いえ、付き合ってません
取り敢えずサラージャの言い訳に納得したナティアは、泪を様子見ることにした。一応病み上がりだし、人種の違いから差別意識のある輩に絡まれてはいけないと判断したからだ。
店主の元冒険者であるデイルは実は名がよく知られていて、辞めた現在も現役冒険者の憧れの対象である。その為、一目見たさに宿を利用する冒険者は多い。
デイルに育てられ、この宿で育ったナティアの中で冒険者は荒くれ者の集まりという印象が強く(サラージャが知れば、お前が言うなと突っ込みを受けただろう)、身長の割には華奢な体格の泪が絡まれては一溜まりもないだろうと不安があった。
そんな心配をよそに、泪はよく働いた。
机の間をすいすいと踊るように軽やかに進み、穏やかな微笑を浮かべながら注文を聞く。配膳をする際も静かに音を立てずに皿を置いて一礼をして次の作業に移る。まるで厳しい指導を受けた熟練の執事のようである。
そんな洗礼された動きに女冒険者たちは色めき立ち頬を染め、男でも中性的な美貌と男らしさを感じさせない立ち居振舞いに見惚れたように目で追っている。
勿論ナティアも心情はどうであれ、思わず視線を向けてしまうわけで、子犬属性の泪が気付くと、その度に幻覚の尻尾を振りながらふわりと嬉しそうに笑顔を向ける。つられて手を振れば、最上級の笑顔で頷くものだから苦笑するしかない。
距離があるなかで笑い合う二人が目立たないわけがなく、付き合っているどころか色恋の好意がないにも関わらず周りは勘違いをするわけで……。
ーーなにこれ甘酸っぱーーい……‼
初々しい恋人のやり取りを見ているかのような錯覚に陥った冒険者たちに、暖かい眼差しを受けているなど露聊かも思わず、ナティアと泪は目が合う度に笑い返すを繰り返すーー。
他所でやってくれ、とはサラージャの本音である。
生活サイクルが狂いました……朝やって夜は無理……っ‼