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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第五章 光と闇
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第77話 甘い朝

 翌朝。レドウは柔らかな羽毛布団の中で目覚めた。少し気だるさを感じる。

 傍らには温かい抱き枕があった。熱を帯びた肌の感触が昨晩の出来事を生々しく思い起こさせる。


 ついに手を出してしまったなぁという実感があった。だが後悔はない。

 思えば港町シーランの夜……そう、同伴宿に泊まった夜から気づかぬうちに、ある種抑圧した感情がレドウの奥底にあったのだろうと思う。まあ今更である。もうサイは振られたのだ。


 そろそろ起きようかとレドウが身体を動かすと、傍らの抱き枕までモゾモゾと動き始めた。そして布団の中から気恥ずかしさと悪戯っぽさをないまぜにしたような表情の顔が飛び出す。


「お、おはよう」

「あぁ、おはよう」


 ただの朝の挨拶だが、ところ変われば新鮮に感じるものだ。この反応にはやられても仕方ないと思う。レドウの挨拶に、にへへと笑うとシルフィは再び布団の中に隠れてしまう。そのままレドウの身体にしがみついた……ようだ。


「……まだ、起きねぇのか?」


 声は聞こえないが、肯定の意思を示すように首を振っているのが分かる。そしてそのまま動かなくなった。

 『二度寝のシルフィ』という二つ名が、使用人の中で広まるほど朝の弱いシルフィである。彼女に引きずられてこのまま二度寝をしてしまっては、完全に自堕落コースだ。まぁシルフィにとっては普段と何も変わらない朝の行動であるわけだが、ここでレドウは一つの考えにたどり着く。


 真に普段通りであれば、定刻にルシーダさんがシルフィを起こしにくるはずである。


(それはさすがにマズイのではないだろうか)


 つまりこうだ。


 日課として使用人長であるルシーダさんが、お嬢様であるシルフィを起こしに部屋に入る。

 普通に起こしても起きないシルフィのことだから、いきなりベッドの布団を剥ぐ。

 と、そこには何故か裸の男女がいる。

 しかもその女性はお嬢様でした。


 実に想像したくない展開である。


 その光景をイメージしてしまったレドウは慌ててベッドがら出ようとしたが、身体はシルフィによってガッチリとホールドされていた。


 寝ている割に結構な力である。もちろん、強引に振りほどいて起きることも出来るのだが……


(まぁ、いいや。どうにでもなれだ)


 昨晩の久しぶりのハッスルのせいか、だるさを感じていたレドウは起きることを諦めた。

 結局は「今日くらいは良いだろう」と妥協してしまったわけだ。

 【聖心のペンダント】をつけてなかったからかもしれないが……


 そしてそのまま眠ってしまったようで、次に目が覚めたのは昼近くになってからであった。ルシーダさんは何故か起こしに来なかったようだ。


 まだベッドの中でむにゃむにゃしているシルフィを残して服を着ると、静かに部屋を出る。

 幸い周囲に人はいないようだ。当主アレクが復活したのであれば、倒れる前のように皆忙しく働いているのだろうと思う。


 一度、三階の自室に戻って身支度を整えたあと、再び四階に戻り、アレクの執務室へと向かった。

 レドウが入るとアレクは来客対応はしておらず、デスクの上に置かれた紙に何事かを書きつけていた。


「あぁ、レドウ君か。昨晩はありがとう。ルシーダさんに食事をお願いしてくれたそうだな。まだ身体が受け付けないと思ってたんだが、いざ食べてみると美味しくてな。お陰ですっかり元気になったようだ」

「そいつはルシーダさんの腕が素晴らしかったってこったな」


 昨晩、料理を持っていくよう配慮してくれたレドウに礼を言ったアレクは、手元の書類から視線を外してレドウの方を向く。顔色にも血色が戻っているのがはっきりと見てとれる。


「また倒れる訳にはいかんので、まずは人員を増やさなくてはな。そのための募集要項を纏めているんだ。今後レドウ君にも関係することだから、一緒に考えてみて欲しいのだが」


 レドウに向かって手招きをするアレク。どうやら今手元で書いていた紙を見せたいようだ。


「いや、おっさん。その前に。昨日の話なんだが……」


 そもそも今日レドウがアレクのもとを訪れたのは、昨晩の話にYesを回答するためである。

 それをまず話しておかなくてはと切り出したのだったが……


「……うん?あぁ、なに。わかっておる。受けてくれるんだろう?」

「え?」


 レドウはまだ何も話していない。アレクは存外思い込みが激しいのだろうかと訝しむ。

 そんな微妙な表情のレドウを見て、アレクはニヤッと笑みを浮かべる。


「なに。そんな顔をするな。その……なんだ。あれだけ激しく声が漏れてたら、わしだけでなく館内中の人間が昨晩のことを知っとるわ」

「!!」


 どうやら、昨晩のシルフィの嬌声が城中にダダ漏れだったようだ。道理でルシーダさんはシルフィを起こしに来ないわけである。レドウが扉に手を掛けたあの時、ドアが少し開いてしまっていたようだ。

 これは流石に恥ずかしい。

 柄にもなくレドウの顔が赤く染まる。……シルフィと違っておっさんが顔を赤らめたところで可愛くないのだが。


「ふふっ。レドウ君のそんな顔が見られてわしもほっとしとるよ。君は頭脳労働を除けば、完全無欠のイメージがあるからな。少しはそういった人間らしいところが見られると安心する」

「……全然完全無欠じゃねぇよ。てか頭脳労働は最初から考慮されてねぇのか」

「まぁ。それはそれとしてだな……」


 アレクが手元に用意した紙をレドウの前に持ってくる。そこには新規採用に伴う募集要項が事細かに記載されてあった。


「こういうことをレドウ君が苦手としていることは知ってはいるが、目は通しておいてもらいたい。細かい微調整はアイリス君にお願いする予定なので、首尾よく人材が集まるようなら、我々は判断だけ下せば良いだけになるだろう」


 レドウはアレクからその紙を受け取り、書かれていることを確認する。

 なにかアスタルテ家における新しいポストと役割が事細かに記載されているようだが、その詳しい内容はレドウには理解できなかった。


「おいおい理解してゆけばよい。当分はわしが居座るんで急ぐ必要はないからな」

「そいつは助かる。当分どころかあと50年も現役でいてくれりゃ、俺は何も覚えなくて済みそうだ」

「わしは化け物じゃないぞ。無茶言うな」


 がっはっはと笑いあう二人の男たち。


「失礼します」


 そこへアイリスがやってきた。大灯台で一緒でなかったために、レドウにとっては随分久しぶりに会った気がしている。


「お!アイリス。久しぶりだな」

「レドウさん。……夜はほどほどに」


 うぉぃ!アイリス。お前もか!と、ツッコミたい気持ちを抑え「あ、あぁまぁな」と、曖昧な返事しか返せないレドウ。そんなレドウを尻目にアイリスはアレクの方を向いた。


「閣下のご指示通り、一日あたりの訪問者数を制限して再スケジュール~通知しました。あと最重要案件以外は一通りサンデルさんのところで取り纏めてもらってます。そのままサンデルさんに案件ごと引きとってもらって、うちとしてはサンデルさんと取引をする形を取っても良さそうです。同じことがユーキ様についても言えますが、彼はサンデルさんのサポートに回って頂いている状態です」


 アイリスからサラサラっと現状報告が行われる。内容は簡潔で的確だ。


「わかった。当面サンデルには苦労をかける形になりそうだな。彼の取り分を多めにカウントしておいてくれ。あと待ってもらっている最重要案件についてだが、明日から対応する。スケジュールを客人に通知してくれ。そして……」


 アレクは先ほどレドウに見せていたのと同じ内容が記載されている紙をアイリスに渡した。


「改めてうちの人間として人を雇おうと思う。ここにポストのリストと募集要件を記載した。内容の漏れがないか確認して欲しい」

「拝見させて頂きます」


 受け取った紙に一通り目を通すアイリス。


「武官は今まで通りですが、財務官・交渉官を束ねる文官長が必要になると思いますが……閣下がそのまま行いますか?」


 アレクの渡した紙には各担当官について、事細かく記載されていたのだがその担当官を統括するための人材とポストが記載されていなかった。


「それなんだがな。いきなり部外者に担当させるわけにもいかんので、しばらくアイリス君に兼任してもらいたいのだ。そのうえで、文官の中から優秀で信頼できる人物を文官長に引き上げて、アイリス君には相談役という形で落ち着いてもらおうかと思っている。一時的にだが負荷が掛かってしまい申し訳ないが、やってもらえるか?」


 アレクがすまなそうな表情でアイリスを見る。


「承知いたしました。わたしの方は問題ありません。騎士団の方は小隊長が育ってきておりますので、しばらく任せて大丈夫だと思います」

「本当にすまないね。君がいなかったら今どうなっていることか」

「いえ、これは当家にとって嬉しい悲鳴です。レドウさんがいなかったらこうはなっていなかったと思います」


 アレクとアイリスのやり取りについていけず、二人を俯瞰して見ていたレドウだったが、突然話が振られて驚いている様子だ。


「ま、まあな。流石は俺だな」


 残念なことに、レドウの返しはよくわからない内容だったので、華麗にスルーする二人。

 レドウはどこまでも脳筋である。


「では、そのように進めます」


 アイリスは一礼して退室する。部屋に残されたのはアレクとレドウだ。


「アイリスは騎士というだけじゃなく、やっぱり優秀なんだな。俺にゃさっぱりわからん言葉を操ってやがる」

「いや、レドウ君はもう少し学んだ方が良さそうだな。君は武官と言っても宮廷魔術師だ。宮廷魔術師は頭脳労働者だからな」


 諦めモードのレドウを一刀両断するアレク。レドウは深くため息を吐いた。覚えなくてはならないことが山ほどありそうである。


「まあそっちは当面アイリス君に任せておけばいい。我々は祝言の準備も進めないとだな。折角のお祝い事だ。ド派手にいこう」

「い、いや地味でいいんで。いやホント……」

「何を言うか!(シルフィア)の晴れ舞台ぞ。全力を出し切る以外の選択肢などないだろう。さ、レドウ君にも協力してもらうからな」


 ノリノリのアレクの前に、レドウの意見は完全に塗りつぶされたのであった。


台風の風が凄いですね。会社帰りに危うく吹き飛ばされるところでした。

皆様もお気をつけて。

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