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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第四章 勃発
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第58話 戦いの行方

 先制の一投で始まった決闘はその後膠着していた。

 

 ミュラーはその後剣には手をつけず、投擲の構えをしたままジリジリと間合いを図っている。

 レドウに至っては、背中のクレイモアに手をかけたまま抜きもせずにミュラーの次の行動を伺っていた。

 

 円を描くように出方を伺っている両者の距離は少しずつ確実に狭まっている。

 時折牽制するようにミュラーの手から放たれた投げナイフがレドウを襲う。だが警戒しているレドウには当たらない。逆に投げた瞬間の隙をついて詰め寄るレドウに対して再び距離をとるミュラー。そして投擲でレドウを襲う。


「……何を狙ってるんだが知らねぇが、もう分かった」


 レドウが踏み込む。


 その強靭な脚力で一気に距離を詰めると上段からクレイモアを叩き込む。

 するとミュラーも腰に差した異様な風体の剣を抜き、その一撃を受け止める。異様に見えた原因は刀身が布で保護するように巻かれていたからだ。

 レドウの剣を受けた際にギンッという鈍い金属音が鳴ったため、中身が金属であることは間違いないのだが。


 理由は不明だが、布でまかれた剣に突きと打撃以外の攻撃力はない。

 意図が読めずに怪訝な表情をしたレドウだったが、そのまま上段、袈裟、横なぎと攻撃をつなげる。

 レドウの攻撃にミュラーは反応して布の剣を合わせてくる。それだけでもそれなりの実力者であると分かる。


 だが、レドウの剣撃についてくる人間は冒険者にも数多くいる。今更焦るほどの話ではない。

 さらに連撃を繰り出した上で体重をかけた重い上段からの一撃を繰り出した。

 大抵の相手であればこれで決着がつくという、レドウの必殺の一撃である。


「ここだ!」


 その瞬間、ミュラーは自身の布の剣を峰打ちに持ちかえ、レドウの斬撃を受けとめた。

 いや、違う。レドウのクレイモアが布の剣に食い込んだ。

 衝撃が若干布で吸収されたと思った次の瞬間、レドウのクレイモアは鈍い金属音とともにへし折れたのだ。


「ソードブレイカーか?!」


 剣に巻かれた布は、ミュラーの持つその剣が形状でソードブレイカーだと分からせない為の作戦だったようだ。

 クレイモアを折られたレドウに、ミュラーの第二撃が襲いかかる。

 刀身が折れて短くなったクレイモアでその追撃をかわすレドウ。しかし、今度は持ち手ごと跳ねあげられる。


 素早く距離を取るレドウ。

 そこへミュラーの投げナイフが連射で襲いかかる。


「本気を出せ!その腰の二振りの剣は飾りか!」


 ミュラーがナイフで襲いながら挑発し、避け続けるレドウに更にナイフの投擲を続ける。


「やれやれ。ソードブレイカーを持ち出すとは考えたな」


 レドウは右手で片刃剣(ファルシオン)を抜くと、襲いかかるナイフを二、三本叩き落とした。

 ミュラーの追撃が止まる。

 ナイフは真っ二つに斬れて(・・・)いた。


 これ以上ナイフを投げても無駄と判断したミュラーは再びソードブレイカーを構える。


「言っておくが、それ(ソードブレイカー)はもうやめたほうがいい」

「ぬかせ!」


 レドウの忠告を聞かず、ミュラーはブレイカー側の櫛刃を構える。

 聞きわけのない奴だとレドウはミュラーとの距離を詰めると、片刃剣(ファルシオン)で斬りかかる。

 ブレイカーで受けるべくミュラーが剣を合わせてきたが、レドウはそのままソードブレイカーの刀身を根元から斬り落とした(・・・・・)


「お前に同じ言葉を返してやる。本気を出し、そのもう一本の剣を抜け。全力を出し切れないまま殺されたんじゃいたたまれないだろう?」

「その言葉、後悔させてやる。俺が本気を出す前に倒し切るべきだったとな」


 ソードブレイカーの柄を捨て、腰の一刀を抜いた。『焔の剣』だ。

 ミュラーの全身から剣気が発せられる。剣に秘められた力に呼応するように闘気が上昇しているかのようだ。


「魔刀か」


 レドウは左手の剣も右の腰から抜いた。

 魔元素を含む剣の中にはまれにその力によって使用者の身体能力を強化させるものがある。

 まさに目の前にいるミュラーが持っている『焔の剣』がそれに該当する。

 剣の持つ火の魔元素の力が、あたかも強化魔法を使ったかのように作用しているのだ。


「勝てる!勝てるぞっ!」


 ミュラーが吠える。


 静かに……だが、恐ろしく滑らかな動きで突きの構えを取る。と、次の瞬間レドウとミュラーの距離がなくなった。

 単純にスピードが速かったという訳ではない。

 無駄のない洗練された動きがレドウの反応を鈍らせたという表現が正しい。


 その突きを前進方向に沈み込んでかわすレドウ。重心をコントロールしているため体勢は全く崩れることなく、そのままレドウのチャンスとなる。

 レドウの防御、立ち位置に警戒したミュラーがバックステップで距離を取る。さっきまでミュラーが立っていた場所をレドウの片刃剣(ファルシオン)が風を切って通過する。

 文字通り紙一重でレドウの反撃をかわしたミュラーだが、レドウはそもそも体勢を崩していない。

 

 厳しいタイミングでレドウの第二撃がミュラーに襲いかかる。これはかわせない。


 ギギン!と剣と剣がぶつかる音が響き渡る。

 先ほど鉄製のナイフを切った(・・・)レドウの片刃剣(ファルシオン)だが、『焔の剣』に刃こぼれの気配はない。


「いい剣だな。俺が欲しいわ。条件につけとけば良かった」

「ふざけるな!いい加減その余裕の仮面を剥ぎ取ってやる」


 ミュラーは『焔の剣』の他に背負っていたやや小さめのバックラーを装備すると、猛然と突っ込んできた。

 剣は両手で持っているが、片手にも持ち替えが可能なアタッカースタイルだ。


 レドウも退くことなく前に出る。

 そして突進型の突きをいなすべく、若干体軸をずらした。


 だが、その回避を読んでいたかのように、ミュラーはレドウの間合いで強く利き足で踏み込み、突きを強引に袈裟斬りにスイッチする。

 前に踏み出していたレドウはこれをかわしきれないと悟るや、左手の剣でこれを受けそのまま右手の剣でミュラーの腹を狙う。

 しかし、ミュラーの斬撃が思ったより重かったため、レドウの突きの狙いが若干下に外れた。

 

 ミュラーは剣を支えに上方へ飛んでレドウの突きを躱すことに成功する。そしてそのまま横向きに一回転した勢いを使って剣を横に薙いだが、これは完全に読まれておりレドウの剣で弾き返された。一旦距離をおくミュラーだが、レドウは追撃を仕掛ける。


 と、ここでミュラーは剣を掲げた。

 剣からまるでタクトで火魔法を操ったかのような大火球が現れ、追撃を仕掛けるレドウに襲いかかる。


 《マスターへの攻撃意思を持った魔元素の動きを検知しました。吸収しますか?》

 (いや、ここは躱す!まだ消せることを悟らせたくない)

 《承知。避けやすく魔元素の動きを阻害します》


 タクトの精から魔元素吸収の提案があったが、レドウはこれを退けた。マーニス家の連中も見ているのだから出来るだけ奥の手を見せるのは避けたいところだ。

 【王者のタクト】のサポートを受けながらミュラーの剣から放たれる大火球(ファイアボール)を避け続けるレドウ。


「な!そんな馬鹿な!これを躱せるだなんて……」


 驚愕したミュラーが剣の魔法を止める。

 再びレドウとミュラーのにらみ合いになった。


 実際のところ、レドウは全部を躱せていたわけではない。

 躱しきれずに……つまり本来であればダメージを食らうような箇所だけ、こっそり【王者のタクト】が魔元素を吸収していたのだ。

 結果、その事実を知らない者にとっては、レドウが紙一重で火球を躱し続けているという神業級の体術を身につけているように見えるという仕組みだ。


「おぉ!」


 思わず感嘆を漏らす当主アレク。

 彼はレドウの戦いを直に見るのは初めてだ。驚きを隠せないのもうなずける。


「すごいとは聞いていたが、これほどとは」

「特に今日の動きは神がかってますね。それだけ本気だということでしょう。ここまでの戦いは私たちも見るのは初めてですよ」


 アレクの驚きにアイリスが共感する。

 ちなみに小隊長であるリュートとラウルの二人は口をポカンと開けたまま硬直していた。


「でも、結構危ない橋渡ってそう。レドウ……頑張って!」


 シルフィはレドウの戦いをしっかり脳裏に焼き付けるべく凝視していた。


……


「どうだ、うちのミュラーは。勝ってるか?それとも無様な負け戦かな?」


 マーニス家側に一人の男が現れた。初老の男だ。


「は、父上。今のところ互角の戦いをしておりますが、当家側が劣勢になりつつあります。弟が弱いというより相手が強いように感じます」


 跪いて初老の男に応えたのは長男グリフィス=イスト=マーニス。

 そう、この初老の男こそ現マーニス家当主ユリウス=イスト=マーニスであった。


「ふん、だがこれは決闘だ。勝ちか負けかのいずれかしかない。ラーギルよ、アレは渡してあるのか?」

「ええ、もちろんですとも」


 次男ラーギル=イスト=マーニスが恭しく頭を下げる。

 当主ユリウスがそんな次男ラーギルに視線を向ける。


「ならば少なくとも負けはないか」


 当主ユリウスは決闘場に視線を向けた。

 そこではレドウとミュラーの死闘が続いている。


 すべて躱されてしまう魔法での攻撃を諦めたミュラーは自らで鍛え上げた剣術にすべてを賭けた。

 だが、そのミュラーの剣術は悉くレドウの剣によって阻まれる。『焔の剣』の効果で強化しているにもかかわらず……


 レドウはレドウで、それほど余裕があるわけでもなかった。

 さすがにマーニス家の神童と呼ばれた騎士、性格はともかくその技術は確かなものであった。

 

(ちっ、二刀流じゃないとさばき切れなかったとか。用意しといて良かった。さすがにまだ死ぬわけにいかねぇしな)


 そしてその均衡は些細なことで破られる。

 ミュラーの上段斬りを狙って左の剣で受け流す。一瞬崩れたミュラーの体勢に体当たりを仕掛けたレドウ。吹き飛ぶミュラー。

 ここに踏み込んで両手による嵐のような剣撃で畳みかける。レドウによる剣舞である。

 

 なんとか剣で受け続けるが、ついに限界が訪れる。

 キンッという高く耳障りな音を立てて『焔の剣』が折れたのだ。慌てて距離を取り、懐のバゼラートを取り出して構える。


「終わりだな。残念だがお前を斬るしか終わらせる手段がない。覚悟するんだな」


 両の手に持った剣を緩く振りながら、ゆっくりとミュラーとの距離を詰めるレドウ。

 歯を食いしばりすぎて顎から血を流すミュラー。


「こ、これほどとは……もう俺には後がない。こんな手を使いたくはなかったが……お、俺は負けるわけにはいかないんだっ!」


 ミュラーは投擲武器と言って持ち込んだ鉄球のような物を、くくりつけた腰から勢いよく引きちぎった。


《マスター!警告です。魔元素の暴走を感知しました。危険です。これより自動制御(オートモード)に移行します》


 突然のタクトの精からの警告に歩みを止めるレドウ。


(どういうことだ?)


《説明している時間がありません。

 魔元素の暴走制御……失敗

 暴走魔元素核の隔離……失敗

 爆発規模の制御……結界の構築完了……》


(爆発だとっ!)


 ミュラーは手にした鉄球をレドウに向かって投げた。

 とっさに手で身体を庇う仕草をするレドウ。


《最終モードに移行します。

 魔元素吸収効率の最大化……完了

 魔元素吸収速度の……》


 レドウがタクトの精の言葉を最後まで聞くことなく、世界が白く輝いた。

 決闘場全体を巻き込む規模の大爆発がレドウとミュラーを飲み込んだのだった。


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