第7話 雷光蟲
レドウを先頭に、三人は遺跡の中に入った。中に光はないのか真っ暗のようである。
背後の入り口からは光が注いでいるが、当然奥の方まで届くはずもない。
「……光魔法が必要か。おいガキ、光魔法は使えるか?」
「いい加減名前で呼んでくれないかしら」
表情はよく見えないが、シルフィが抗議の声をあげる。
「使えるか使えないかを聞いてんだ」
「……今は使えない」
「そうか。まあ仕方ないな」
レドウがゴソゴソと懐の魔晶石を探し始めたその時だった。
「入り口が!」
入る時に自動で開いた扉は、三人が内部へ入るのを待っていたかのように自動で閉まり始めていた。
とっさに扉を掴み、閉まるのを阻止しようとするシルフィとアイリス。が、当然のようにそんなことで閉まる動きは止まらない。
「危ねぇ!扉を離せ!」
レドウはシルフィを抱きかかえ扉から引き剥がした。その動きを見ていたアイリスは、同時に扉から離れた。
次の瞬間、低い音と共に扉は完全に閉まった。
入り口から注いでいた光は完全に閉ざされ、三人は暗闇の中に閉じ込められた。
「自動で開いた扉が、自動で閉まる。そんな仕掛けに抵抗してもこっちの身体がイカれるだけだ。無茶するんじゃねぇ」
「あ……あ、ありがとう」
「私も少し軽率でしたね」
「五体無事だっただけでも良かったと思わないとな。しかし、この暗闇のままは辛ぇな」
じっとしていると少しずつ目が暗闇に慣れてきたようだ。だが何か行動を起こせるほどではない。
完全に光をなくした遺跡内で、3人の声だけがやや反響して響く。
「声の響きの感じから、このフロアのそこそこの広さを感じるな」
「内部を照らす光魔法、レドウさんは使えますか?」
期待のこもったアイリスの問いかけだ。
「あぁ、太陽並みの明るさだ。まぶしすぎるのと、使ってる間は俺が戦闘参加出来なくなるんで、あまり使いたくないんだが……アイリスは使えるか?」
「いえ残念ながら使えないですね」
「仕方ねぇな」
レドウは再び懐をあさり始める。が、光のないなか、該当の魔晶石を探すのは困難だ。
「ねぇ……ちょっと」
「なんだ?クソガキ」
「助けてくれたのは嬉しいけど、いつまで私の胸を……」
「こんな暗い中ではぐれられても困る。少しぐらい無い胸つかまれた程度で騒ぐな。ちっと我慢……痛って!」
どうやらシルフィに腕を思い切り噛みつかれたようだ。だが、ここで離すわけにはいかない。
「わかった!わかった!俺が悪かったから噛むな。マジ痛てえわ」
若干手の力を緩めるレドウ。噛みつきも止まった。
が、振りほどいて逃げる様子はない。暗闇で単独行動することの危険性は分かってもらえているようだ。
(さて、どうしたもんかな。光魔法使おうにもこの暗さじゃどれが光の魔晶石かわからんしな)
と、その時暗闇の視界の端で青い光が見えたような気がした。
「もしや」
レドウは立ち上がるとゆっくり暗闇の奥へ2歩3歩と歩いた。
すると、青白い光が突然現れ、闇の世界を照らしながら遺跡内部に広がっていった。
「これは?」
「幻想的……綺麗」
シルフィもアイリスも不思議そうな顔で光を見つめている。
「こいつは雷光蟲ってやつだ。魔物の一種だが、害はねぇ。暗い遺跡を明るく照らしてくれるありがたい生き物だ」
「人に反応して光ってるのですか?」
「正解だ。俺も詳しくは知らねえが、おびえて警戒するときの光……だそうだ」
雷光蟲の光が遺跡の内部の方までゆっくりと照らしながら広がっていく。それに合わせたように徐々にレドウの表情が厳しくなっていった。
しばらく眺めていたアイリスも、静かに腰の剣に手をかけた。
「お。流石だな。気付いたか」
「囲まれてます!数は10~20程度。いえ、もっといるかも」
「え!」
シルフィは分かっていなかったようだが、二人の様子をみて慌ててタクトを構えた。
「分かってると思いますが……レドウさんは魔法禁止ですからね」
「なぜだ!魔法使いなのに!」
わかっていなかった。いや、わかっていないフリなのだろうか?
「貴方の魔法じゃ、大事な雷光蟲まで焼きつくしてしまいますよね?」
「あ……」
やはりわかっていなかったようだ。
「私が最前線に立ちます!シルフィは魔法で後方支援、余裕があったら火の魔法で攻撃を。レドウさんは私が打ち漏らした魔物の残党狩りとシルフィの護衛をお願いします!出来るだけ陣形は崩さないように!」
アイリスは手早く指示を出すと背中に背負った盾を構え、剣を抜いた。
その剣は盾も含め、身につけている装備品と比較して明らかにランクが異なる上等な一品のようだ。
「しかたねぇ。緊急事態だ。護身用の剣を使うか」
レドウも背中に背負っていた大きな両手剣を構えた。バスタードソードというやつだ。当然のように通常魔法使いが持ち歩く装備ではない。
俺は魔法使いのはずなのになんでこんな剣を構えて……とぶつぶつ呟く声が聞こえてくる。
「きます!」
3つの黒いものが先頭のアイリスに襲いかかった。
アイリスは慌てることなく最上段から打ちおろし、返す刀で右へなぎはらった。この時点でまず2頭を仕留める。
同時に左から迫っていた1頭については、盾で打ち返すように受けとめ、卒倒したところに止めを刺した。
「犬魔物だな。ずいぶん育ってやがる」
「同時3頭までなら問題なさそうですが、それ以上来たらフォローお願いします」
襲いかかってきた犬魔物は一頭一頭がレドウと同じくらいかそれより大きかった。
「このデカさ、一頭相手にするのもそれなりに大変なんだが……。ほんと何者だよ」
犬魔物の群れによる波状攻撃はやむことなく続いていたが、ほとんどはアイリスの剣閃で絶命していた。
ときおり剣舞をかいくぐってレドウのところまで到達する犬魔物もいたが、そこはレドウの剛剣で行く手を阻んでいた。
そんななかシルフィはずっとタクトを握り締めたまま目をつぶって祈りを捧げるようなポーズで何事かを呟き続けていた。
レドウとアイリスがここまで疲れ知らずなのは、実はシルフィの支援魔法によるものだった。
「ファイアボール!」
かと思うと、突然大火球を生み出しては攻撃もしていた。
そもそもレドウの火魔法の威力がおかしいだけであって、シルフィの火球は充分な威力で犬魔物を屠っている。
この調子なら問題ないだろうと踏んだか、レドウが前に出たくて仕方ないといった素振りを見せ始めた。
「アイリス、そろそろ俺も暴れたいんだが、魔法使わないならいいよな?」
と言うと、返答を待たずにレドウは犬魔物の群れの中に飛び込んだ。
何度か投稿しているのですが、上手く反映されないようです。複数投稿になってしまっていたらごめんなさい。後で重複分を削除します。




