ちゃんと考えています
泪と名付けられた青年は、極度の疲労と長時間川の水に浸かっていたことが原因で、風邪からの発熱により寝込むことになった。
泪が寝込んだ後、散々デイルにダメ出しを受けたナティアは、サラージャの『泪さんが起きたらどうするの‼』との一喝によって解放された。正座で説教をされていたことで心が折れかけていたこともあり、少し不穏な発言についてはこれで水に流そうとひっそり思ったナティアである。
「それで、えーと、ルイさん、だっけ? 彼、これからどうするの?」
食いっぱぐれていた遅い昼食をのそのそ食べていると、頬杖を付いたサラージャが質問する。
「どう……とは」
「これからのこと‼ ただでさえあんな美形なのに記憶喪失なのよ? ぜーったい、面倒事に巻き込まれるに決まってるわよ‼」
秘泪眼である時点で、すでに面倒なんだが……。
何処に聞き耳をたてるものがいるかわからない以上、余計なことは言わないに限ると口をつぐんだ。
取り敢えずと、一応たてておいた予定をあげる。
「そうだな……。一先ずギルドに行って仮の戸籍登録申請だな。この前の大雨の時に、川の氾濫が原因でいくつかの村が被害にあって死傷者が出ているからな。そこの村人だと誤魔化せなくないだろう」
実際、ナティアが川縁にいたのも救助、復興の手伝いだったのだ。申請を受ける当人が体調不良で寝込んでいるが、デイルと嘗てパーティーを組んでいたギルドマスターに話を直接通してもらうように頼んでしまえば、泪がギルド施設に行くことなく登録が可能だろう。それに国王の耳に入る可能性のある秘泪眼をギルマスに吹聴するとこは憚られた。しかし見られることなく終えてしまえば、どうとても筋書きが出来るというものだ。
「災害被害者なら援助が受けられて金銭が支給されるし、服を何着か見繕った方がいいな。彼が着ていた服では、少々悪目立ちするし」
泪が着ていたのは、青を貴重とした袖がゆったりとした長衣に、白のやはりゆったりとしたズボンだ。これはここいらでは見掛けることがない服装であるため、確かに目立つことだろう。
「仮住まいはデイルがここに置いておいていいと言ってくれたから問題ない。まあ、支給金は限度があるから、彼が全快したら働きに出てもらわなくてはいけなくなるだろうが……まあ、それは追々でいいな」
それまでは私が扶養すればいいし。
元々衣服は着れればいいし、貴金属に興味はない。旨い食事にありつけるに越したことはないが、贅沢をする性分ではないし女の身ゆえ一回の食事量などたかが知れているので、出費は大したことはない。酒や煙草などはそもそも好まないので嗜んでいない。つまり労働しても使用されないために金は貯まる一方なのだ。
「あとは、まあ、本人と相談しながらになるが……うん、問題ないだろう」
ひとつ頷いて話を締め括ったナティアに、サラージャは唖然としながら呟いた。
「ナティアがそこまでちゃんと考えているとは、思わなかったわ……」
「失礼な」
馬鹿にされていることは明らかだったので、ムッと口をへの字にしてむくれて一言抗議した。