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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第四章 勃発
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第63話 レーナ

 翌朝レドウが目覚めると右腕に重さを感じた。

 寝起きでちょっと曖昧な頭をフル回転させて記憶をたどる。

 そしてシルフィと港町シーランの同伴宿に入ったことと、シルフィが風呂に入っている間に多分寝てしまったということを記憶から理解する。


(……ってことは、この腕にひっついているのがシルフィか)


 レドウはベッドから起き上がろうととして、ぎょっとする。

 同伴宿の寝間着を着てはいるものの、前が完全にはだけているシルフィが自分の腕に絡みつくように寝ていたからだ。


(こ、これは……このまま目を覚まされたら厄介な事案になる)


 寝起きが悪いシルフィのことだ。そっと離れれば起こさずに済むと判断し、抱き枕にされている腕をゆっくりと引き抜く。

 ミッション成功である。

 そしてこっそりベッドを抜け出すと、改めて布団を掛けてやる。ここまで来れば完全に保護者モードだ。

 

 浴室で顔を洗っていると、どうやらシルフィが目を覚ましたようである。

 レドウが部屋に戻るとちゃんと服を直したのだろうシルフィがベッドの脇にちょこんと座っている。


「おう、おはよう」

「……」


 無言のシルフィ。


「なんだ?朝機嫌が悪いのは出先でもか?」

「お……おはよう」


 どうにも歯切れが悪い。起きた時の自分の格好を見て動揺しているだけだろうと考えたレドウ。


「起きたんなら飯食いに行くぞ。そのまま行くか?」

「き、着替える!」


 着替えを荷物から掻き出してパタパタと浴室に駆けていくシルフィ。


「覗かないでよねっ!」


 さっき見えたから覗かねぇよと、反射的に喉まで出かかった言葉を必死にこらえる。

 わざわざ怒らせる必要はないのだ。

 レドウも一応外に出られる服に着替える。朝食を食べに出るのに荷物を置きっぱなしで良いのはこの同伴宿の特徴だ。


 シルフィが浴室からなかなか出てこない。

 ちょっと着替えるだけだからすぐ終わるはずだ。


「まだか?」

「ちょっ、ちょっと待って。すぐ行くから」


 急にドアの向こうでバタバタする音が聞こえる。

 ほどなくしてドアから顔を覗かせるシルフィ。どうやら髪を纏めるのに時間が掛かっていたらしい。


「ど、どうかな?」

「どうもなにもシルフィはシルフィだろ?時間過ぎると飯下げられちまうからさっさと行くぞ」


 ぷぅと膨れるシルフィ。

 まあ気にしてたら何も出来ないとさっさと食堂に出るレドウ。

 一階には、昨日フロントにいた兄ちゃんが、変わらない満面の笑みで二人を出迎える。


「いやぁ!おはようございます!昨日はお楽しみでしたか?」


 さらっと聞いてくる兄ちゃん。そもそもこういう宿だ。兄ちゃんに悪気は多分ない。


「あぁ、良い部屋だったよ」

「それは良かったです。お連れ様も可愛らしいですし!」


 うん。悪気はないはずだ。

 シルフィは複雑な表情をしているが、まあここはほっとけばいいだろう。


 ご機嫌の兄ちゃんに案内されるまま席に座る二人。

 すぐに朝食が用意される。見るからに豪華な朝食である。


「今朝、港で水揚げされた新鮮な魚のお造りと海の幸をふんだんに使った煮染めと焼き物です!あとでお吸い物も出ますので」

「ず、ずいぶん豪華ね?」


 出てくる料理に唖然とするシルフィ。


「お客様は港町シーランは初めてですか?夜は皆さん店でお酒を飲まれておりますので、私たちと致しましては朝食が腕の見せ所なのです。どうぞご堪能下さい」


 深々と一礼をしてその場を去る兄ちゃん。


「ま。そういう文化の街なんだよ。魚も朝の方が新鮮で旨いしな」


 出された料理にさっさと手をつけながら説明するレドウ。説明よりも朝食に意識が向いているのは間違いない。

 シルフィも自分の前に並べられた豪華な朝食を見る。本当に美味しそうである。


「いただきます!」


 最初はおずおずと料理に手を伸ばすシルフィだったが、その速度はどんどん上がり先に食べ始めたレドウを一気に抜き去ってあっという間に食べ終わってしまった。


「おいしー!」


 大満足のようだ。

 兄ちゃんがお吸い物と小鉢を持ってくる前に、並べられた料理が片付いてしまう。


「美味しいのは分かったが、もっと味わって食べた方がいいぞ」

「ちゃんと味わってる!こんなに美味しい料理、王都では食べたことない!」

「……ウィンガルデにも旨い飯あるけどな?こういう海産物の旨さは味わえないが……」


 そういうレドウももう少しで食べ終わりそうだ。


 レドウは過去の経緯からこの辺の宿は何軒か使ったことがあったが、特にこの宿の朝食は美味しかった。

 専属の漁師と仕入れの契約でもしているのかもしれない。


 その後兄ちゃんが持ってきたお吸い物も非常に美味であった。


 宿を出て街に繰り出したレドウとシルフィ。

 初夏の爽やかな風が、ちょっとだけ湿っぽい潮の香りを運んでくる。


 やがて港が見え、その先に海が広がっているのが見えるところまでくると、シルフィが海に向かって突然走り出した。

 柵のところで立ち止まりその向こうに広大な水の世界を眺める。ちょっと鼻をつくツンとした香りがより強く感じるところだ。風も少しべたついて感じる。


「これが……潮の香り」


 誰に聞くでもなくシルフィがつぶやく。

 海のちょっと湿気を帯びた風が優しく頬を撫でていった。


「別に心地よいもんでもないんだが、これを感じると戻ってきたっていう気がするんだよな」


 後からついてきたレドウも海の方を見る。


「な。見た感じはリーデルサイドから見る景色とあんま変わらないだろ?」

「ううん。そんなことない。結構違うよ」


 そう言ってしばらく海を眺めるシルフィ。

 このあと海沿いの『北の大灯台』に向かうんだから、嫌っていうほど見るのにと思いつつも、レドウは黙ってシルフィの様子を見ていた。


「そういやさ、シーランの店をまわって見たいって言ってなかったっけか?」


 ピクっと反応するシルフィ。


「そうだった!いけない、時間なくなっちゃう」


 シルフィは海の方が気になりつつも街の方に戻っていく。

 レドウには詳しくは分からないのだが、シルフィによるとシーランはウィンガルデとは違った服の流行の発信地なのだそうだ。

 この機会にそれを見て回らないと損する……とのこと。


 細かいことはよく分からないがレドウの感覚では、季節によって生地は違えどウィンガルデはいろいろ着込んでいる人が多く、シーランは薄着の人が多いという印象だ。

 というかそれ以上はよく分かっていないというのが正直なところ。まあ見たいなら納得するまで見ていきゃいいとレドウは思う。明日からの探索に必要な物は既に準備出来ているのだから。


 一件目。

 どう?と試着室から出てきたシルフィ。

 着ていたのは、女性用のタンクトップに襟ぐりが広く空いたTシャツを重ね着したスタイルでボトムは生地が厚めのホットパンツ。

 足のラインが強調され、若さと元気さを全面に押し出した快活さ全開の服装である。

 お店の人は「とってもお似合いですよ」と言うが、どの店でもそう言うのでこれは当てにならない。


 二件目

 次に試着室から出てきたシルフィが着ていたのは、薄手のワンピース。

 腰より高い位置でベルトのようなものをしているスタイルだ。店員によるとハイウエストというらしい。


 三件目

 次に試着室から出てきたシルフィは薄いピンクのブラウスに白のレースをあしらったスカートというスタイルであった。

 これは普段とあんまり印象が変わらない気がする。そうレドウが言うとシルフィも納得した様子だ。


「ねぇ、さっきの三つだったらどれがいいかな?」


 シルフィがレドウに尋ねる。


「う、それを俺に聞くか。……そうだな。最初のがいいんじゃないか?」


 そもそもよく分かってないんだから俺に聞くなよと思いつつ、レドウは一件目の服がちょいと扇情的ではあるものの動きやすそうで、戦闘の邪魔にならなそうだ。という素直な感想からそう応える。

 それを聞いてシルフィの表情がパッと明るくなる。


「そうね!私もそう思ってた!」


 一件目の店に向かって早足で商店街を闊歩するシルフィ。その勢いに押されつつ人混みをかき分けながらレドウが必死について行く。

 商店街は人であふれかえっている。どうしてこの人混みをスイスイ進めるのかレドウには全く理解が出来なかった。

 レドウがやっとのことでシルフィの姿が見えるところまで追いつくと、その目に飛び込んできたのは勢いよく店に入ろうとしたシルフィが、店から出てくる女性客と衝突する瞬間だった。


「あっ……ごめんなさい!」


 とっさに謝るシルフィ。

 ぶつかった女性客の荷物がその場に散乱してしまっていた。


「何やってんだよ……」


 レドウもその場に駆けつけ、慌てるシルフィと共に荷物を拾い集めて女性客に手渡す。


「あれ?兄貴?」


 女性客がレドウを見て首をかしげる。

 シルフィと衝突した女性は妹のレーナだった。


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