泪=子犬⁉
客に呼ばれて接客に戻った泪を見送って、ナティアはサラージャに誘導されて空いていた席に座った。
「それで? 何で泪が働いているんだ?」
肘をつき、指を組み合わせた手で口許を隠すようにして、(わざと)険しい顔をして問い詰める。
サラージャは頬を掻きながら目をそらしてしどろもどろに言った。
「そ……それが、ね……」
曰く。
今朝、営業準備をしていた時間のことである。
いつも通り厨房をデイルが、食堂をサラージャが担当をして動いていたときに、昨晩高熱で寝込んでいたはずの泪が姿を現したのは。サラージャはぱっと見だが顔色もよく、足取りも特に問題が見られることがなかったので、ああ、熱は下がったのだなと安堵した。体調を聞いて問題ないことを訪ねれば、大丈夫と柔らかな笑顔で返されたので、じゃあ飲み物でもと席に座るように促す。
すると、泪にその腕を掴んで引き留められたのだ。
泪は真剣な面持ちで頭を下げた。
『働かせてほしい』ーーと。
病み上がりにそんなことさせられないとサラージャは断ったが、泪は再度頭を下げる。
『身一つで助けられた俺では、どうしても金銭で迷惑をかけてしまう。でも仕事をしてある程度稼げれば、負担になることはないでしょう?ーーお願いします。俺は、命の恩人であるナティアやあなたたちに、少しでも負担にならないようにしたい』
真摯に請う泪に気になって様子を伺っていたデイルと視線を交わしたサラージャは、暫し考えた末に了承することにした。
『仕方ないわ……。でも、少しでも体調が思わしくないようなら、ちゃんと声を掛けること。あまりに顔色が悪いとか、調子が良くなさそうなら、進言がなくてもこちらから作業は中断させますからね? 』
幾つか上げた約束事に、泪は呆気にとられた顔をしていたが、ふわりと微笑んで頷いた。
『ありがとう……』
その時サラージャとデイルは見た。
「何なのかしらね……ルイさん、けして背は小さくないし、成人男性なのはわかっているんだけど」
垂れ曲がった犬の耳と全力で振られるふさふさの尻尾の幻覚が見えたーー。
「あんな子犬属性美青年にどう太刀打ちしたって勝てるわけなかったわよ~……っ」
へたりこむサラージャに、ナティアは顔がひきつるのを止められなかった。
やはり、前日に見た子犬の耳と尻尾は気のせいではなくったのだ。いや、幻覚だから気のせいなのだが……。
子犬属性恐るべし‼
深夜勤務……疲れ、た……(半屍)