命名。しかしそのまんまである
名前ってどう付ければいいんだ⁉
髪とか目の色……いやいや流石にないな。では彼の好きなもの……聞けるわけあるか、相手は記憶喪失なんだ。じゃあーー。
ナティアは改めて青年を見つめる。
艶のある髪と、身長こそあるようだが全体的に細い体つき。しかし軟弱さは感じられないのは、ぴんと伸びた綺麗な姿勢のせいだろう。まるで年月を重ねた柳の木のようだ。
そういえば、と記憶を探る。
その目の持ち主は、ある地域では神の代行者としてかなり高い地位を約束されるという、それ。
瞳の中央に浮かぶ、銀色の菱形模様ーー。
サラージャに脳筋を疑われるナティアだが、実のところ案外勉強はできた。
だからこそ覚えていた、それ。
その瞳は、古い文献と人々に語り継がれる言い伝えによれば、未来を先読みし、また千里の彼方を見渡すことが出来るという。
生まれもったものは総じて膨大な魔力を持ち、無詠唱で魔法を使いこなすとされる。
目を閉じてしまえば見ることが叶わず、遠目から見るとまるで雫のように見え、天から与えられるもの、恵みの雨ーー天から降る涙を連想させることから付いた名がーー。
ーー秘泪眼。
「ルイ……」
「え?」
ナティアは俯いていた姿勢を正して青年と目を合わせた。
「君の名前、ルイ、はどうだろう。天の恵み、天の涙から出でし川で見つけたから、泪」
青年は告げられた自分の名を口の中で反芻させ、ふわりと微笑んだ。
「泪……うん、泪。俺の名前だね」
この世の幸福を詰め込んだような満ち足りた微笑に、ナティアもつられて笑顔を返す。
和やかな空気に包まれたが、その後、ナティアに勉強全般を教えた張本人、デイルに『秘泪眼の泪って、そのまんまじゃねえか‼』とお叱りを受けたのは闇から闇に葬っておく。
ナティアとデイルの関係ですが。
一応孤児のナティアをデイルが拾い、育てたという裏設定があります。
つまりは義理の父娘。
義父娘揃って拾い物(人)をするという……