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秘泪のキセキ  作者: 高名
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いつかの約束を

神聖国 蒼焔の第二王子 蒼 珀霙 御歳二十一歳

現国王の実弟であり、それを支える若き神官長。

現在確認されている秘泪眼の持ち主の中でも随一の魔力の持ち主であり、高度な魔術の使い手である。

国王との兄弟仲は友好。寧ろ国王は年の離れた弟溺愛しているようであると目撃談がある。

清廉にして寛容。物静かであるが、思ったことははっきり言う口巧者で、表裏のない性格ゆえか部下とも特に衝突することなく良い関係を築いている。

本人は表舞台に立つことを嫌い、神事の際も薄布で覆い隠して顔を晒そうとしない。宵色の髪に藍色の瞳の青年であるとは、国王が口を滑らしたことで判明した。

近日、水に関わる神事を行った頃から姿が見えず行方不明、安否の確認が急がれるーー。




以上が、数日後にギルマスから改めて送られてきた泪であろう人物の調査表である。

蒼 珀霙という人物は、性格一つ取っても泪そのものと思えた。

ナティアの野生の勘も正解の鐘を鳴らしていて、どうしたらいいのかわからないというのが本音である。


あの子犬のような青年を見ていると、私怨を受けるような人物には到底思えないが、政府とは魔物の巣窟と称されるほどに闇が深い場所だ。要らぬやっかみを受けることもあるだろう。


腕を組んで頭を悩ませるナティアの背後から、控えめに声が掛かった。


「ナティア……?」

「‼ あ、る、泪か。す、すまん、ちょっと考え事をしてて、気付かなかった」

「うん、大丈夫。ごめん、考え事の途中で。ーーもしかしなくても、俺のことで、悩んでいるよね」


眉尻を下げて苦笑を浮かべる泪に図星をつかれ、ナティアはびしりと音を立てて硬直した。

あからさまな反応をしたのだ。誤魔化せないと溜め息を吐く。


「うん……まあ、あのな。私はべつに、お前の素性なんてどうでもいいんだ」


泪に座るように促して、自分の考えを整理しながら伝える。


「私から見てこの数日一緒に過ごしてきた泪は、要領がよくて気遣いの出来る優しいやつだ。最終的に自分で解決しているが、ちょっと無謀そうな判断をすることがあるから目が離せない、というのもある」

「……うん」

「私やデイル、サラージャは泪の過去なんか気にしない。過ぎた過去より、今が肝心だからな。……でもな」


ナティアは顔をあげて、しっかりと泪とーー涙の形にも見える、菱形模様の浮かぶ目を見つめた。


「なんでも話せとは言わない。でも、言われないというのも、やはり寂しいものなんだよ。たとえば一緒に過ごしたのがたったの数日だとしても、私たちは、もうお前を友人とか、仲間とか、そういう距離の近い関係だと思っているから」

「……うん」


「私たちがお前にとって、心の拠り所になれればと思っているよ」

「…………」


……すまん、忘れてくれ。黙ってしまった泪に、ナティアは目を伏せて謝罪する。

居心地が悪くなって、部屋に戻ろうと席をたって背を向けた。ーーが。、

その手を、泪の手が引き留めた。


「ーーか、」

「え?」


小さく呟くように言葉を紡ぐ泪に、ナティアは耳を傾ける。


「いつか、ちゃんと話すよ。……俺のこと、ナティアにちゃんと、知って欲しいから」

「……ああ。待ってる」


にかりと笑って、今度こそナティアは部屋に戻ろうと階段を上った。


泪が、約束してくれた。それは、ナティアを信用するに値する相手だと思い始めている証拠だといい。

ナティアはふふっ、と小さく笑って部屋の扉の取っ手に手をかけた。


ふと、ーー


「……………………あいつ、やっぱり記憶があるんじゃないか?」


知って欲しいと言った。その一言は、過去を覚えていないと言えない台詞ではないだろうか。


「…………まあ、いいか」


その時になったら拳骨の一つでも落とせばいいことだな。


無理矢理自分を納得させ、部屋の中に消えたナティア。


ーー未だに食堂にいた泪が、危険を察知して身を震わせたことを、彼女は知らないーー。

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