護衛部隊
護衛部隊制服を着た三人が、途方に迷った末、火を焚いてこの壊れた倉庫の中で一晩を過ごしていた。
風は冬特有の寒さを持ち、肌が凍る。
皆余裕ぶっているが、焚火があっても寒いものは寒いのだろう。
鳥肌が立ち、吐いている息が白い、さらに食料もないためにかなり状況は苦しかった。
「くそっ!!!」
暗い空に、男の叫びが響く。
多少大柄で、その姿たるや威厳のある見事な護衛部隊なのだが、その怒りに囚われた姿は到底威厳を感じる事など不可能だった。
「落ち着きなさい...私達の今日の役目は侵入者の撃退、捕まえるのは一度撃退したのちに情報を集め正しい戦力で向かい捕まえる、十分なんですよ、今日は」
30半ばだろうか、それくらいの紳士服の男が落ち着いた口調で今回の結果を伝える。
どうでも良いからさっさと明日に備えて寝たいと伝えたかったみたいだが...
「はっはっはっ!呑気なこった!あの巨大魔法を撃てるくらいの魔法使いを逃して俺達は帰り道が判らない、詰んでるだろ!」
伝わりはしなかった。
そこに高校生くらいだろうか、このおっさんの中で一際目立つ戦うにしては美人過ぎる護衛部隊制服を着た女性がいた。
彼女は紳士服の男の言葉の意味を理解していた。
遠まわしに言うのも面倒だと思った彼女はストレートに言った。
「どうでもいいし、とりあえずさっさと話し合って明日に備えて体力温存しよーぜ。」
「そうだな...とりあえず本部に戻るにはどうするか考えるぞ。」
「うぃぃ~」「ふむ」
「まずここはどこだという事だ、それはあの魔法使いを撃退したのちに探索したから判ったな。」
「ヤミラジの森、闇のラジオみたいな感じで暗い話題が森の中に居たら聞こえてくるって所ね。」
「まぁ実際は、魔法使いが暗黒魔法についてこの森で集まり研究していたらそういう効果が付いてしまったという所だな。」
「どうでもいいです、そんな事より話すべきはヤミラジの森は本部からかなりの距離離れているという事でしょう。」
「この世界広すぎぃ~、てか広くしたの魔法使いじゃねぇのぉ~?恨むわぁ、というか連れてきたの魔法使いだわ~恨むわ~」
「ヴァイ、お前なら走って応援呼べるんじゃねぇか?」
「はぁぁぁぁ!?無理に決まってんだろ!俺はマラソン選手じゃねぇぞ。」
「マラ...まぁそれについてはどうでもいいでしょう。というか無理難題を吹っ掛けないでくださいリーダー」
「ちょっと場の雰囲気を悪くしちまったからな、軽いジョークさ。」
「とにかく」
男は指を一本立てて、とある方向を指し示す。
二人はその差された方向を確認する、するとそこには世にも奇妙な生き物?が眠っていた。
「今日はロックが暴れた、しかもあのでかさだ、王宮は情報を拾うのが速い、救援が来るまでここで耐えるぞ。」
「ヤミラジの森は王宮から遠いっつってるでしょ~、どんなに拾うのが速くても、情報網広くなかったら意味がないのよぉ」
俺ってなんでこんなに不幸なんだぁ~~~とヴァイは寝転がる、その時地面の冷たさが襲って来た。
冷てぇ!!!と言いながら起き上がって焚火にツッコミそうになるところをリーダーが引っ張る。
「王宮はロックを捨てられないんですよ、そういう情報には敏感です。」
「はぁぁ~クソみたいな真面目意見をありがとう~」
ヴァイはリーダーにありがとと声をかけて、手を放してもらう。
その時美しく手入れの施された金髪がゆさゆさっと揺れる、火につく。
・・・・・・・・・
「「へっ?」」
ヴァイはうわぁぁぁっと叫び水の所へ走る。
リーダーのファライアは彼女が水に突っ込み過ぎないように支えにいく。
この気温だ、一度体が冷えたら温かくなるのも時間の問題、最悪死に至る可能性もある。
「.....今度ショートにカットしてあげましょうかね。」
紳士服の男はとりあえず方針が決まった事をいいことに、非常用の魔法寝袋を起動する。
「ファライアァァァァァァ!!!!てめぇ絶対後で殺す!ごろずからなぁぁぁぁ!!」
「火に突っ込んだのはお前だろうがぁぁぁぁぁ!!!!俺に切れんなボケェェェ!!!」
二人の叫び声を聞きながら、紳士服の男は寝袋に入る。
寝袋の中はこの気温だというのに温かく、寝るには十分すぎる寝心地を発揮していた。
そして紳士服の男の意識はどんどんと暗くなっていき、眠った。
おまけ
「うぃぃ...しゃぶいよぉ...」
ファライアの寝袋で髪を拭いて、寝袋に入る。
しかし、ヴァイは顔を思いっきり水に浸かり、想像以上の寒さに見舞われていた。
「はいはい、焦ったらお前はすぐにミスを起こすからな、とりあえず落ち着いて眠れ、寝袋はしっかりお前を温めてくれるはずだからな。」
ここでリーダーは今日初めてリーダーっぽいことをした。
そう自画自賛を心の中で思った。
「でもこれ8時間しか持たないんでしょ~~....こんなに寒いのにぃぃ」
「それはしょうがないだろ、この性能を維持するのに必要なデメリットだ。」
さっさと寝ろと言ってファライアは立ち上がり武器を持つ。
ヤミラジの森は魔獣が出る、男二人ならそうそう嗅ぎつけてはこないのだが、女がいると奴らは恐ろしいほどの索敵能力を発揮するからな....
とりあえずは交代制で見張りをすることにしないとな。
「おい氷川、交代制で見張りをす...r...こ、こいつ...先に寝やがった...」
「俺が交代しようか?」
ヴァイは落ち着いたみたいで、いつもの感じで話せるようになったみたいだ。
「無理すんな、寝てろ、てかてめぇ一人とか怖すぎて寝れねぇよ。」
おまけ終わり
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魔獣についてはいづれまたお話しします。