第94話 防衛作戦
「申し上げます!王国の正規軍が正式に勅命を受け、戦闘準備が開始されたとの情報を入手しました!」
ここは遺跡都市タルテシュの冒険者ギルドの一室。
現在、冒険者ギルドはアスタルテ家とカーライル家の臨時拠点として稼働しており、その作戦会議室にはギルド長キプロスを中心に、アスタルテ家代表として騎士団長アイリス、小隊長のリュートとラウルを加えた三名、カーライル家代表としてギルドオーナーである当主ニキとその長男ユーキ。
総勢六名が座していた。
「ついに動き出したか。こういうときのオーナーの悪い予感はよく当たるの」
キプロスが当主ニキに視線を向ける。
「そうですね……国王がどういった判断をされたかは分かりませんが、何か大義名分を掲げている筈です。リドル、情報ソースは誰かな?」
部屋に報告を持ってきた一人の騎士に向かって質問を投げかけた。
リドルと呼ばれたその若き騎士は最敬礼をする。
「は!当家斥候であるリズ殿の情報でございます。先ほどの情報を速報として伝えられたのち、すぐに現在先方の挙兵規模を探るべく発ちました」
「わかった。じゃあこの点についてはリズの続報を待とう。下がって良い」
「承知致しました」
リドルは部屋を退室する。
「恐らくは……神器による国家転覆が大義名分でしょう」
アイリスが少し考えながら発言する。
「聞こう。続きを」
「はい」
ニキに促され、アイリスがうなずく。
「やや話は遡りますが、マーニス家はこれまで財力統制……いわゆる税制制御ですが、国民に対しての減税を行ってきました。これは国民にとって聞こえは良いのですが、その実体は八輝章家内に独自に財源を持たない家……例えば当家やパーン家、ハイラー家などもそうですが、国を治めるための財源を国税による交付金のみで政を行ってきた家にとって非常に厳しい財政政策であるため、本来財源をもって正しく稼働すべき機関がまともに稼働しないという事態に陥っておりました……」
そう、マーニス家が行っていたのは『人気取り』を目的とした減税である。
政治を執り行うのに必要な財源すら削る勢いであるため、素直に従うと税も取らないが国民へのサービスも行えないという問題をないがしろにしたものだった。
この結果、他に財源を持たない家は深刻な財政難に陥ったのである。
「私たちアスタルテ家は、遺跡の探索をすることで魔石収入などに頼る方針を打ち出しました。そして雇った冒険者がレドウさんだったのです」
そしてそこから意図せずして神器を手に入れたこと。そして少しずつ集まっていったことをアイリスは順を追って説明していく。神器という存在に対しての好奇心はあれど、神器を用いた国家転覆の意思や動機などなかったことを説明する。
「ただ……皆様、覚えていらっしゃいますでしょうか?あの南岸遺跡の地竜事件を」
アイリスはその時の真実を伝える。
世の中の噂では自分が討伐したことになっているが、実際はレドウの持つ神器でないと歯が立たなかったことを。
「そして、その後こうした魔物が人工的に造られている可能性をレドウさんとその妹さんが確認しております。となれば、それに対抗できる手段として、……少なくとも好奇心だけであった私の動機は『対抗しうる唯一の策』であると認識が変わりました。そしてレドウさんと共に積極的に情報の収集を始めたのです」
「ちょっと待った。聞き捨てならない情報があったぞ。南岸遺跡の地竜が、人工的に造られた魔物だと?一体何のために?誰が?」
ここで口を挟んだのがユーキだ。
「はい。それにつきましては、まだ調査段階で正確な証拠を押さえられているわけではないのです。ですので話半分で良ければ当家暗部が得た情報を開示致しますが?いかがでしょうか。まだ全面的に信用されては困る内容です」
「分かった、アイリス殿。その条件で構わない。話してくれ」
ユーキを軽く制し、当主ニキが続きを促した。
「まず、レドウさんとその妹さん……今は冒険者のレーナさんのお二人が、地元であるロイズ地区で盗賊の討伐を行った際のことです」
アイリスは、その盗賊の首領が何かの薬を服用した直後魔物へと変身し、地竜と同等以上の力を持ったという事実を伝えた。
「そもそもです。そういった薬が存在しているという時点で、何者かによる介入が濃厚です。このときの盗賊に右腕的な存在がいたことをレドウさんは確認しているようなのですが、その者は逃亡したそうです。今にして思えばそのものは介入勢力の末端であり、盗賊の首領を使って実験をしていたとも考えられます。国民に与えた盗賊の被害を考えたら到底許すことは出来ません。そして……」
アイリスは二つの瓶を取り出した。
「一つは盗賊の首領が服用した薬が入っていた瓶でして、レドウさんが討伐後に回収したものです。そしてもう一つは……当家に入り込もうと画策していた間者を始末した時にそのものが持っていた瓶です。中身は入ってはおりませんでしたが……いかがでしょうか。私には全く同じ瓶にしか見えません」
キプロス、ニキ、ユーキの三名は二つの瓶を食い入るように見つめる。
どこかの店で売られてる商品……ではなさそうだ。何より蓋と形状が特徴的である。アイリスが区別するために貼ったラベルがなければ、全く見分けがつかない。シャッフルされたら全く分からないだろう。
「アイリス殿……これはどこの暗部だったのですか?」
「……マーニスです」
「やはりかっ!」
「なんということだ……国民を犠牲にする実験など」
「地竜には多くの冒険者たちも犠牲になったのだぞ」
アイリスの回答に三者それぞれの反応を見せたが「許せない」という感情は一致していた。
「なるほど。では、そのアイリス殿……つまりはアスタルテ家の調査に私から確証情報を一つ提供しよう」
カーライル家当主ニキは、激昂したギルド長と憤慨するユーキを制した。
「我がカーライル家の調査によれば、マーニス家には私設の魔導研究所がある。これは全く公にされていない事実だが、マーニス家は自身の魔導鉱石……要するに魔石をロイスウェル家に優先的に提供する代わりに、研究開発の為の基礎技術を連携し独自に魔導研究を行っているそうだ……まさか、魔導技術で人や魔物を……」
そこまで言って言葉を止める。それ以上を言葉にすることをニキはためらったのである。
「はい。その先は証拠を押さえるまで口にすべきではないと私も思います。もしかしたら当初は研究材料としてレドウさんの持つ神器を欲したのかもしれません。それが上手くいかず、強硬手段に出てきているのかもしれないですね」
事前にアイリスから話を聞いていたので、新たな驚きはなかった小隊長の二人も神妙な顔つきで考え込んでいる。
「……これは、予想以上に難しいです。どんなに強大でも正規軍と事を構え、どんなに小規模であれ戦って損害を与えるわけにはまいりません。本来なかったはずの当家側の咎がいたずらに増えるだけです。正規軍は踊らされているだけ……なのですが、向こうは国家転覆を止めるという大義名分を掲げた正義に燃えていることでしょう。我らの士気も明らかな敵でない以上、上がりません」
「ええ、リュート小隊長。貴方の言うとおりです。ですが我々も倒れるわけには行かない。真の敵の思うつぼです。こちらからは攻撃することなくなんとかしのいで、暗部の調査を待つための時間稼ぎをするというじり貧の戦闘が予想されます」
ニキが暗い顔で纏める。
「まあ気の荒い冒険者達の方は、報酬をたっぷりあたえりゃ何でもやるだろうけどな。それでも防衛戦のみとなると不満も上がりそうだな」
ギルド長キプロスも苦い顔だ。
早くリズの続報を得たいところだが、さっき出発したばかりの彼女が新情報を持っているとは思えない。
「私に一つ策があります。出来ればもう少し時間を稼いでからにしたかったのですが……こうなっては手段を選んではいられないですから」
「と、いうと?」
ユーキがアイリスを見る。
「当家の当主。レドウさんの力……つまり神器の力を借ります。もうここに至ってはその力を隠す意味もありません。私たちもとにかく出来ることを全力でこなすしかなさそうです」
アイリスは場のみんなに視線を配る。特に反論はなさそうだ。
「ではこうしよう。アイリス殿。そなたはレドウ殿を呼んで作戦に加えてくれ。シルフィ殿も戦力になるようであれば一緒に協力を頼みたい。それからキプロス殿、そなたは立場を活かして冒険者達に防衛戦の説明をお願いしたい。具体的な戦略は……ユーキに任せる。リュート殿とラウル殿もアスタルテ系騎士団を率いて、一緒に防衛戦にご参加頂きたい」
「「承知した!!」」
ニキの纏めにユーキが発言を求めて立ちあがった。
「私が動くということは、カーライル家の私設騎士団も動かして良いということですね」
「その通りだ。上手くやってくれ……統率については心配はしていないが」
「分かりました」
場のメンバ全員がうなずく。
「では、皆さま。やや気の重い戦闘が待ち受けているが各々総力を尽くして欲しい。……実は私もこの期に及んで一つ画策していることがある。もしそれが上手くいくようであれば、きっと戦況打開に役に立つはずだ」
こうしてアスタルテ家とカーライル家の臨時対策会議は解散した。
ここからが正念場である。
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