第68話 大灯台を登れ
レドウ以外の五人で一斉に扉を押すと、ギギィと金属が軋む音とともにゆっくりと開いていく。
そして、人一人分が通過出来る分が開いたところで、パーティは中に足を踏み入れた。
最後にレドウが灯台内部に入ると、皆一様に上を向いて唖然としている。
レドウも上を見るとその理由が判明した。
この『北の大灯台』という建造物は、中央が大きく吹き抜けとなっている以外は、円形の壁に沿って延々と螺旋階段が上部まで続いていたのだ。
そしてやっと視認できる遥か上部に、点のように見える光がありそれが恐らく屋上への入口だ。
つまり、この建造物には一階と屋上しかないのだ。
事前にヘルマンから報告があったように、螺旋階段のところどころに光取り用と思われるの窓があいているため、塔の中は薄暗いが真っ暗というわけではない。
「この塔が建造されて以降、一千年の永き間誰も踏み入れることが出来なかったのですから、どうなっていても不思議ではないですがこれはある意味圧巻ですね。一体どうやって建造されたのか」
ジラールは唖然としていたというより、むしろ建物に見惚れていたようだ。
「でもさ、これ登る俺らにとっちゃ冗談じゃ済まない階段だよな……」
「わ、私これ登れるかな?」
「途中で足踏み外したらアウトだよね?」
とても不安そうなシルフィとレーナ。
「全く問題ない。鍛錬の活かされる時だ」
ヘルマンが舞った。
そう、まるでこの遺跡の探索のための技術であるかのように、鍛え上げた?風移動が彼の身体をグングン押し上げ、あっという間に見えなくなってしまった。
「うっ……あのフワフワが役に立つだなんて」
レーナが非常に悔しそうだ。外で散々馬鹿にしていた結果がこれである。自分の方が馬鹿であったと認めざるを得ない空気だ。
「心配すんな。ヘルマンのアレが本気で役に立ったのは今回が初のはずだぞ。たまたまだ」
レドウがフォローを入れるもジラールとユーリの次の言葉で更に落ち込んでしまう。
「ヘルマンのあれを真似するのは流石に無理ですが、先に行って待ってます」
「レドウさんも早く来てね!」
そういうと二人とも風移動を発動すると滑るように螺旋階段を駆けて行ったのだった。
残されたのはレドウたち三人。
「わ、私は風をセットしてないよ……セットしてても使ったことないし」
確認するまでもなくシルフィから答えが返ってくる。
タクト自体を振るったことのないレーナに至っては聞く必要すらない。
レドウは吹き抜けを見上げた。
ヘルマンの姿は全く見えないので既に最上階に到達しているのかもしれないが、ジラールとユーリと思しき豆粒が、内壁の階段をくるくると回りながら登っている様子が確認出来る。 普通に登ったんじゃとても間に合わない。
「よし、俺たちは裏技を使おう。レーナ、階段を上るジラールとユーリの気配が分かるか?ヘルマンの気配もついでに分かったら嬉しいが……」
適材適所。ここは狩人である妹に頼る。
妹ならそれが出来るはずだ。
「任せといて!……ん。やっぱり一人は随分上の方にいて、もう動いてないみたい。これが多分ヘルマンよね。それに向かって円を描きながら登っていく気配が二つ。一番上の気配を基準にするとちょうど真ん中あたりに二人ね」
「ということは、結構距離があるのか。刻むか」
見えている位置のやや手前を狙って転移ゲートを開くレドウ。
「あ、これって」
妹は、盗賊のアジト娘達を逃がした時の魔法を思い出す。
「シルフィ、先に入って様子見てくれ。間違っても下を見るなよ?」
「わかった!」
転移ゲートに首を突っ込んでキョロキョロと周りを見渡すシルフィ。
「大丈夫。ちゃんと足場のあるとこよ。階段に手すりがないから、その点は注意ね。入った時に足を踏み外すと危ないかも。先に行くね」
「気をつけろよ。そう言いながら階段踏み外して落っこちるお前を助けるの大変だからな」
「失礼ね。大丈夫よ」
シルフィがゲートをくぐって姿が消える。かなり高いところにシルフィが移動したのをギリギリ肉眼で確認出来る程度だ。
レドウは妹を見る。
「シルちゃんの位置は全体の四分の一くらいのとこね」
「かなり上まであるな。よし、レーナも行ってくれ。シルフィにも言ったが入った瞬間の足場に気をつけろ」
妹がゲートに消えるのを確認してレドウも首を突っ込んで様子をうかがう。
階段はそれなりに幅があるので、狭くて危険ということはなさそうだ。手すりがないのはいただけないが。
ちなみに最初に入ったシルフィは壁に張り付いている。妹もシルフィほどではないが、壁寄りに立っていた。
「ま、その辺が一番安全だな」
「……かなり怖いんだけど。落ちたら死んじゃうよね?」
壁に張り付いたままのシルフィはそこから一歩も動けないでいる。そんな様子を眺めながらレドウも移動してゲートを消す。
「落ちなきゃいいんだ。帰りは一気に降りるからな。上りだけだ。本当は少し登って感触を確かめておきたいところなんだが……まぁ、いいか。この様子じゃ無理そうだな」
その後もレーナの探知で位置を確認しながら少しずつレドウ組の三人は登っていき、しばらくして、屋上に到達した。
少しくらいは歩いていかないとただでさえ怪しいのに、ますます怪しくなることを避け最後のニ百段くらいの階段を足で登った。
全体の行程からすると最後のほんの少し……一瞬に近い距離だが、階段を上る体力がないシルフィにとってはそれだけでもかなりの負荷だったようである。
「の、登ったよ……」
到着するなり、大の字で寝そべるシルフィ。お嬢様が台無しである。
さすがに普段から鍛えているレーナは到着するなり倒れるようなことはないが、それでも足できっちり登るとそれなりに息は上がっているようだ。レドウも似たようなものである。
「思ったより早かったですね」
ジラールが到着したレドウの方を見る。
さすがに風移動で登った彼らに体力的な疲れはなさそうだ。
ヘルマンに至っては屋上からさらに上空へフワフワと浮かんでは降り、降りては浮かびを繰り返している。この男は地上にいるときとやることが変わらない。
「レドウさん!景色が凄いですよ!リーデル平野が一望できます!反対側は一面の海です!この海の向こうには大陸と異国があるという話ですが、ここから見ても全く見えないなんて相当遠いってことですよね!それにですね、こっちにはアルカス山脈が……」
登ってきたレドウに話しかけたのはジラールだけではない。
シルフィがノビているのをこれ幸いと、ユーリがマシンガンのように話しかけてくる。
会話の内容のほとんどが景色に関してのことなのは、それだけこの北の大灯台からの景色が素晴らしいからである。ヴィスタリアにはこれを越える高さの建造物などない。
西には広大なリーデル平野が広がっているのが見える。
さすがにウィンガルデは遠すぎて見えないが、地平線の先にうっすらとタルテシュらしき都市が見える。
そうレドウが言うと、ジラールから「あれはタルテシュではなく宿場町サレーン」だと否定された。
実際のところ、ジラールが正解である。
北を見ると、左手には今居る位置より高くそびえ立つアルカス山脈の偉大な姿が確認でき、右は海だ。
さらに右に視点を移動した東方向は海一色である。
港町シーランを出発した交易船はこの海の果てにある異国と貿易を行っているが、そのような異国があることをこの高さからでも確認することは出来ない。
南には港町シーランがあるのが見える。その先にロイズ地区らしき湿原と田園風景が広がっているはずだが、さすがにそこまでは霞んでいてはっきりとは見えない。
そんな感じでユーリとの塔の縁一周デートを終える頃、シルフィが復活した。
レドウの左腕にぶら下がるようにひっついているユーリに対抗し、シルフィが右腕にぶら下がる。
そんな状態で二人があっちへ行こうこっちへ行こうと引っ張る。
「おい、二人ともいい加減にしろ身体が裂けちまう」
二人程度の力では当然そんなことはないのだが、まあ気持ちは分かるといったところでジラールから助け船がでる。
「ユーリ、さっき一緒に回ったのだから譲ってあげなさい。それより貴女にはこちらにきて祭壇の調査をして欲しいのですけど」
「は、はい……すみません」
ユーリがレドウ達から離れる。
シルフィがやや勝ち誇った顔をする。
「ここは見るからに祭殿だ。そろそろ俺たちも中央の祭壇を見るぞ」
シルフィはレドウの言葉にうなずく。
レーナも力強くうなずく。彼女は祭殿にまつわる話をあまりわかっていないはずだが、彼女には自身に言い聞かせた使命があった。
そう間者を警戒し、兄貴とシルフィを助けることである。




