予定、またしても狂う
サラージャが腕によりを掛けて作った美味しい料理に舌鼓をうち、ほくほくと弛んだ表情で自分が間借りしている屋根裏部屋のベッドに勢いよく座り込む。
結局あれから泪の熱は下がったようだが、こんこんと深い眠りについていて話す機会はなかった。まあ住民カードは熱が下がり次第渡せばいいしな。うん、明日は午前中だけでも仕事を入れるかと一つ頷いて習慣の柔軟体操を始め、終わったら早々と布団に潜り込んだ。
翌日、またもや予定が覆されることになる。
いつもより早い時間に起きたナティアは、凝り固まった肩の筋肉を解しながら軽やかに階段を降りて一直線に食堂に向かった。
「おはよう、サラーー」
すでにくるくると宿泊客に食事を配っているであろうサラージャに朝の挨拶を言い、空いている席を探そうと何気なく視線を向けた、その先にーー。
「………………ん?」
異国のゆったりとした服をひらひらと蝶の羽のように翻し接客をする、藍色の髪の青年ーー。
「んんん⁉」
なぜ泪が働いているーー⁉
「あー……ナティアー……」
おはよー……、と何処か疲れたような表情でふらりとサラージャが皿を乗せた盆を片手に現れた。
「サ、サラっ! 泪が働いてるようなんだが、熱は⁉ 昨夜はあんなに高かったのに下がったのか⁉ それとも私が寝過ごして二日目とか⁉ いや、そもそも何で泪が働いて……っ」
「あー……うん、その疑問はわかるわよ……、うん。説明するから、一先ず座って……」
ふふふ……。
何やら怖い笑い声に、逆らう気も起きずに頷いた。
すると、賑やかな食堂の中での会話なのに目敏く気が付いた泪が小さく声をあげて顔を綻ばせた。
「あ、ナティア、さん」
おはようございますと、固く閉じていた蕾が花開くように、ふわりと微笑んだ。
……その泪に、ある幻覚が見えた気がしたが気のせいだと頭を降った。
「お、おはよう、泪。私のことは呼び捨てでいいぞ! 熱はどうだ? 昨日は酷い熱だったが……」
「おかげさまで。一晩寝てよくなったみたい。ナティアの買ってきてくれた果物も効いたのかな?あ、そういえば果物ありがとう、嬉しかった」
周りにはいない綿毛のようにふわふわと笑う泪にくすぐったい気持ちになりながら、どういたしましてと返す。
泪はどうやら、強制的に周囲を和ませる謎の雰囲気の持ち主のようである。




