第95話 始動
……
「やぁ!無事で何よりだ。僕が助けたお陰だよ。間に合って良かったねぇ」
「くっ!この裏切り者!よくも抜けぬけとっ!」
銀髪の美少女が怒りの表情で声を荒らげる。……シルフィ?いや、確かに似ているが別人である。面影はあるようだが何か関係がある人物だろうか?ただ服装も見慣れない装いである。
「おや?何を怒ってるのか分かりかねるね。お前の命が助かっているのは紛れもなく僕の力なんだよ?それは理解してもらえてると思ってたけど、勘違いかな?」
銀髪美少女の怒りの矛先は、目の前にいるこの身なりの良い男に向けられていた。
話しぶりはやや幼さを残しているように感じるが、容姿を見る限りそれなりに歳は取っているようだ。この銀髪美少女を小馬鹿にしているのかもしれない。
するとこの男と銀髪美少女の睨み合いに割って入るように一人の騎士が部屋にやってくる。
「大公!報告致します。手配中の女を一人捕らえました。いかが致しましょうか」
その報告を聞いて銀髪美少女の表情が強ばる。一方で、大公と呼ばれたその男は頬を緩め、銀髪美少女のほうにニヤリと笑ってみせる。
「さてどこの手配女かな?お前の知ってる人かなぁ?それともどこぞの馬の骨かなぁ?……ここへ連れてこい」
「はっ!」
大公は銀髪美少女に向かって相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべ続けている。完全に勝ち誇っているようだ。しばらく待っていると、先ほどのに騎士に連れられて一人の女性が両手両足を拘束された状態で連れてこられ、大公の足元に転がされた。
「ミュール!」
銀髪美少女が転がされた女性の元に駆け寄った。
だがそれを遮るように女性の首には大公の持つ剣が静かに当てられる。
「誰が動いていいと言った。このどこぞの蛮族が貴女に危害を加えるかもしれないというのに」
「ふざけないで!ウォルス!誰がどう見ても近衛騎士長のミュールでしょう!その剣を退きなさい!」
銀髪美少女がウォルス大公を恫喝する。しかし意に介すこともなく剣も退かない。
「言うとおりにして欲しいのなら、少しは僕の言うことも聞くんだ。なぁエスタシア姫」
「エ、エスタシア様……申し訳ありま……ゲフッ」
ウォルス大公が転がされたままのミュールの腹を思い切り蹴り上げる。
「口を閉じろ。お前に声を発する権利などない」
ウォルス大公が冷たく言い放つ。
その様子にエスタシアも言葉を失ってしまった。
「黙るのは君じゃないよ、エスタシア姫。お前にはもっと発言をして欲しいんだけど?……そうだ。この場で先日の提案についての答えを聞こうじゃないか。……で、どうかな?改めて問おう。君が僕のモノになる事を条件に君の命……ひいては皇族の血筋を助けよう。という提案は受けてくれるのかな?」
「……受けたら、ミュールを解放してもらえるの?そうでないのなら死んだ方がマシよ」
少し考えた様子のウォルスだったが、改めてエスタシアの顔と身体を舐めるように見る。
「いいだろう、ただし条件を二つ追加する。一つはこの狂犬……女だから雌犬か。こいつに二度と武器防具を持たせないこと。刃向かわれたら怖いからなぁ……あっはっは」
ミュールの頭を足で踏みつけながら、ニタニタとウォルス大公が笑う。
「わ、分かったわ。それでミュールの命が助かるのなら。それでもう一つの条件は?」
「もう一つ……知りたいか?」
ウォルス大公の視線がエスタシアの身体を再びとらえる。エスタシアは反射的に身を堅くした。
「もう一つはだな。この場でお前の覚悟と誓いを証明するんだ。……この女の目の前で契りを交わそうぞ。お前が僕のモノだとじっくりとその身体に教え込んでやる。少しでも反抗の素振りを見せるなら、この女の命はない。どうだ?ん?」
「わ、わかったわ……まずはその剣を……」
「お前がこちらに来るのが先だ」
ウォルス大公の剣先がミュールの首筋に食い込み、赤い筋をつける。
「わ、わかりました。今すぐ」
エスタシア姫と呼ばれたその銀髪美少女はウォルス大公に近づき、自身のドレスに手を掛けた。
……
「はぁ、またこの夢か……憂鬱だ」
「どうしたの?レドウ」
「あぁ……まあちょっと胸くそ悪い夢を見てな。……ただの夢だし大丈夫だ」
「そお?」
目が覚めた秘密基地のベッドでは、シルフィがひっついたままレドウを見つめてくる。
改めてよく見ると夢に出てくる悲劇の少女とそっくりである。
シルフィを近くでよく見ているレドウだから明らかな別人だと分かるが、第三者であったら同一人物にしか見えない類似性が間違いなくある。
そしてレドウは、以前ルティアが持っていたとされる羊皮紙に書かれていた呪いのことを思い出す。
(まさかな……あれが、いやそんな馬鹿な。俺の夢だぞ)
思わず考え込んでしまう。偶然にしては出来すぎであり、内容も一言一句違えることなく毎回一緒なのだ。大丈夫と言いつつも、結局黙り込んだまま天井の一点を見つめてしまうレドウ。
そんなレドウの様子を不思議そうにシルフィは見続ける。
レドウは隣のシルフィをぐっと抱きしめる。するとシルフィは嬉しそうに胸に顔を埋めた。
そこにアイリスからの通信がシルフィに届いた。シルフィは残念そうにレドウから離れる。
「はい。……え?うん。それで……分かった。伝えるね。私も行けばいいんだよね?」
通信を切ったシルフィが真剣な表情でレドウを見つめる。
「出番か?」
「うん。アイリスがタルテシュの冒険者ギルドまで来て欲しいって。あと……カーライル家と冒険者ギルドには協力を得るため、もう能力隠さなくっていいって」
「そうか、分かった。早速準備しよう。きっともう説明済みなんだろうな」
レドウはベッドから降りると服を着た。
いつも通り【叡智のサークレット】を頭につけ、【聖心のペンダント】を首から下げ、胸の内ポケットには【王者のタクト】である。
腰には二本の片刃剣の他、火系魔法のためのタクトを挿す。もうこれは擬装用のタクトではない。
【王者のタクト】は、それだけでも闇の創造魔法をはじめとした全系統の魔法を扱うことが出来るのだが、以前タクトの精から『他系統魔法』については発動速度が遅いことの注意を受けていた。当時は知識解放レベルが1であったため、それ以上の情報は得られなかったが、知識解放レベルが上がったことで、発動させる系統の神器を身につけることで通常速度以上での魔法が放てる事が明らかになったのだ。
……本当はタクトの精の説明をもっと前にちゃんと聞いてれば知っていたはずなのだが、レドウが無視していたため知らなかっただけである。
今回、秘密基地に籠もることで時間が出来たため、ゆっくり説明を聞くことが出来たという始末だ。
結論から言えば、現在神器を装備中の光と水に関してはストレスなく発動出来るが、一番得意な火の魔法に関しては結局上手く扱えないという皮肉な状態なのである。そこで能力の隠蔽を行わないにしても、擬装用に使用していたタクトはそのまま火魔法専用のタクトとして利用するという手段をとったということだ。
「よし、俺の方は問題ねぇ。シルフィはどうだ?」
「ちょ……ちょっと待って!早い!まだドレスが……」
ドレスで行くつもりなんだろうか?この奥様は。下手したら戦場になるというのに。
「シルフィ、ドレスじゃなくて遺跡探索に使える普段着で。こないだシーランで買ったやつに一枚羽織るだけでいいだろ」
「そ……そうかな?そんな簡素な格好で大丈夫かな?」
何故か不安なシルフィ。何を心配しているのか全く検討もつかないが、まあたいしたことじゃないだろう。
「大丈夫だ。これから行くところはウィンガルデじゃねぇ。タルテシュでドレス着て歩いてたら逆に浮くぞ?」
「そ、そう……確かにそうかも。わかった。レドウの言うとおりにする」
そう言って急いで着替え始めた。
まあ何を着ていたところで、シルフィの輝く銀髪も美貌も目立つ。どうせ目立つならレドウの言うとおりタルテシュらしい服をしていた方が馴染みやすいだろう。
「で、出来た!おっけーだと思う」
シルフィは活動的で健康美溢れる美少女……のような姿になっていた。
髪をサイドテールで纏めているのも容貌の雰囲気作りに一役買っているようだ。ただ、腰に挿したLV4制御石付きの聖銀のトリプルタクトがもたらすその戦闘力は全く可愛くないレベルなのであるが。
「よし、じゃあ行こうか。能力隠さなくていいなら直接行っちまおうか?」
そう言ってタクトを振って転移ゲートを開けたレドウとシルフィは、直接タルテシュで待つ仲間のもとに移動したのであった。
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