事態は動く
泪は、最初から逃げられないとわかっていた。
宿命から逃げ出して、逃げられたと思っていたのに。なのに結局、運命は既に足音を立てて自分の間近に迫っているーー。
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泪の元気がない。
ナティアは気が付いていたが、泪がそれとなく話題を反らしてしまうので聞けずじまいだった。
しかし、原因については予想がついていた。
先日、蒼焔国の者が彷徨いていたという噂を拾った。
ナティアとデイルは、泪が蒼焔国の第二王子 蒼 珀霙であると確信している。
おそらく蒼焔国の者は、泪ーー蒼 珀霙を捜しに来たのだろう。一本の川で繋がっているにせよ、遥か離れたこの国に捜しに来るほどには。それぐらい、彼は彼の国にとっては要人なのだ。
気になるのは、泪が怯えた表情を見せていることだ。
自国の者が迎えに来てくれた表情ではない。ーーいや、そもそも記憶喪失と言っている者がする表情ですらない。やっぱり記憶があるんじゃないかと思うが、今は関係ないので放置する。
泪は何に怯えているのか。
今夜辺り突撃するかと決め、ナティアは本日の仕事を探しにギルドへ向かった。
夜の帳が降り、満月が天辺に上がった頃。
ナティアは予定通りに泪の部屋に突撃した。
「泪、起きているか?」
「……ナティア?」
椅子に座っていたのか、扉の向こうからかたりと小さな音がする。
キィッと静かに、僅かに開けられた扉から泪の顔が覗く。服装からするに、やはりまだ眠っていなかったようだ。
「どうしたの?」
「うん、まあ、取り敢えず入れてくれるか?」
聞き耳たててるやつらがいると困るし。
実際、階段へ続く通路から、団子状に二つの頭が先程から見えているのだ。
出歯亀め、と悪態を吐きながら、困惑しながらも身体をずらして中に入れるようにしてくれた泪に礼を言って部屋に入る。
「えっと……どうしたの」
「うん? ああ、いや、最近なんだか思い詰めた顔をしていたから、気になってな。……何か、私に出来ることはないかと思ったんだが」
気付かれてたか、と表情を強張らせた泪に、ナティアはじっと黙って待つ。
これは根気の勝負だ。
揃いも揃って頑固な二人。根負けしては、きっとこの話は流される。
じっと泪の目を見て泪を待つナティア。
泪は尻込み口を開閉させるが、ナティアの意思を曲げる気の無い瞳を見ては、自分に分はないと深く溜め息を吐いた。
「それは……」
しかし、襲撃者は空気を読まない。
ドオオオオォォォンーーー
地震が起きたかと勘違いしそうなほど横に大きく揺れ、壁が吹き飛んだ。
「なっ……」
「……くっ」
噴煙が上がる。粗の向こう側。
ローブを深く被った襲撃者が、姿を表した。




