女だけど、女にモテる=貢ぎ物
のんびりと昼食を終え、さっさと厄介事は済ませておくに限ると颯爽とギルドに向かったが、流石はデイルである。先にある程度の説明をしてくれていたらしく、すんなりと面会、そのまま簡単な手続きをして泪の戸籍登録が済んでしまったことには、ナティアも呆気に取られて二の句が継げなかった。
早々に用件が済んでしまって予定が狂ったが、今日はやることがないしなぁと直帰しようとした。
しかしサラージャに熱を出している泪でも食べやすいようにいくつかの果物を買ってくるように厳命されていたことを思い出して慌てて方向転換する。風邪といったら林檎や桃だろうかと頭を悩ませつつ馴染みの青果店へ足を向けた。何せ忘れて帰ろうものなら、怒らせて今日の夕食にありつけないことは確実である。誰もひもじい思いはしたくないだろう、切実に。
その時、面倒見のいい店主の奥さんから素晴らしい笑顔で口に試食の果物を放り込まれたりと和気藹々としたのは、人情溢れるこの街では割りとよく見られる日常である。
「くっ……重、い」
果物だけのはずだったのに、道すがら色々な店から差し入れの野菜やお菓子の類いなどをぴょいぴょい大盤振る舞いされ、結果目の前を塞ぐほど大きく膨らんだ紙袋をふらふらと覚束ない足取りで進むはめになった。
ここで貢いでくるのが男なら一悶着あっただろうが、尽く女。但し年齢は幅広い。美人なのに男前の性格がもたらした弊害である。
「サラー、すまん、何処に置いたらいい?」
やっとの思いで扉を押し明け、腕が限界を訴えていたので近くの机に一先ず下ろした。
「お帰りー……って、まーた盛大に貢がれたわねー」
呆れに若干苦笑を馴染ませて紙袋の中の一つを取り出す。
「果物にー、野菜にー、惣菜にー……うわぉ、お菓子まで入ってる! 最近砂糖高騰してるのに、奮発したわねー」
あそこの店かな、とさらりと的中させたサラージャの情報網に戦慄しつつ、視線を上に向ける。ちょうど泪が寝ている部屋の方向だ。
「泪はどうだ?」
「んー? ルイさん? しっかり熟睡してるわよー。見た目に反して体力ある人なのかしらね。熱も上がりきったみたいだから、明日には全快しそうよ」
「そうか……! それは良かった」
ほっと胸を撫で下ろすナティアに微笑ましくなりながら、サラージャは豪快に腕捲りをして宣言する。
「よーし、今日は腕によりをかけてあんたの好物作ってあげる。明日からルイさんの面倒頑張るのよ!」
「! ああ、全力を尽くすぞ‼」
嬉しそうに目を輝かせ、ぐっと両手を握って顔を紅潮させたナティアは、笑いながら背を向けたサラージャにせめて野菜の皮剥きは手伝うと声を掛けて荷物を手に後を追った。
その光景を、デイルがうちの子いい子、とほっこりしていたのだが、誰も気づくことはなかった。