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第1話 開幕と閉幕

「愚かなる人の子よ、これで幕引きだ。」


その目の前に迫り来る禍々しい存在は、両手を広げると紫色の光球を生成し始める。


「後悔する来世すら与えぬ。魂まで燃え尽きるがいい!」


そこで宣言通り幕引きかと誰しもが諦めて顔を伏せたが、思いもよらない光景が広がっていた。


「何故·····何故立っていられる!」


その攻撃を受け止め、仁王立ちする機神の姿がそこにはあった。その男は精悍な顔つきで禍々しい存在に叫ぶ。


「決まっている!オレはお前みたいに1人で戦ってははいない·····!絆の力が俺の武器であり防具だ!」


「訳の分からぬ事を!ならばその絆とやらごと捻り潰してくれる!」


「決着を付ける!行くぞ、アース・ガルド!」


そして両者の刃が交わり、決戦の火蓋が落とされた。


だがー


「なっ·····何ッ!?」


大地が突如として無くなり、落下の浮遊感に包まれる。


「何をした!?決着はまだー」



そして視界が暗転して







ーーーーーーーーーーーーーー






「ッ·····」


『ゴッ』という音が頭の内側で響き、鈍い痛みが後頭部を襲う。目を擦り見渡すと、そこは見慣れた寝室。後頭部にダメージを与えたフローリングの床に転がってる俺の横には乱れたベッドがあった。


「夢かぁ〜。」


今どきベッドから転げ落ちて夢から覚めるなんて、漫画じゃあるまいし·····と思いながら溜息をついた。


『本日は珍しく天気は良いですが、最近の地震、嵐の頻発具合は15年前の大災害再来の前兆という声もあり·····』


テレビから流れるニュースで一層現実感に包まれる。最近は悪天候続きだったが、今日は晴れという知らせのお陰で気が滅入るという事態を回避出来たのが唯一の救いだ。


「それにしても懐かしい夢だったな·····。」


今日見た夢は子どもの頃に見たロボットアニメ、「アース・ガルド」の最終戦のシーンだった。何度も見ていたので45歳の今でもハッキリ内容は覚えている。次回で決着が付くのに突然打ち切りになってしまったから余計に印象深かった。


「そんな事懐かしんでる場合じゃないでしょ!夢見る前に時計見て、ト・ケ・イ!」


「ユミ·····そう怒鳴るくらいなら起こしてくれよ。って·····もうこんな時間か!」


寝室のドアに仁王立ちする俺の1人娘、夢美ユミにボヤきながら時計を見て寝ぼけてた脳ミソが覚醒する。いつもなら電車に乗って会社に向かってる時間だ。


「いや色々試したけどさ、おとーさん全然起きないんだもん。遅刻しても知らないからね。」


俺は急いで寝間着を脱いでスーツに着替える。女子高生にとって父親の生着替えは見るに耐えないのか、横でユミがデリカシーがどうとか怒ってるが気にしてる余裕は無い。


「今なら全力ダッシュでギリ間に合う!行ってくるよ!」


「待っておとーさん!忘れ物!」


靴を履いてクラウチングスタートの構えを取るとユミが横から弁当の小包を差し出す。


「そうだな·····1番大事な物を忘れる所だったよ。いつもありがとうな。」


そう言ってユミの頭を撫でる。しかしユミは顔を赤くして頭の手を払って俺の体を玄関へと回れ右させる。


「もう!コドモじゃないんだからそういうのやめてよ!遅刻するよ、はいよーいドン!」


(反抗期かなぁ·····。)


ユミには苦労をかけている。父子家庭の我が家で家事を半分以上こなし、家計の足しにアルバイトもしている。その上、高校ではトップとはいかずとも成績も悪くない。それに比べ俺は普通のサラリーマン。


「そりゃストレス溜まって反抗期にもなるよなぁ·····。」


そんな事を思いながら駅へとスタートを切った。









神機創造アース・ガルド


第1話 閉幕と開幕










「何とか·····ゴホッ··········間に、あった·····。」


数年ぶりに全力で走った。大量の汗と息の上がりすぎで、傍から見ればまるで凄く体調の悪い人だ。しかし、そんなザマになるくらい急いだお陰で遅刻回避どころか少しだが始業まで時間がある。

俺は自動販売機でスポーツドリンクを買って喫煙所に向かった。


「あ、城崎課長おはようございます。って何でスポドリ?いつもコンビニのローストコーヒーなのに。」


「あー、そっとしてもらえると助かるわ·····。」


喫煙所に入ると数少ない俺を慕ってくれる部下と遭遇した。


「にしても、今日は珍しく天気いいっすねー。ずっとこの調子だといいんすけど。」


「そーいやそーだな。最近ずっと台風続きだったからたまには晴れてくれなきゃ商売上がったりだよ。」


「私生活すらままならないっすから。チラホラ怪我して長期入院、なんて奴も最近増えてますからね。」


「明日は我が身、だなァ·····。」


愛飲しているタバコに火を付けながら、ボヤきにボヤきを重ねる。うちの会社はネットショッピングを生業としている。その為、災害や異常気象で運送が止まると損害が出てしまうのだ。ここ最近、台風や嵐のような天気に加えて地震も頻発しているお陰で実際右肩下がり。倒産なんて事にならないでくれよと、不安が膨らむばかりだ。


「最近の嵐やら地震やらは15年前の大災害を思い出しますわ·····。」


「縁起でもねぇ事言わんでくれ·····。あれで何人くたばったと思ってんのよ。こういう時、アニメのヒーローみたいな存在になれたらなぁ·····。」


「まーた始まったよ、課長のヒーロー願望。そんなの現実にいるわけないんですから·····ほら、朝礼行きますよ。」


昔から困ったことがあればアニメの、アース・ガルドの主人公みたいになれたらと物思いに耽るクセがある。言ってしまえば妄想だろうが、そうやって物思いに耽るほど空を飛ぶアース・ガルドが見える気がするのだ。45歳になった今ではあんまり大声では言えないが·····。


「そうだな·····朝礼という名の現実に行くか。」


物思いに耽っていたせいで1口だけ吸ったタバコはほとんど灰になっていた。






「以上、今日も1日仕事に励むように。」


社内の部屋の中でも割と大きめのオフィスで行われる朝礼。定型文のようなお決まりの専務の一言で朝礼が終わる。「晴れたからやっと流通が回復するな」とか「明日にはどうせ崩れる」など話しながらそれぞれ仕事に取り掛かるべく解散する。


「城崎くん、ちょっといいか?」


俺も仕事に取り掛かろうと自分のデスクに向かおうとすると、専務に呼びかけられる。お偉いさんに話しかけられて、あがり症の俺はドキドキしながら振り返った。


「えーと、専務お疲れ様です。ワタクシでしょうか。」


「城崎くんはキミしかいないでしょ。話があるんだ。来てくれ。」


専務直々に俺に話?一体何の話だろうか。昇進?いやいや、このタイミングで昇進は無いだろう。まさかドラマのように極秘の特命とか?遂に俺も45歳にして特命課長になるんだろうか。などと、期待と困惑を抱きがら専務の後ろを歩く。


しばらく歩くと、専務の部屋に着いた。というか専務にまで書斎があるのかウチの会社は。普通は社長だけじゃないんだろうか。


「それで専務、お話とは何でしょうか。」


「·····。」


俺が急かすように切り出すと、専務は無言で机の上に封筒を置いた。


「これは?」


「·····。」


バツの悪そうな顔をする専務。数秒の静寂が訪れる。そしてゆっくりと言葉を紡いだ。




「退職金だ。」




その瞬間、俺は頭が真っ白になり、冷や汗と動悸が一気に襲ってきた。


「だ·····誰の·····退職金ですか?私に見せても·····仕方無いでしょう··········?」


「·····キミのだよ、城崎正義くん。今日付けで解雇だ

。リストラという奴だ·····キミ自身が悪い訳じゃない、本当にすまない·····。」


「お願いします!!私には高校生の娘もいる!」


「·····本当にすまない。最近の経営状況は知ってるだろ。こうするしか無いんだ、許してくれ。」


「家のローンだってまだ残ってるのに·····。」


「·····近い内に社長からも詫びがあるはずだ。他の人間には怪我で長期入院という形にしておくよ。」


もはや何も聞こえていなかった。こんな事になるなんて。ユミにはなんて説明しよう。そんな事ばかりしか浮かんでこなかった。


「あ、城崎くん!退職金を持って帰って·····仕方ない、振り込んでおくからな!」


真っ白な頭のまま専務の書斎を、そのまま会社を後にする。








「晴れて無職だよ。ユキ、これからどうすりゃいいと思う?」


「城崎夢希」と刻まれている墓石に向かって問いかけた。俺は会社を出た後、今は亡き妻の墓に来ていた。

最も、ここは15年前に同時に起きた大地震、大津波、雷、暴風·····通称「大災害」で亡くなった人間の共同墓地だから遺体はここには無いんだが。


「·····。」


当然返事は返って来ない。だけど、生きてればどんな反応をするかは容易に想像出来る。ユキは俺には勿体ないくらい出来た女だった。だからリストラされた事を攻める様な事は一切せずに、きっと


「『大丈夫大丈夫!また、新しい職場探してそこで頑張ればいいじゃない!マサヨシくんなら出来るよ!』とか言ってくれるんだろうなァ·····。」


ネガティブな俺をいつも引っ張ってくれた。それだけにユキが大災害で死んだ時は胸にデカい穴を抉られたような感覚になった。後を追う事も考えた。だけどー


「そうだよな、ユミだって頑張ってる。まだ高校生なのにな。なのに父親の俺がこんな所でしょげてたら駄目だ。そうだろ、ユキ?」


ユミがいたからユキが逝った後も頑張れた。母親の分も幸せにしてやらねば、という思いからの奮起。ユミがユキそっくりの顔という事もあり、片時もその思いを忘れずに頑張ってこれた。


「それじゃあ·····もう行くわ。お前のお陰でいつも道を間違えずに済んでる。次はユミと一緒に来るからな。」


さて、ここから再スタートだ。転職活動も一筋縄とはいかないだろうが、やってやる。


そう、決意した瞬間だった。まるでその決意を揺さぶるかのように、大地が激しく揺れ始める。


「なっ、何だ!?地震!?」


かなりデカい。あまり詳しくはないが、震度6は越えている気がする。激しすぎる揺れに耐えきれず、共同墓地の墓石が次々に倒れ始める。


これが墓石だけならまだ良かったが、この町で1番高い高層ビルが崩れ始めていた。共同墓地からは距離がかなりあるが、かなり大きい建物だからハッキリと確認出来た。


「これは、ヤバい!まさか、これは·····。」


俺も立っていられず、地面に転がる。嫌な予感が頭をよぎる。


『本日は珍しく天気は良いですが、最近の地震、嵐の頻発具合は15年前の大災害再来の前兆という声もあり·····』


『最近の嵐やら地震やらは15年前の大災害を思い出しますわ·····。』


「そんな、そんな事ってアリかよ·····!」


俺は地面に突っ伏したまま、携帯を取り出してユミに電話をかけていた。だが、


『ただいま、回線が混みあっております。申し訳ございませんが、しばらく経ってからおかけ直しください。』


「クソ·····なんてこった·····。」


頼む、無事でいてくれ。それしか頭に無かった。妻の次は娘まで失うなんて事になれば俺は何を支えに生きればいい?そう自分の中で問答しながらひたすらユミの無事を祈る。凄まじい地震で立つことすら出来ない俺にはそれしか出来なかった。


そして、そんな状況でバケツの水を被ったような冷や汗を流してる俺に追い打ちをかけるような現象が起きた。


「◻◻◻◻◻◻◻ーーーーーーーッッ」


「な·····なんだ、アレ·····。」


トカゲのような顔、身体は人型、背中には悪魔の様な羽根。目の前に、いきなりこの世のモノとは思えない10階建てのビルほどある巨大なバケモノが現れた。あまりにも突然過ぎて、今まで見えてなかったモノが急に見えたと言ってもいい。とにかく突如として現れたそれは威嚇するかのようにおぞましい咆哮を上げていた。


「◻◻◻ッ◻◻◻ッ」


「こ、こいつまさか·····。」


よく見るとバケモノは腕を地面に突き刺し、まさぐるような仕草をしている。俺は直感的にこいつがもしや災害の原因なのか?と、考えを巡らす。


「けど、俺に出来る事なんて·····。」


奇妙な光景が広がるが、地震は収まらず結局地面に倒れたままで何も出来ない。娘の安否も分からないが何も出来ない。出来ない尽くしで絶望に心を侵食された俺は、ここで死ぬ覚悟を決める。


「大した人生じゃ無かったが、いい女と娘に恵まれた事だけは至上の幸せだったな·····。ユキ、もうすぐそっちに行くわ·····。」


城崎マサヨシ45歳、地震と怪物という訳のわからない場面で死亡ーーー


俺がそんな下らないナレーションを心の中で呟いたその瞬間だった。


『でぇえええやああああ!!』


「◻◻◻◻◻◻◻ッッッ」


空から、巨大な何かが怪物にキックをお見舞いして吹っ飛ばす。やはり怪物が原因だったのか、怪物が吹っ飛ばされた瞬間に地震は止まった。


『ったくー。人がいない所に誘導したのに、なんで震源地にオジサンが1人うろついてんですか!?』


着地の体制から立ち直る『巨大な何か』。俺は目を疑った。その『巨大な何か』は俺がよく知っているモノだったから。


中世の騎士のようなフォルム


どんな怪物でも蹴散らす無敵のロボット


「アース··········ガルド··········?」


子どもの頃に見ていたアニメのロボット、「アース・ガルド」そのものだった。


『え?オジサン、ガルドが見えてるんですか?マジで?まさかの適正有り?あっでもこれ、「ミッドガルド」っていうんですよ。色が赤いでしょ?』


「えっ。あ、はぁ·····。」


ミッドガルドと呼ばれたロボットのパイロットだろうか。ロボットから気さくそうな少女の声が聞こえる。確かに、少女の言う通り色が赤かった。アース・ガルドは同じフォルムでもベースカラーは白だ。


『ちょっと色々説明しなきゃならないと思いますが、とりあえず安全な所にーーってキャアアアア!!』


「まだ生きてたのか·····!」


先程吹っ飛ばした怪物が猛ダッシュで戻ってきて体当たりをミッドガルドに当てる。完全に不意を付かれたお陰か、ミッドガルドは体勢を崩して地面に倒れてしまう。


『いてててて·····。』


その倒れた瞬間を怪物が見逃さないと言わんばかりに馬乗りになってミッドガルドの体を捕らえる。


『しまっ·····。』


少女の後悔が混じった声が聞こえるが、そのセリフを言い終える前に怪物はミッドガルドの腰を掴む。そして、地面が再び震え始める。


『ああああああああぁぁぁあ!!』


ミッドガルドから少女の悲痛な叫びが聞こえる。


「あれは·····ミッドガルドを震源地にして地震のエネルギーで攻撃してんのか!?」


あのままではパイロットの少女も危険だ·····。でも俺には·····何も·····。俺は再び自分の無力さに顔を下げる。思えばいつも俺は無力だ。


『おとーさん、授業参観があるんだけど·····。』

『本当にゴメン、仕事が外せなくて·····。』

『·····いーよ、仕事なら仕方無いもんね。』


ユミの事も


『退職金だ。』

『リストラという奴だ。許してくれ。』


会社の事も·····


『もう、ダメみたい·····。』

『そんな事言うなよ、ユキ·····。お前がいなくなったら俺は·····。』

『大丈夫、マサヨシくんは私のヒーローだから·····!アナタは私がいなくても大丈夫。でもアナタを必要としている子がいるんだから、こんな所で·····泣いてちゃ··········ダメよ·····。ユミを··········幸せに···············愛してる··········マサヨシくん··········』

『ユキ·····?ユキ·····!!』


ユキの事も·····!


「でももう、無力なのはゴメンだ!!」


俺は決意とも言える叫びを上げると、眩しい光と地震の中でもハッキリとわかる重厚な衝撃が走る。


「アース・ガルド·····!」


白銀の輝き。


気高き騎士の如きフォルム。


俺の叫びに答えるかのように、コックピットを開けたアース・ガルドが目の前に現れる。


『あれが、アース・ガルド·····ッ?どうして急に·····!?』


勿論俺も困惑が無い訳じゃない。しかし立て続けに起こる非現実的な体験で感覚が麻痺したのか、俺は考えるより先にアース・ガルドのコックピットに乗り込んでいた。


入り口は短い滑り台のようになっており、重力に任せて滑り降りるとそのまま操縦席に着席する。


「これは·····すげぇ、どういう事だ?」


操縦席の周りには様々な機械や操縦桿と思われるレバーの様な物が並んでいた。見た事無いような機器を目の当たりにして驚いたが、俺が「すげぇ」と声を漏らした理由は別にあった。


「手に取るように分かるぞ·····コイツの動かし方が。これなら·····!」


戦える。そう思った俺はミッドガルドを捕らえている化け物に向かって走り始める。


「喰らいやがれ!」


「◻◻ッ」


俺は叫びながら化け物の顔にアース・ガルドの右ストレートをお見舞いする。決定打にはならなかったが化け物は仰け反り、地震攻撃を止めてミッドガルドは拘束から解き放たれた。


「◻◻◻◻◻ッーー」


化け物が体勢を立て直し、激昂したかのような叫び声をあげる。すぐに反撃しようと構えるが、目の前にいたはずのアース・ガルドが姿を消していた。


「◻◻◻ッ!?」


化け物が周囲を索敵し始めたその時だった。後ろからアース・ガルドが化け物を羽交い締めにする。


「やっぱアース・ガルドのスピードっていうか機動力、アニメ通り尋常じゃないな·····。動きを捉えられたらどうしようかと思ったけど、お宅にとっても尋常じゃないようでホッとしたよ·····っと!」


羽交い締めにしたアース・ガルドはグルグルと回り、遠心力を付けて化け物を遥か上空に投げ飛ばす。


「◻◻◻◻ッッ!!?」


化け物が上空で叫んでいるのが聞こえる。投げ飛ばす力もまた尋常では無かったからか、雲が浮かんでいる高さまで飛んでいる。


そして、アース・ガルドは右腕を化け物のいる空に目掛けて突き上げる。その握り拳をゆっくりと広げると魔法陣の様な紋章が展開される。


「いや叫ばなくても出来るんだけど、こういう時くらいは必殺技の名前と合わせて決めたいよな。」


そう言うと魔法陣の中央から槍のような光が出てきて、


「グングニル・ストライク!!」


そのままレーザー光線のように上空の化け物に飛んでいく。


「◻◻◻◻◻◻◻◻◻」


化け物の腹部に見事命中する。化け物は痛烈な叫び声を上げると、奇妙な事にノイズが掛かったように徐々にその姿が「消失」していき、やがていなくなった。












「あー、やれやれ。とんでもない体験したな·····。」


コックピットから降りた俺はアース・ガルドを見上げて呟いた。実際、もしかしたらこれも夢なんじゃないの、と半分くらい自分の認識を疑ってる。


その時だった。携帯が鳴り始める。画面にはユミと表示されているのを見ると俺は慌てて通話ボタンを押す。


『あっお父さん!?やっと繋がった·····大丈夫!?』


「俺は大丈夫だ!ユミこそ怪我してないか!?」


『うん、大丈夫。私も初めて知ったんだけど、校庭に地下シェルターがあってそこに皆で避難したから平気だよ。』


そんなものがあったのか·····。今日1番でホッとした俺はその場に座り込む。そして、そのまま今日は休校になるよ、じゃあ気を付けて帰るんだぞ、と会話もそこそこに通話を終了する。本当はもうちょっと話していたかったが、リストラの件をどうやって伝えるか考えていなかったからボロが出る前に切った。


「とにかく色々ありすぎて頭が追いつかん·····。とりあえず俺も一旦帰るか。」


「待って下さい!」


家に帰ろうと踵を返した俺を誰かが呼び止める。振り返るとそこには明るいロングの茶髪が特徴的な少女がいた。娘と同じ年くらいだろうか。


「助けて頂いてありがとうございます。私はあのロボット·····ミッドガルドのパイロット、赤坂愛あかさかあいと言います。」


「お嬢ちゃんがあのロボットの·····。感謝してくれるのは嬉しいけど、オジサン今の一連の流れ何にもわかってないよ?ガムシャラにやってたら怪物撃退成功しちゃった!ってのが正直な感想でね。」


「えーっとそれなんですけど、何と言うか、今の事を踏まえて今後の話をというか·····。」


「いいわ、アイ。それについては私から説明するわ。」


赤坂さんがしどろもどろしていると、後ろからスーツ姿の女性が歩いてくる。


「初めまして、城崎正義さん。私は秘匿災害対策機関『ユグドラシル』の作戦本部長の緑川真奈美みどりかわまなみと申します。」


「えーと、こりゃご丁寧に·····。」


なぜ向こうが俺の名前を知ってるかは分からないが、緑川さんが名刺を出してきたので受け取る。


「色々とお話は長くなるけれど、結論だけ先に言わせてもらうわ。」


「·····。」


「あなたには今日からアース・ガルドのパイロットとして、ユグドラシルに籍を置いてもらうわ。」


「は·····はは·····マジか·····。」


何となく予想は出来てたが、渇いた笑いが出る。少年少女ならいざしらず、こんなオッサンにロボットのパイロット·····。アニメなら有り得ない展開だ。


「俺がロボットのパイロット·····?高校生の娘もいて、家のローンも払いきってないのに·····。」


「やって貰えないのかしら?」


「いや、やるよ·····。詳しい話を聞かせて下さい。」


「そう、良かった。では本部に案内します。」



こうして突然のリストラを食らった俺は、ロボットのパイロットというとんでもない職業へ転職する事になるのだった。




続く。

このように比較的長文での投稿になりますがよろしくお願いします。

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