噂をすれば影
主戦力を連れてくな!と引き留めるサラージャを躱し、ナティアはタイミングを見計らって泪を外に連れ出した。
異国の服を着たままでは悪目立ちをするし、何よりもなにも持たない泪の生活用品を買い足す必要があったのである。
ラディウス国リース領グリンの町は、田舎ながらも海が近いことで貿易が盛んに行われ、活気があることで知られている。
町の中心にある商店街には、八百屋や肉屋、鮮魚店は勿論、子物売りや服屋なども並んでいて、身の回りの物を揃えるにはうってつけの場所だ。
「最初に何着か服を買おう。君の格好は、似合っているんだがここでは目立つからな」
「うん。……でも、お金の持ち合わせが……」
「気にするな、私が払う。物欲がなくて滅多に買い物をしないから、貯まりに貯まっているしな」
気負いしなくていいぞ、と快活に笑うナティアに、泪は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ありがとう。いつか、ちゃんと返すから」
「ははは、君は律儀なんだな。うん、気長に待っているよ」
ここだ、とナティアが立ち寄ったのは、主に男物の衣料を取り扱っている店だ。
生憎と流行りなんか微塵も知らないので、店員を呼びつけ見繕ってもらう。
その時絶世の美男の泪に目を奪われ仕事にならなくなった女性店員がいたことは、割愛する。
店員が持ってきたものは、泪の髪色に映える群青に、白糸で刺繍が施された品のあるものだったり、落ち着いた雰囲気に合わせた綺麗めなものだったりと感性のよさが伺えた。
遠慮する泪を黙らせ、予定よりも二着多く買ったナティアは満足げに金を支払った。
「いい買い物ができたな!」
「うん。ここの人たちは皆親切だね。随分よくしてもらった」
「商売は顧客がいないと話にならないだろう? ここは物流で成り立っているからな。あれも一応商戦だよ。まあ、この街は元々お人好しが多いんだが」
「うん。話せばなんとなくだけど、わかるよ。皆表裏がなくて心地いい……」
「そう言ってもらえると少し照れるな。私はここで育ったから。故郷を誉められると嬉しい」
うっすらと頬を赤くさせてナティアからはグリンの町の愛しさが感じられた。泪は眩しいものを見るように目を細めた。
「ナティアは、この街が好きなんだね」
「ああ、勿論‼ 孤児だった私に家族みたいに分け隔てなく接してくれた。まあ、ギルドがあるから、たまに荒くれ者に絡まれることがあるがーー」
「よーう、ナティアじゃねぇか」
揚々と語っていれば、噂をすれば影、耳障りな声が背後から掛けられた。
「女らしさなんか微塵もねえお前が男を連れてるってーのは聞いたが、確かにその通りだったようだなぁ? はっ、嗤えるぜ」
「……ゼスト」
嫌々振り向けば、そこにいたのは顔に傷のある、筋骨隆々といった人相の悪い男だった。
途中で切ります。




