば、一日中彼女のことしか考えられなくなっていた。
なにか起こるたびに夏音ならどうするだろうか?
などと考えてしまう。
もちろん、それが恋だということは当時の俺でも何となく理解していた。
この気持ちを伝えたい。
もしかしたら、夏音も俺のことを異性として意識してくれているんじゃないか。
そうやってうぬぼれたりもした。
でも俺に向けてくれる笑みを他のみんなにも見せていて・・・。
俺は夏音にとっての特別ではないのかもな。
思いすぎなのかもしれない。
でももし告白して、フラれたりでもしたらもう友達でいられないかもしれない。
何度もそう思ってこの気持ちを心の内にしまっていた。
もしこの気持ちを伝えられたらなぁ、そうやって妄想を重ね続けた結果、俺は幼馴染とイチャイチャする小説をネットに書き込むようになった。
いざ書いてみると思いの外すらすら書けるのだ。
俺は今までためていた妄想をネットに吐き出した。
主人公は自分の気持ちに気づくとすぐに幼馴染に告白し、付き合うことに成功、そのままデートに誘ったりして愛を育んでいく、という俺の理想像そのままで書いた。
一種の現実逃避である。
そうやってこれまで夏音に気持ちを伝えないまま過ごしてきた。
ところが最近、焦りを感じている。
なにせ彼女は、そう。
モテるのだ。
肩に当たらないくらいのボブと呼ばれるヘアスタイルの茶髪に、小さくきれいな顔立ち。
彼女の笑顔は太陽のように輝き、その笑顔を向けられると時が止まった気ですらする。
そして、なんといってもその人当たりの良い明るい性格から、男女ともに顔が広い。
特に男子に至っては、高校生活が始まって一ヶ月も経っていないのにすでにファンクラブができているほど、彼女は絶大な人気を誇っていた。
「明瀬さん、今日も可愛いなぁ」
「天使だ」
ほら、今だって男子達が夏音に見とれている。
「明瀬さん、今から俺らとカラオケ行かない?」
気づけばクラスの委員の男子(確か、竹本という名前)が彼女に話しかけていた。
竹本はサッカー部のイケメンでコミュニケーションが高い、いわゆる完璧超人というやつだ。
「ごめんね。今日は用事があるんだ」
しかし、彼女はその誘いを断った。
「そっか。じゃあ仕方ないね」
竹本は潔く諦め、帰っていった。
「あの竹本でもだめかぁ」
竹本と一緒にカラオケに行く予定だったやつらだろうか。
肩を落としてゆっくりと竹本の後についていった。
夏音はそんな様子の彼らを気にかけることなく、教室をキョロキョロ見渡している。
しばらくすると目を輝かせて俺に手を振ってきた。
途端に、今まで彼女に集まっていた視線が全て俺の方へ向けられた。
俺はものすごい殺気を感じたが気づかないフリをして席を立った。
「俺が明瀬さんの幼馴染だったらな」
「あいつ絶対許さねぇ」
「チッ」
おい、今舌打ちしたやつ誰だよ。
そう思って振り返るが、みんな知らん顔、といった様子だ。
犯人を突き止めて言いたいことがあるが今は人を待たせているので仕方なく諦める。
「もう、遅〜い」
夏音は俺が妬まれていることなど気づいていなさそうな様子だ。
そればかりか、ご立腹なのか少し頬を膨らませて睨んでくる。
俺、何かしたか?
だが、こうしてみると、、、
(怒った顔もやっぱりかわいいな)
実際には言えない本心を心の中で消化した。
「ごめん。ごめん」
そう謝ると、彼女はいつもの優しい表情に戻り、
「じゃあ帰ろっか」
そう言って、先に歩き始めた。
これを傍から見たら付き合っているように見えるのだろう。
実際そうだといいのにな。
そう思いながら一緒に帰るのだった。
次回に続きます。
次も見ていただけると光栄です。
また、作者は初心者なので誤字脱字等、いつでもご指摘ください。