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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第四章 勃発
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第60話 幕引き

「これより決闘の結果を申し付ける。両家代表者はこちらへ」


 立会人であるソーマ=イスト=パーンの号令でアスタルテ家代表としてアレク=イスト=アスタルテが、マーニス家代表としてグリフィス=イスト=マーニスがそれぞれ前に進み出る。

 決闘開始前には決闘を行う当人が代表者となる。しかし、決闘終了後には決闘者の片方は必ず亡くなっていることと、勝者側も満身創痍であることがほとんどであるため、決闘報酬の授与の際には、決闘者が属する家の代表者が呼ばれることが慣習である。

 もちろん決闘者本人が代表として出ても良いのだが、爆風の余波を完全に防御できていた訳でないためレドウも重傷であり、後ろでシルフィの看病を受けている状態だった。まあそもそも生き残っている事が本来は奇跡なのだが。


「勝者レドウ=カザルスを称え、決闘報酬を告げる。

 一つ、アスタルテ家へのマーニス家からの永続的な不干渉を神に誓うこと。

 一つ、決闘賠償金としてマーニス家はアスタルテ家に五千万リルを支払うこと。

 一つ、マーニス家管理下にある遺跡のうち指定する五カ所の採掘権をアスタルテ家に譲渡すること。

 これらの措置を速やかに実施することをヴィスタ聖教神の名において命ずる」


 立会人ソーマがマーニス家代表のグリフィスに向かって告げる。


「ヴィスタ聖教神に誓って実施致します」


 グリフィスがソーマの背後にあるヴィスタ聖教神像に向かって頭を垂れ、恭順の意を示す。

 これは儀礼のようなものだ。


「アスタルテ家代表に申し付ける。本日より七日以内にマーニス家より上記報酬における誓約書を受領し、ヴィスタ聖教会へ報告をすること。譲渡を受ける五カ所の遺跡を今指定するか?」


 立会人ソーマがアスタルテ家代表のアレクに向かって告げる。

 アレクは懐から一枚の紙を取り出し、ソーマに渡す。

 紙を受け取ったソーマは、記載されている内容を確認しうなずく。


「ヴィスタ聖教神の名において、以下五カ所の遺跡採掘権をアスタルテ家に譲渡することをマーニス家に命ずる。

 一つ、アルカス山脈の『聖白鉱(アルカシウム)第一鉱山』

 一つ、タルテシュ南部に位置する『ログナルタ坑道』

 一つ、リーデル大河に面する『南岸遺跡』

 一つ、港町シーランの南に位置する『風吹く丘』

 一つ、テール半島にある『北の大灯台』

 以上だ」


 ソーマが読み上げるたびにグリフィスの顔が苦渋の表情でゆがむ。

 そのすべてがマーニス家の主要収入であったからだ。これを譲渡するということは、マーニス家の収入の3分の2を明け渡すことになる。


「馬鹿なっ!取り過ぎだっ!」


 抗議の声を上げるラーギル。

 だが、その抗議は続かない。大神殿を守護する聖教騎士に取り押さえられたからだ。第一位ヴィスタリア家お抱えの守護騎士である。


「控えよラーギル。これはヴィスタ聖教神の命である。お前が抗議して良い道理はない!」


 次男ラーギルを一括するグリフィス。

 すでに当主ユリウスを彷彿とさせる貫禄を身につけつつあある。

 改めてソーマに一礼し、再びヴィスタ聖教神像に向かって畏まる。


「承知致しました」

「これにて奉納戦を終了とする!」


 威厳に満ちたソーマの声が決闘場に響く。

 アスタルテ家はマーニス家に勝利したのだ。


……


「……で、余を呼び出しておいて、それだけか?」

「は?」


 初老の男ユリウスは、とある応接室に来ていた。会話の相手は壮年の男。

 ユリウスは先ほど目の当たりにしたレドウの戦いぶりと、その実力。レドウが『闇』の解放者であることが濃厚であり、かつカザルスの名を持つことから『行使者』である可能性について、連絡したところである。

 これは自分たちにとって最重要情報であるはずで、最優先に連携すべき内容と判断し壮年の男を呼び出したのだ。だが、予想外の反応で面喰ったのはユリウスの方である。


「だからお前は踏み込みが浅いというのだ。そもそもレドウなる者が『闇』解放者である可能性、『種』の討伐に加担している確証を既に余は把握しておる。知らなかったのはレドウなる者が『カザルス』を名乗っているという事実だけよ」

「耳がお早いようで」

「で、当方陣営への組み込みはどのような算段になっているのだ?余が効きたいのはそっちだ」

「その点については……金や名誉、地位などで靡く人間ではなさそうなので、その……難しいのではないかと考えているが」


 口ぶりでは必死に平静を保っていたが、内心は煮えくりかえる思いである。

 そもそもわれらは同志ではなかったか?

 既にレドウなる者の調査を開始しており『闇』の解放を行った者であると調査済みであるならば、何故わしにその情報をくれぬのだ。

 

「まあ余はどちらでもよい。引き入れることが出来れば大いなる力となる。出来ぬならただの障害だ。その意思に変わりはない。もう良いな?あまり余計な時間を取らせるでない」


 壮年の男は席を立つとユリウスを振り向きもせず部屋をあとにした。

 残されたのはユリウスだ。


「おのれ。なんという扱い。このままで済ませると思うなよ。いずれわしが……いやしかし、ともかく足りないのは情報だ。奴には圧倒的な情報力がある。わしもそれを強化しなくては対抗できぬ」


 誰もいなくなった(・・・・・・・・)応接室をユリウスもあとにすると、その足で研究室に向かった。


「……馬鹿な男だ。まともに頭も回らぬ癖に人並みに野心を持つか。まあ役に立つうちは使えば良いが」


 先ほど部屋から出て行ったはずの壮年の男が闇の中から姿を現す。その動きは暗部そのものである。


「入れ」


 男がそう告げると部屋に壮年の男が戻ってきた。先ほどユリウスと会話していた男だ。二人ともそっくりである。

 ……よく見るといろいろと違いがある。所作や細かい癖などはそっくりであるため、普段会っていない人間だったら気づかないかもしれない。

 ましてや普段から影武者と会話させられていたのなら気づきようもないが。


「さて、ここからが本題だ。俺の見る限りレドウというやつは本物だ。カザルスの名も恐らくは直系で間違いないだろう」

「ですが兄者、であるならいずれ我々の敵になる相手。今のうちに潰しておく必要があるのでは?」


 後から入ってきた方が、闇から現れた壮年の男に『兄者』と呼んだ。

 闇から暗部のように現れた方が明らかに上位者である。


「まあそう急くな。あくまで大昔の言い伝えだ。今の世を生きる人間が、そのようなカビの生えた使命を理解しているとは思えぬ。我々のために使えるものは全て利用するのが当家の流儀だ。あの力は実に役に立つ。マーニスの魔導兵や魔導爆弾など子供の遊びよ。真に強きはレドウの持つ『闇』の力だ。アレが手に入るのであればワイズランド連邦どころかパルロカ大陸の全てをこの手中に収める事が出来るというもの」


 壮年の男は拳を力強く握りしめた。


「マーニスのところは三男の馬鹿のおかげで表立ってアスタルテと対立したようだが、そもそも奴らが我々に敵対しようとしている情報はない。いざとなればマーニスを切り捨てて取り込めば良いだけの話だ」

「さすがは兄者。では私は今まで通りマーニス家の動向を見張っていれば良いですね?」


 兄者と呼ばれた男は小さくうなずくと闇に溶けた。

 そして影武者はいつものように威厳たっぷりに部屋を出て行ったのである。


……


「主任!エリック主任はおるか!」


 研究室に入るなりユリウスの怒号が響き渡る。

 度重なる不愉快な出来事が彼の怒りの感情を最高潮に押し上げている。

 それを直接浴びせられる職員たちはたまったものではない。蜘蛛の子を散らすように研究室のメンバーは自身の実験室に籠もってしまった。


 その場に残ったのは副主任のオルストフとその専属研究員のコロナである。


「副主任!エリックのやつはどこだ?」


 オルストフに当たるユリウス。


「所長。怒鳴って解決しないことを怒鳴らないでください。研究員たちが逃げてしまったではないですか。あぁ、主任ならいつもの実験室だと思いますよ」

「呼んでこい!」


 動じないオルストフに主任を呼ぶよう命ずるユリウス。だが反応して動いたのはコロナだ。


「出来る部下がいるというのは羨ましい身分だな?おい」


 そんなオルストフに嫌みたっぷりのユリウスだが、そんなことで一々反応していたのでは副主任は務まらない。

 にっこり笑って対応する。


 程なくしてコロナに連れられて主任のエリックが一つの実験室から姿を現した。


「おぉ!閣下……所長じゃないですか。いやいや、実験はいかがでした?大成功でしょうね?そうだと思いましたよ。いえ実はね、あの試作品こっそり含有エネルギー量を水増ししておいたんですよ!直径1ヴィーレ程の範囲を更地に出来る破壊力ですよ!もうこれは夢の大量破壊兵器ですね」


 相変わらずのうざったい主任の雄弁だが、その言葉の内容を聞いたユリウスが耳ざとく反応する。


「待て。エリック。通常より破壊力を上げていたというのは本当か?想定威力に誤りはないな?」


 五月蠅いと怒られることを想定していたエリック主任だが、予想外のユリウスの反応に戸惑う。

 実験成果と内容に対してこういう食いつきをされることなどこれまでになかったのだ。

 オルストフとコロナも同様だったようで、静かに会話に聞き入っている。


「え、えぇ本当ですが。上手くいきませんでしたか?」


 ユリウスはちょっと考えた上で、決闘場での出来事を話す。

 爆発規模も決闘場内に収まり、真にエリックの言う通りであれば、観客席もろとも消し炭になっていたはずである。

 そして念押しをする。


「二度とこっそり威力を上げるなどという馬鹿な仕込みをするな。下手をしたらわしも巻き込まれているではないか」

「あ……その点については申し訳ありません」


 爆弾の威力増強はエリックの純粋な遊び心だったようだ。惨事を招きかねない事態だったことを聞いて小さくなっている。


「結果的には良かったですけど、やっぱり変ですよ。含有エネルギー量はちゃんと測定してますのでね、間違いないです」

「やはり、やつのせいか。爆発の中生き残ったレドウ……か」


 ユリウスが何気なくつぶやいた。が、これに食いついたのはコロナだ。


「レドウだって?!マジかよ」

「なんだ。知っているのか?」


 目をむいてコロナを睨むユリウス。


「おい、おっかない顔すんなや。ちゃんと話すからよ。俺が南方で人造魔導兵の検証実験してたのは知ってるやね?んで、そのコードナンバーβ(ベータ)だけど、レドウっちゅう村人に討伐されたんよ。その前に俺も剣を合わせてるからな、マジで強えやな。あいつは」


 その報告に今度はオルストフが続ける。


「その報告を伝えるために今日戻ってきたんですがね、その様子じゃちと遅かったみたいですな」

「てか、決闘していたレドウが俺と戦ったレドウ?こっちに戻ってくるの早くねぇ?ロイズ地区にいたんやぞ」


 その後もレドウに関する情報が複数出てきたが、目を見張るような新しい情報は特になかった。

 ユリウスの中で超一級の危険人物判定されることには変わりなかったのだから。


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