只者ではなかった。
冒険者、剣士ガスト。
見た目だけなら闘士にしか見えないが、名の知れた実力者である。
数年前からグリンの町に住み着いている男だが、どういうわけかナティアに事あるごとにちょっかいを出す傍迷惑な輩である。
「何のようだ?」
物怖じせずに相対するナティアに、ガストは嫌味たらしく下卑た笑みを浮かべた。
「女らしさのおの字もなかったお前が、やたらキレイな男を連れてるって噂で聴いたからなぁ。見に来てやったんだよ。……どうやら本当だったようだが」
「そりゃどーも。用件はそれだけか。なら私たちは用事があるから失礼する」
「まあそんなつれなくすんなよ。こっちはその兄ちゃんに興味があんだからよ」
にやにやと泪の頭から下を流し見て、ガストは鼻で笑った。
「随分となよっちぃヤツじゃねえか。なーんでこんなのに構うんだか」
「お前には関係のない話だ。私たちはもう行く」
返事を聞かずに踵を返したナティアは、傍観者になっていた泪の手を引く。その彼女の肩を、武骨な手が乱暴に引き留めた。
「待てよ。話はまだーー」
終わっていない、と続くはずだった言葉は、残念ながら発せられることはなかった。
振り払おうと手を上げたナティアよりも早く、泪の手がガストの手を払い落とし、彼女を庇うように抱き締めた。
「女性に対する接し方ではないよ。それに、文句があるなら直接俺に言ったらどうだい」
底冷えする声音でガストを直視する。しかし声とは裏腹にナティアを抱く腕は優しい。
「テッメェ……」
「君はナティアの関心を引きたいようだけど、それは逆効果だと言わせてもらうよ。それに、君はナティアに女らしさのおの字もないと言ったけれど、それは君に見る目がないだけじゃないか?」
ナティアは魅力的な女性だ。
にっこりと笑って腕の中にいるナティアに笑う泪は、線の細い体格からは想像できないほど男らしく、頼り甲斐に満ちていた。
守られるなんて対応、それも女であることを強調されることに免疫がないナティアはみるみるうちに顔を紅潮させ口をパクパクと開閉した。
一部始終を伺っていた第三者ーー基、野次馬たちは、初々しいやり取りに微笑ましそうにしたり、またはつられて頬を赤くして次の展開を夢想する。
ぞんざいな扱いに、ガストは怒りで顔を真っ赤にし、身体を震わせて拳を固く握った。
「テメェ……言わせておけば……っ、そのおキレイな顔、ぐちゃぐちゃにしてヤルっ‼」
「泪っ……!」
腕を振り上げ殴り掛かってくるガストから泪を守ろうと身体を動かすが、その細腕の何処にそんな力がと思わざるを得ないほど、泪の力は強く、腕から出ることが出来なかったナティアは泪が殴られると想像して声を上げた。
ーーだが、結論からいって、秘泪眼の持ち主はただ者ではなかった。
泪は顔面に向かって降り下ろされた拳を首を傾けただけの少しの動作で避け、肘の辺りを掴んで軽く捻り上げる。流れるように行われた動作だが、見るものが観ればわかる。泪は武術に秀でた熟練者だ。
しかし腕を捻られているガストにはそんな察する余裕はない。
「いっ、痛ってぇっ、テメェっ手を離っ」
「離しても良いけど、俺とナティアに今後ちょっかいを出さないと約束してくれるならいいよ」
「誰がテメェの言うことなんざ」
「じゃあ、このままだね。ギルド役員を呼んで引き渡そう」
泪は冒険者の弱味を熟知していた。
冒険者が一般人に私怨で暴力沙汰など信頼問題である。ギルドの耳に入れば、仕事に悪影響が出かねない。
しかもガストは、確かに腕のたつ冒険者ではあるが、その横暴な性格と才能を鼻に掛けて他者を侮蔑するとこで評判が悪いのだ。その為最近ではパーティーを組んでくれるものがおらず、仕事も中々ありつけないでいた。
ガストは屈辱に歯を噛むが、どう考えても非は自分にあり、何よりも野次馬の目もある。
ーー引くことが懸命だった。
敗けを認めて力を抜いたガストに、泪は漸く腕を解放した。
そしてずっと腕に囲っていたナティアを離し、にっこりと笑顔を向けたのだ。
だが、ナティアは一言物申したかった。
君、記憶がないなんて嘘だろう……っ‼
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