来訪者
ザッザッザツ……ーー
複数の黒い布に顔すらも覆い隠した怪しげな輩が、日が落ちて人気のない川縁を歩いている。
集団の戦闘を歩く男ーー背格好からしてそうだろうーーが、不意になにかを見つけて腰を屈めた。
男が手に取ったのは、見事な細工の施された青い石の埋め込まれた金の腕輪。
男は後ろに控えていた仲間に頷くと、集団は再び闇の中に姿を消したーー。
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朝。ナティアの心境とは裏腹に、雲一つない快晴である。
とはいっても、ただの二日酔いによる頭痛と吐き気が原因の不機嫌なのだが。たまにだが、宿の宿泊者が食堂を借りて酒盛りが始まるのだが、それに偶然通りすがった泪が巻き込まれたのだ。
泪はあまり酒を嗜まないようで、必死に固辞していたのだが質の悪い酔っぱらいがいて、無理矢理彼を席に座らせて酒の入ったジョッキを握らせた。それに待ったをかけ、代わりに酒を呷ったのがナティアである。
笊や枠ではないが、そこそこ酒豪であるナティアは一気に杯を空にして机にジョッキを叩きつけた。ーーのが、悪かった。
やるなぁ、姉ちゃん‼ と興が乗った酔っぱらいたちによって次々酒を次がれ、その度に飲み干すを繰り返した結果、見事に二日酔いである。
余談だが、愚行を起こした宿泊客ーー常連だったーーは、泪の要請に応じて駆け付けたサラージャの殺気を孕んだ怒号により瞬時に片付けをして脱兎のごとく撤収した。片付けを忘れない辺り教育が行き届いていると言えよう。
閉話休題。
ふらつく足を叱咤してなんとか食堂に降りたナティアは、心配顔の泪に出迎えられた。
「ナティア、大丈夫?」
「うー……まあ、大丈夫、だ……」
安心させようと虚勢を張るが、酷く顔色の悪い状態で言っても説得力がない。
案の定給仕をしていたサラージャに指摘された。
「何が大丈夫よ、その顔色で。もう、あんたは座ってなさい。薬湯を淹れてくるわ」
「うぅ……すまない……」
泪に手を取られて席まで誘導してもらい、椅子に座るなり机に突っ伏す。
「ごめん、ナティア……。俺を庇ったばかりに……」
「いや、私が乗せられたのが悪いんだ。泪が悪い訳じゃない」
気にするな、と顔を上げられなかったので、手をひらりと仰ぐように動かした。
空気の読める泪は、自分が引き下がらないと堂々巡りになることは承知していたので、渋々ナティアの顔を立てて引き座がった。その代わり、次絡まれることがあったなら、きっぱり断ろうと心に決めて。
「そういえば、聞いたか? 昨日から怪しげな連中がこの街を出入りしてるって」
近くに座っていた客の話が、偶然耳に飛び込んできた。別段大きな声で話していたわけではないが、本当に偶々。
ナティアは突っ伏したまま若干頭を上げてその客の話に耳を傾けた。
「ああ、聞いた。全身黒ずくめの連中だろ? でも布から覗いていた袖を見た感じ、蒼焔国の人間じゃないかって話だが」
「おうよ。でも聞いた話によると観光とかじゃないらしいな。何か探している風だったと俺は聞いたな」
「探してるって、何を」
「さあ? 俺にわかるわけないだろう」
蒼焔国。つい最近聞いたばかりの国の名だ。泪の、出身だと思われる国。
なんだかきな臭い話だな、とナティアは剣呑に顔をしかめた。
その横で、泪の表情が強張っているのを、見ることなく。




