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~異世界異聞録~ 縫物とマカロニ  作者: 雷明たいたい
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失ったもの

「マカロンなんていらないよ、そんなもんに金使うなよ。」



真っ暗な空の下の一軒家、周りには特に何もない。

あるとしたら畑だ、畑がそこら中に広がっている...


ド田舎だ、この何もない所で俺はひたすらに日常を過ごしていた。

風が窓を揺らして、木の葉が空に舞う。


そんな日々、退屈だ。

変化なんてない、ずっと...ずぅっと同じ光景、一生変わることのない光景


そんな時に、親父が東京から帰って来た。

俺は正直、ちょっと期待してたんだ....でも買ってきたのはマカロンだけだった。


もうちょっといいものは買えなかったのか?と思ってしまったがために、俺は親父が買ってきたマカロンを口にせずにそのままドシドシと機嫌を悪くして自分の部屋に戻った。



暗い部屋の中、壁に寄り掛かるようにしながらカレンダーを見る。


11/21 久の誕生日



「東京だろ?もっといいもん買って来いよな....覚えてないと思ってたよ誕生日」

俺が保育園の時に親父が家を出てから、俺には一通もメールが来ていなかった。


電話ももちろん掛かってこない、来るのは母親宛てだけ。

こんな親父が俺の誕生日なんか覚えてるわけないと思ってた、でも違った。


しっかり覚えてやがったんだよ、はぁ...


覚えてたなら何が欲しいかくらい聞いてくれればいいのに、マカロンとか誰得だ。

小さい頃に出ていったんだから、何が欲しいかなんて判らないだろ...全く



俺は立ちあがって、そのままベットに倒れ込んだ。

暗闇に包まれて、そのまま意識が遠のいていった....




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



朝起きたら親父はいなかった。

まぁどうせ仕事だろう、そう思って深く捜索はしないで制服に着替えて、朝飯を準備した。

冷蔵庫を開けたらマカロンがあったが、そのまま放置した。



ジッ----....

静かな家の中、パンの焼ける音だけが聞こえてくる。


この家に母は居ない、というより居なくなった。

写真を手を取り、思い出に浸る日々



事故だった。

そこからだ、俺が独りになったのは、そこからだ、俺が他人と深く関わらなくなったのは....



ある日の夜、旅行の帰りにお土産を俺の友達に渡そうと友達の家にお母さんと一緒に寄った。

母親の車に乗って、約30分だろうか、それくらいして、友達の家に着いた。


母さんは家の前に車を止めた後に、車から出ようとした。

しかし俺は、二人で行く必要もないと思って、一声かけた。

「母さんは待ってて、俺が届けてくるし。」


母を引き留めたのちに、お土産を持って俺は車から出た。


一瞬だった、俺が降りてインターホンを鳴らした時だった。


後ろで何か物凄い音がした、何かと何かが衝突した。

俺はお土産を手から落としてその状況をただ、呆然としていた。


友達が家から出てきて、その友達もその光景を目の当たりにする。



事故だったんだ。

母の車に知らない男の車が勢いよくぶつかって、母の車が思いっきり吹っ飛ばされた。


誰が見ても判った、素人の俺だって判ったんだから。

明らかに即死だった、死体を見てなくてもこの車の光景を見ればわかる。


あり得ない方向に車はへこんで、母の車にのしかかる感じで男の車がッ────チンッ


朝の眩しい日差しがキッチンの窓から入り込んでくる。

パンが焼ける音と共に俺は思い出に浸るのをやめた、パンを取りに行った時に母との旅行の時の写真が目に入る。


毎日、最悪な朝だ。


だけど、俺にも夢はある、それだけは終わらせてしまおう。

それだけ終わらせたら....死んでもいい


母親の元へ向かう前に、自分の中で誇りにできる事をする。

って毎回思ってても結局何も成長しねぇな。


ヘッっと自分の不幸笑い飛ばし、パンを手にとって頬張りながら家を出た。

緑豊かな畑近くの道を、自転車をゆっくりと走らせる。

朝の心地よい風と胸糞悪い思い出が混ざり、複雑な気持ちになる。


さぁぁぁぁ...っと畑の草が気持ちの良い音を出しながら風に靡かれている。

でも、退屈だ。


こんなに気持ちがいい世界でも、家族、身内も誰もいない。

誰も俺を変えようがない、変わらない日々、変わらない光景、変わらない....母の人生


過去に戻れれば...とも思うが、どこかの人はこういった。

例え過去に戻れても、その過去は別の次元の過去だ、我々が過ごした過去ではない...と


過去は変えられない、どうあがいてもだ。



寂しい、苦しい、でもやらなきゃいけない。



俺は最後に夢という夢を手に入れたい。


俺に生きる希望も夢もない、ただ、ないまま終わるのは嫌だ。

せめて何か夢を手に入れて、その夢を叶えて、母に話しを持っていきたい。


死後の世界を信じて、俺は俺の夢を探して見つけて叶えて、母にその話をしに行く。



そのためなら何をしたって....




何があった。



俺は駅に着いた。

しかし、それは駅と呼ぶには、明らかに原型を留めていなかった。


「....親父が帰るとしたら、電車に乗ってのはずだ....そんな、そんなわけないだろ。」

息が少し荒くなる。

嫌な予感がする、電車の事故でなくなったであろうそこの駅はここら辺で一つだけの駅だ。


嘘だ、本当に独りになってしまうのか?


あんな冷たいことを言って、お別れなのか?



嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だッ!!!!



気が付いたら、足が動いていた。

こんな大きな事故があったんだ、当然警備の人が居た。


俺は警備の人に抑えられて、何もできなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

父は病院に運ばれた。


医師の決死の手術で一命は取り留めた。

しかし、長くはないそうだ。

大怪我をして、奇跡的に意識を取り戻したものの、体力は減っていく一方


俺はそのことを医師から聞いて、ただ、座ってるだけだった。


父の所に行って俺が何をできると言うんだろう、あんな事を言って、なんて声を掛ければ....



その時、母の顔を思い出した。

俺が行った頃にはもう、動かなくなっていた。


ほのかに温かかった....が、すぐに冷たくなって行った。

何も声を掛けられなかった、何もしてやれなかった。


だが父は違う、まだ声を掛けられる。

何もしてやれなかったとしても、生きてるなら行ってやるべきだ。


俺は意思を固めて、父親の元に向かった。


父の姿は、見るに堪えなかった。

包帯が体全体に巻かれて、見るだけで痛々しかった。


「....親父、大丈夫なのか..?」

親父はその声に反応して、少し、顔をこちらに向ける。

そして、残った体力で、こういった。


「お前こそ...だいじょうぶ...なのか?」

言っている意味が判らなかった。

明らかに大丈夫じゃないのは、お父さんの方なのになんで


「お前...食っていけなくなっちまうだろ、俺が仕事できなくなったら」

......そんな事か。

俺は即答して、こう答えた。


「大丈夫ではないな....だけど、死ぬわけじゃない。」


「......」


「それよりも」

俺は父からは見えなくとも笑顔を作る。

それも、飛び切りの作り笑顔だ。


「生きててくれて、ありがとう。」

親父の手を取って、言おうとしてた事を言う。


「その、昨日は冷たい事を言って、本当にごめんなさい。」


「....いやいいんだ、何が欲しいのか聞かなかった俺も悪「いや、待って」


「こんな姿になってまで、俺の事を心配する親父が、そんな当たり前の事に気が付かないなんておかしい。」


俺は親父の手を両手で持った。

そして、まっすぐ目を向けて、親父に迷いなく聴く。


「なんで、マカロンを買って帰って来たんだ?」


「.....昔な、母さんはマカロンを食べたがっていたんだ、だから三人で食べたくて、買ってきた。」


「....母さんがそんな事を」

「お前ったらな、それで嬉しそうに僕も食べると、言ってたんだ。」


「でもな、当たり前だよな、あの頃はお前は保育園、何が欲しいかなんて覚えてるわけもない。」



「.....俺はなんて事を「自分を責めるな」



「お前は、独りで、ずっと耐えてきた。」

親父は残った体力を振り絞って、一言言った。



「よくやった...」


ピッーーーー......


静かな病室に心臓の止まった音が響いた。

親父は今日死んだ、そして....俺は独りになった。



身内もおじいちゃんもおばあちゃんも居ない。




俺は確定申告をして葬式場に父を預けて、自分の家に帰った。


自転車を行きよりも、さらにゆっくり走らせる。

より、景色が綺麗に見えた。



思えば家族三人で来た時も、こんな景色を見た気がする。

....綺麗だ。


家についた、俺は帰ってすぐに冷蔵庫を開けて、マカロンを取り出した。

そして、母さんの仏壇の前で、俺はマカロンを頬張った

母さんの仏壇には既にもうマカロンが置いてあった。


...思ったよりも美味しくないな。


ぶっちゃけて俺はそんな感想を言う。

でも...なんでだろう、食べててなんでこんなに...こんなに涙が出て来るんだ。


これから独り...独り.......なんでだ。


なんで俺は独りにされちまうんだ....なんでなんだよ。



おいて行かないでくれ....おいて行かないでくれ




そう願うまま、マカロンを食べ終わった。

二人で食べちまったな...三人でって言ってたのに。



悲しくなったのか、俺は

...そうだな、久しぶりになんか思ったかもしれない。


だから、食っちまったのかもな、何もかも忘れたかったのかもな。


....テロロン


悲しみに溺れている俺の電話に一通のメールが届いた。

....誰だ?こんな時に


送信者:不明

不明かよ....全く、時間使うだけ無...だ...だ?....



件名:生き返らせたくはないか?




........怪しい、明らかに怪しい。

俺が今日全部を失った所に来るメール、明らかに怪しい。


だけど...俺は気が付いたらメールを開いていた。

全部を失った今、可能性があればどんなものでも縋りつきたかった。



【父と母を生き返らせたいなら、お前の家の近くの綺麗な音をたてる畑に来い】


....俺はメールを閉じて、自転車を急いで走らせた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「....遅いな、メールしてから何分経ったと思っている。」


「はぁ...はぁ...こんな広い...はぁ...はぁ...畑で人一人見つけるのも、大変だっつぅの...」

俺は息切れをしながら、目の前の女性座っているに話しかける。

フードを深く被っていて、仮面を付けているから顔はよく判らないが、フードの隙間から見えるに髪の色は紫色のようだ。


....今考えたら怪しすぎるよな。


「....なんで俺を呼んだ?」


「自己紹介もなしにそれか、まぁいい」

女性はその場を立ちこちらに向き直して、一息付けてから続きを話した。


「お前を呼んだ理由は単純だ、全てを失っているから、それだけだ。」

目の前の女性は俺をおちょくっているのか?とかも思ったが、その立ち様から本気であることがうかがえる。


俺は呼吸を整えて、深呼吸をし、そして、自己紹介をした。


「...そうか、俺の名前は天来てんらい ひさしだ。好きな食べ物はマカロン」


「こんな言い方をしてすまない、私はライラ・アシュラという。好きな食べ物は刺身だ。」


「所で、説明はこれだけでいいのか?」


「んーまぁそれについてはまた、後でという事で、でもとりあえずはこっちを優先だ。」

俺は携帯を取り出して、ライラにメールの内容を突き付ける。

ライラは、そちらの方がこちらとしても助かると言って、説明を始めた。



「私の目的は単純に言えば、魔法石で金稼ぎだ、そのために協力して欲しいというだけだね。」


「....魔法石と俺の目的になんの関係があるんだ、関係性を見出せなければ手伝う気は起きない。」



「魔法石はそのまま、魔法を使えるようにする石という事だよ。」


「.....?いやだからそれになんの関係が」


「君察し悪いなぁ....ゲームとかであるでしょ?蘇生魔法」


俺はその一言に立ち尽くす。

蘇生魔法....そんなものは現実にないとばかり思っていた、いやだがもしもあるなら俺の両親は....


「待て待て待て待て、お前の言っていることは信用できない、証拠を見せろ」


「ほいっとな。」


その瞬間、ライラの体が宙に浮く、そして、いかにもという異空間へつながる丸い円が出て来る。

「これでも信用できない?」


「....俺を利用して、何かする気では?」


「自分に価値観を見出しすぎじゃない?人手が欲しいだけ。」


「足手まといは欲しくないはずだ、明確な理由が知りたい。」


ライラは少し悩んで、まぁいいかと言って答えた。



「魔法石は全部で六種類しかないの、次は涙の彼方っていう魔法石ね。」


「涙の彼方....まさか全てを失ったものしか手にすることができないとでもいう気か?」



「そのまさかさ、そのためには君が必要だ。これほど全てを失っている者も少ないからね。」

魔法石は多い方が使える魔法も増えるからね、その方が金稼げるし、それ手に入れたら元の世界に返して、両親も生き返らせてあげる。

と付け加えて、俺と目を合わせて話す。


息を飲んで、返答を返す

「...判ったよ、行こう...の前に少しだけこっちで準備をしていいか?」


ライラはクスクスと笑い、いいよと快くうなずいてくれた。

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