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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第四章 勃発
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第56話 次なる一手

 その夜、アスタルテ家のレドウの部屋の例の円卓にシルフィとアイリスがいた。何をしているかと言えば、レドウを待っているのである。

 通信魔導具経由でレドウに召集をかけているので、もうしばらくでやってくるはずだ。


 そもそも通信魔導具があるのならわざわざ集まらなくても良さそうなものだが、大事なことは出来るだけ対面で確認しておきたいと思うのは人の本能かもしれない。ともあれ転移ゲートが使えるレドウにとってはどちらでも労力はそれほど変わらない。


 この円卓は以前レドウがタクトの精の提案で《防音空間》と《入場制限空間》の魔法で囲った会議用の円卓である。現在でも大事な会議はここで行うようにしていた。盗聴される可能性が一切ないのがこの場所の強みだ。

 先日入団試験で入団希望者(に扮した間者(スパイ))が、アスタルテ家の警戒網を潜り抜けた他家暗部に殺害されたのは記憶に新しい。警戒を強めているとはいえ、いつ他家の暗部に侵入されるかわからないのが正直なところだ。完璧にはとても届かないのが現実である。


 ただでさえ頭数の少ないアスタルテ家なのだ。どうしてもセキュリティ面で手薄なことは否めない。

 しばらくして、円卓に転移ゲートが現れレドウがやってきた。


「すまん待たせた。ところでどうだ?なんか動きはあったか?」


 円卓に腰をかけながら切り出すレドウ。それにアイリスがうなずく。


「正式に決闘の日程が通知されました。三日後……今日はもう夜ですので明後日の昼ですね。ウィンガルデ大神殿に併設されている決闘場で行われます」

「山の上か」


 ヴィスタ聖教では争いの決着をつけるための手段として、神前での決闘が正式に認められている。

 教えによれば、決闘は本来の実力の如何に関わらず、神に祝福された主張の正しき者に勝利が与えられるとされていた。決闘はヴィスタ聖教にとって聖なる儀式の一つであり、そのため専用の決闘場が備えられているのである。


「マーニス家が当日決闘を妨害したり、不正やレドウさんに不利な決闘条件とならないようパーン家当主に依頼してきました。どこまで効果があるかわかりませんが、少なくとも彼自身は品行方正で知られる英傑ですし、当日の妨害はほとんど回避出来たと考えていいはずです」

「そうか。それは助かる。といっても警戒を怠るわけじゃねぇけどな」

「えぇ、完璧はありません」


 レドウとアイリスは顔を見合わせてうなずく。


「ちなみに、そのミュラーってのはどういう戦いをするんだ?一応剣士なんだよな」


 ここで初めて決闘相手について興味をもつレドウ。

 対峙した感覚から得た力量から勝てるだろうと考えていたようだが、全く情報無しで突っ込むつもりもなかったようである。


「不明ですね」

「じゃあまあいいか」


 即答のアイリスに軽いレドウ。このやり取りにガクっときたのはシルフィである。


「あのね、いちおうマーニス家で最も剣術の才に恵まれた騎士だったはずよ。12歳で騎士団入りする異例の実力を持つ天才剣士って言われてたから。まあそれをこれ見よがしに鼻にかけるから嫌いなんだけど」

「なるほど、じゃあそこそこ強いってことだな。わかった」


 あくまで軽いレドウ。

 話をちゃんと聞いてくれていないと感じたシルフィがさらに畳みかける。


「ほんと油断しないでよね。レドウが負けたら死んじゃうし、あんなのが当主になったらアスタルテ家全体が不幸になるんだからね!」

「大丈夫だ。あのガキ相手じゃ死にたくても死なねぇよ。心配ねぇって」


 自信満々のレドウ。勝利を疑っていないアイリス。

 結局、決闘を一番不安に思っているのがシルフィだ。


「そういえば、レドウさんの収穫はいかがでした?何か情報はありました?」


 話題を変えるアイリス。レドウは何も身を隠す意味だけでタルテシュに行っているわけではない。

 決闘が無事終われば、『鍵』と『祭壇』を探して『神器(アーティファクト)』収集が再開される予定だ。

 二つの神器(アーティファクト)を入手できたのは良かったが、風関連の情報が全く集まっていない状況は変わっていない。


「それがな、ジラールのやつは何かの依頼で出ちまってるみたいで、タルテシュにいねぇようなんだ。ギルドに確認もしたが不在だな。仕方ねぇんで一日飲んでた」


 一日遊んでいたことを報告するレドウ。いつもであればアイリスやシルフィから非難が飛ぶところだが「レドウがタルテシュにいる」ことが必要である以上、ジラールがいないのではどうしようもないことは明白である。レドウはタルテシュにいなくてはならないのだから。

 

「収穫なしってことですか。しかもジラールさんが依頼で出てしまっているのでは決闘までの間に戻ってくることはなさそうですね」

「ま、久しぶりの休暇だ。ゆっくり休ませてもらうわ」

「ハメ外しすぎないようにね」


 双方の情報の確認をレドウは再び転移ゲートをくぐってタルテシュに戻っていった。


……


「ふんっ!ふんっ!」


 マーニス家の庭ではミュラーが剣の素振りをしていた。

 決闘に向けて気合十分といった様子である。その剣速は非常に鋭く、一振りごとに短く風を切る音がする。よく見ると剣筋に無駄はほとんど見当たらない。さすがはマーニス家における稀代の神童騎士といったところだ。


(シルフィアの為にも、あんなふざけた野郎に負けるわけにはいかない!)


 黙々と稽古に打ち込むミュラー。

 商業系王家であるマーニス家に生まれついてしまったがために、彼には家柄というプライドと他人を見下す癖がついてしまった。

 その癖を顧みることなく、当然のことであると本能的に理解してしまったことが彼という人物の最大の欠点である。


 実はその点を除けば、剣を磨くことに対しては非常に真面目で真摯に向き合っていた。

 環境さえ違って生まれついたなら……そう例えばハズベルト家やパーン家に生まれついていたなら、歴史に名を残す名騎士となっていたのではないかと感じられるほどだ。


 だが、現実に彼はマーニス家の三男であり、自身の野望をもった一人の王族である。

 剣術と騎士としての立場は、目標を成就するための大事な武器であると考えていた。そしてそれはこの世界において決して間違ったことではなかっただろう。

 

 彼は勢いに任せて決闘を申し込んでしまったことをやや後悔していた。

 決闘は実入りも大きいが同時にリスクも大きい。

 ゆえに本当に本当の最後の手段としてとっておくべきだったのだ。


 だが、彼の若さが判断を鈍らせた。ましてや決闘である。若気の至りで済まされる話ではない。

 しかも自分が喧嘩を売った相手、レドウとかいう魔法使い。あれは恐らく熟練の達人である。冷静になるとそれがよく分かる。

 確実に勝てる保証のない決闘。その事実はミュラーに例えようのない興奮と若干の後悔をもたらしていたのだ。


(ならば確実に勝てるよう最後まで稽古を続けるべきだ。勝つのはこのミュラーだ。そしてこの手にシルフィアを!)


 それが今のミュラーの原動力である。

 決闘に勝てた時の喜びは、彼に至福の時をもたらすであろう。


「おぉ。麗しの弟よ。気合いが入っておるな」

「ラーギル兄さん!」


 ミュラーが稽古中の中庭に一人の男が現れた。ラーギルである。

 商才がなく家族に冷遇されていたミュラーにとって、この小兄さん(ラーギル)はマーニス家の中で唯一の味方であり、恩人でもあった。

 自分に剣士としての才能があることを見いだしたのもラーギルであり、騎士団の入団テストへミュラーを推薦したのもラーギルである。


「この決闘はマーニス家にとっても負けるわけにはいかないから」

「その通りだ。負けは許されぬ。当家に泥を塗るでないぞ。お前が負けるということはお前を支援してきたこのラーギルの立場も危うくすることだ。しかと心得よ」


 ラーギルはミュラーの前に回りその眼をじっと見る。


「可愛い弟よ。お前はどんな手を使ってでも勝たなくてはならぬ。よいな。このラーギルより決闘に向かうお前に贈り物をしよう。これを使って必ず勝利をもぎ取ってくるのだ」


 パチリと指を鳴らすとラーギルの使用人が二つの品を持ってくる。

 一つはマーニス家の家宝『焔の剣』だ。

 そしてもう一つは……


「こ、これは小兄さん!どういうことですか?!」


 それを見て驚愕するミュラー。


「今のお前に最も必要な装備だ。これを使って勝利をその手につかめ。失敗は許さぬ」


 ラーギルの眼が鋭く光る。獲物を狙う猛禽類のようだ。


「しかし、これを使うということは……」

「お前にはその覚悟がないというか?どんな手を使ってでも勝たねばならぬ。そう言ったであろう。その覚悟がないのであれば、こざかしい決闘などで相手に余計な権利を与えぬようこの場でお前を斬る」


 スっとラーギルの影が一瞬ブレる。

 そのことにミュラーは気づいただろうか。気づいていようが気づいていまいが、結果は変わらない。


「わかりました。これを使い、必ずや我らがマーニスに勝利を」


 ミュラーが敬礼する。その様子を見てラーギルは口元をゆがめて笑みを浮かべる。


「それでいい。お前なら出来る」


 ラーギルはそう言ってミュラーの肩を軽く叩くと城に戻っていく。

 残されたのは小刻みに身体を震わせながら立ち尽くすミュラーのみであった。



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