第82話 結婚披露パレード~終宴
いよいよ披露宴も終わり、市街パレードの時間が近づいてくる。
レドウとシルフィのもとで最後まで雑談……歓談のために食い下がっていたのはアルフだった。
南岸遺跡事件のあと、一旦タガデア砂漠を南下してガウェイン家の地元であるサルバード地方の商業都市に戻ったことから始まり、新しい商品を仕入れて戻ってきたことや、自身も戦闘技術を磨いていること、商人として新しくアスタルテ家で取り扱う聖白鉱製品を取り扱いとといった様々な事をマシンガンのようにレドウに訴えてきた。
身の上話などはともかく聖白鉱製品の取引については直接アレクに話せば良いことなので、そう伝えると強い繋がりを作るためには外堀を埋めることから。などと言い始め、結局レドウたちを独占して離さない様子だった。
さすがに後ろで並んでいる次に会話したい人たちのことを一切気にしない様子であったので、一度ラウルに引き剥がされたほどである。
そうして三回も列に並び直してまで「それでさっきの続きなんですがね……」と話し始めるあたり、ある意味逞しい男である。
そして、ラウルが披露宴のお開きと市街パレートの案内をしてもレドウたちから離れなかったアルフは、ついにルシーダさん率いる使用人チームに引きずられていったのはかなり面白かった。
さて次は一般の市民に婚姻のお披露目である。
アスタルテ家の城をスタートにゆっくりと走る専用魔導車に乗り込み、道に集まっている人たちに笑顔で手を振るアレである。
そんな大規模なパレードを行って、人々が集まってなかったらどうしたらいいんだ?と心配していたレドウであったが、ラウルからそんな心配は無用であると告げられる。なんでもパレードの始まるずっと前……それこそ披露宴もまだ開始していない時間から、パレードコースに人が場所取りなどで詰めかけていることをらしい。
集まらないのも寂しいが、集まったら集まったで「俺などを見に来るとはこいつらは暇なんだろうか?」とラウルに言うと「残念ながら兄貴目当てで集まっているわけではなく、市民の皆様は美しいシルフィア様を見にいらしているのであって……」と、真っ向から否定された。
まあそりゃそうだろうとレドウは納得したのだが、何を勘違いしたのか「心配しなくとも我ら騎士団一同が兄貴のファンです!」と慰められた。
いや、別に慰めなくてもいいし、いい加減『兄貴』はやめて欲しいとレドウは思った。
下手したらシルフィを『姉貴』と言い始めないだろうか?……さすがにそれはないか。
そうこうしているうちにパレード用専用魔導車の準備が出来たようだ。
ラウルのもとに伝令役として若手のピートが駆け寄ってきてその事実を伝える。
「これより新郎新婦による市街パレードが執り行われます!ご列席の皆々様には盛大なるお見送りをお願いしたく、どうぞ当家主城中庭にお集まりください」
ラウルたち騎士団の指示で、披露宴の来賓たちが続々と中庭に移動していく。
先ほど引き剥がされて連れて行かれたアルフもルシーダさんに首根っこをつかまれたまま中庭に引きづられていった。
「全く……アルフは相変わらず調子良いんだから」
「まあそう言ってやるな。それがあいつの良さでもあるだろう」
シルフィも本気で呆れているわけではないようだ。口元が笑っている。
「さ、お二人とも準備が整いました。こちらへどうぞ」
ラウルの案内に従って高砂を降り、中庭に向かう。
シルフィはお色直しで純白のウェディングドレスから、比較的動きやすいセルリアンブルーのドレスに着替えてはいたが、足下が見えづらいことには変わりはない。レドウがシルフィの手を取り、エスコートすることも忘れない。
大広間の出口にはアレクの姿があった。
「パパ、行ってくるね」
「楽しんでおいで。とても良い天気だしたくさん人が集まってくれているようだ。ありがたいことだ。我々は先に講堂に向かうのでまた後で」
レドウに向かって軽く会釈をするとカザルス家とジラールを連れて裏から出て行った。
そう、普段は中庭を経由する正門を利用しているが、実際には市街に出られる裏出口がいくつかある。普段は使用人が食材などの買い出しに出るための勝手口だったりする。
レドウとシルフィが中庭に出ると、披露宴に出席していた来賓客から一斉に拍手で迎えられた。
その間を抜ける際、フラワーシャワーが延々と続く。
「なんか……いいもんだな。こう皆に祝福されるっていうのは」
「ね。私もレドウとこうしてこの日を迎えられて本当に幸せ」
そんなことを話しながら、入り口に用意されたパレード車に向かう。
パレード車に乗り込むといよいよ結婚披露パレードのスタートである。
既にアスタルテ家の邸宅前から道の両脇は、ウィンガルデ市民と思われる大勢の人々で埋め尽くされていた。
特別区の城門が開放されるだけでなく、見送りまで入り口から観覧出来るのだ。
車に乗り込むこの城の前は、場所取りの人気スポットの一つである。
結婚式中は並ぶことが出来ない(新郎新婦が道を移動するため)ので、披露宴開始直後あたりで場所が開放されて人々が押し寄せるため、実はここの警備と整理を行っている第二小隊は非常に大変だったのだ。若手の有望株であるセルゲイと、最近入団したばかりの魔法剣士イリーシャの陰の活躍があったお陰である。
パレードのルートは特別区の城門を抜け、まずは都市区画を抜けウィンガルデ主市街の入口へ向かう。
市街入口で少しお披露目があったのち、商業区画を抜けて公共施設区画へと向かうルートだ。
最終目的地は、国立大学院内の大講堂であり一般市民向けの披露宴が執り行われるという流れである。
先ほどアレクがレドウ達に告げたのは、この最終目的地である国立大学院内の大講堂に先に向かっているという意味だ。
レドウとシルフィの乗ったパレード車はゆっくりと都市区画をすすむ。
出発地点であるアスタルテ家前と比べると人の集まりは穏やかであるが、それでも道の両端は人の隙間なく埋め尽くされ車が通ると一斉に拍手が沸き起こる。
シルフィはパレード車の中から身を乗り出すようにして市民の拍手に応じている。
にこやかに手を振る仕草まで堂に入っている。さすがは生まれながらの王族である。
レドウもそれを見習うように笑顔で手を振ってみる。手の振り方はともかく、レドウのことをもとから知ってる人間からしたら『張り付いた笑顔』であったことは間違いない。
パレード車が市街入口に到着すると、さらに一層の大歓声と拍手で迎えられた。
ここには普段市街で暮らしていない人や、街道沿いの人々が押しかけている。
集まっている人たちはすし詰めのようになっており、しばらくは身動きが出来なそうである。
折り返し地点である市街入り口を越え、パレード車は商業区画に入る。
もっとも人の集まる場所だけあり、街道脇は都市区画とは比較にならないレベルで埋まっており、目的地である公共施設区画の国立大学院大講堂まで人口密度がどんどん増していく状況である。
普段、ウィンガルデでこれほどの人数を見たことがないレドウは、普段みんなどこにいるんだろう?と不思議に思うほどであった。
そしてパレード車は国立大学院前で停車する。ここから大講堂までは歩いて向かう。
パレード車から降りた二人は大歓声を送る人々に対して一礼する。
さらに沸く歓声を背に、二人は大講堂に向かった。
大講堂で行われる一般披露宴は抽選で当選した者だけが参加できる。
二千人ほどを収容できる行動ではあるのだが、二十万人ほどの事前応募があったそうだ。考えるだけでも恐ろしい倍率である。
レドウとシルフィの二人は大講堂の舞台上に設置された高砂に向かって歩く。
これより二刻ほど、大勢の市民の前で王族としての振る舞いを試されるレドウにとって試練の時間が続いた。
……
「つ……疲れた」
式典のスケジュールを全て終え、レドウとシルフィはアスタルテ家の居城に戻ってきた。
応接室のソファに突っ伏す二人。
近くには当主アレクを始め、カザルス家の面々やジラールは居たが外面の取り繕いの時間は終了である。
「お疲れさん。レドウ君も王族の気疲れを身にしみて体感出来たようだね」
アレクがにこにこしながら寄ってくる。
「……精神的にキツイわ」
「全く同感だ。公務というのはどうしても気疲れから逃れられん。わしもここ最近で思い知らされているわい」
同調するようにレドウの父、レナードが仕切りにうなずく。
最近町長になったばかりであるので、そうしたところは非常に共感が持てるのである。
「始めて見る余裕のない兄貴、面白かったよ。それにしてもシルちゃん凄い綺麗だったよ~」
「あ、ありがとう!レーナさんにそう言われるの凄い嬉しい」
シルフィもソファに身体を預けたまま回答する。彼女も疲れ切っている様子だ。
そんな微笑ましい彼女の様子をレーナとレドウの母であるミラがにこやかに見守っている。
「さて、我々も今夜はこちらにご厄介になり、明日シーランに戻る予定だ。二人ともゆっくり休んでくれ」
レナードがこの場の事実上の解散を伝える。
「じゃあ、俺は上に戻ってるわ」
「あ、わたしも戻る。レドウ連れてって」
「あぁ、お疲れさん」
アレクと皆に見守られながら、レドウはシルフィを伴って上へと戻る。
今日から二人の寝室は最上階である五階だ。
これまでのシルフィの部屋は空き部屋に、レドウの部屋だった客間は秘密会議室としての機能だけ維持することになっている。
気疲れはしているものの【聖心のペンダント】効果もあり体力的には全く問題ないレドウが、シルフィを支える形で五階まで戻る……ことはなく、見送りがなくなった時点でゲートを開き、五階の寝室へ一気に到着した。
「やっぱりこれ便利よね」
「これなら余計な体力を使わずに戻れるだろ?」
使い切らずに残した体力は、当然のように全力で愛し合うことに使われた。
そう、二人が疲れ切ってベッドに沈み込むまで……




