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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第四章 勃発
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第55話 パーン家当主ソーマという男

 アイリスはパーン家を訪れていた。

 デュランダル返却のために訪れて以来である。


 当主ソーマ=イスト=パーンとの謁見を申し出ると、すぐに城の応接に通された。

 この場所も前回ソーマ閣下と会話した部屋である。


「よく来てくれた。あれから(デュランダル)の調子はどうかね?」


 応接室のソファに身体全体を預けるように座ると、ソーマ閣下は開口一番託した(デュランダル)の調子を聞いてきた。

 パーン家の魂とも言える家宝の聖剣を自らの意思で託した手前、その使い心地等を気にするのはパーン家当主というより武人ソーマとして感想を聞きたいという素直な想いであろう。現在は引退した身であるが、現役時代は『鬼のソーマ』とも『戦場の死神』とも呼ばれ恐れられた王国正規軍の誇る英傑の一人である。

 当時から続く西の大国であるワイズランド連邦との小競り合いは、規模こそ縮小しているが今もなお続いている。


「残念ながらあれから剣の活躍の場がなく、真価を発揮できる機会に恵まれておりません。いずれ機会を得られましたら感想をお伝えしたいと思います」


 丁寧に頭を下げるアイリス。


「よい。別に急ぎはせん。して、何か用向きがあって訪れたのではないかな?」


 レドウの名は敢えて出さなかったが、アイリスはマーニスの三男ミュラーからアスタルテ家の者に決闘を申し込まれていること、またその経緯。そして本人は決闘を受ける気があるが、規定などをよく理解していないためそこを突いて不利な戦いを強いられる可能性があることから、アスタルテ家として危惧していることなどを説明した。

 アイリスの説明をよく咀嚼するように聞き入るソーマ。


「どちらかが有利不利になるような買収工作をマーニス家が行えず、正々堂々と決闘が成されるようお力添え頂きたい旨、お願いにあがりました」

「一つ聞きたいのだが、その……アスタルテ家側で決闘を申し込まれて行う者は代理を立てないのだな?」


 ソーマの眼が力強くアイリスを射貫く。

 しかしその眼力に答えるようにまっすぐ見つめ返すアイリス。


「はい。彼は私とともに地竜(グランドドラゴン)討伐を行ったパーティの一人です。決闘に際して代理を立てなくてはならないような者ではありません」

「事情はわかった。正々堂々と決闘を受ける故、土足で汚されるような真似をされたくないと、こういうことだな」


 アイリスが無言でうなずく。


「マーニスの小倅のことはわしもよく知っている。アレはアレでなかなかの腕前よ。やや血気盛んな面があるから、自信を持って決闘を申し込むのも理解出来る。だが、本人にその気がなくともマーニスの家の者であるからという理由で、家側が手を回す可能性は確かにある。その点を気をつけたいところよの。そしてアイリス殿の見立てでは実力的にはアスタルテ家が有利と」


 意図を正しくくみ取ったソーマ。

 

「わしは立場上、神聖な決闘においてどちらかの一方に有利になるような取りはからいは出来ぬ。だが、同時に聖教会の教えに背くような立ち会いを正規軍騎士にさせるわけにもいかん。アイリス殿には恩義があるゆえ、わしに出来うる範囲で公正な決闘となるよう手配させて頂こう」

「ありがとうございます」


 アイリスが深々と頭を下げ、パーン家を去るとソーマはすぐに行動にでた。

 決闘の申請は一度聖教会にて受け付けられたのちに、正規軍騎士から代表者が任命される流れとなっている。すでに申請自体はされているだろうから、あとはどこまでその処理が進んでいるかであるとソーマは考えていた。


 そしてその状況を知るには、懇意にしているハズベルトの当主ライゼルに確認するのが一番早いだろうと判断し、ソーマはハズベルト家を訪れたのだった。


「おぉ。よく来たな。どうした?何かあったか?」

「いや実はな……」


 ことの顛末をハズベルト当主ライゼルに説明するソーマ。

 マーニスの画策が入ってなければ良いのだがという懸念についても伝える。


「なるほど。さすがソーマ。もってる者とはお主のような男よ」


 にやりとしたライゼル。

 そのまま応接の棚に無造作に置かれた書類を持って戻ってくる。

 そしてその書類をソーマに手渡した。


「これが決闘の申請書類だ。ちょうど先ほど聖教会の使いから連絡があって受け取ってきたんだがな……ここを見てみろ」


 ライゼルが指さしたところには申請特記事項が書かれている。

 立会人には正規軍第三師団長のレイノルドをと指名されていた。


「通常立会人の指定なんぞしないのが慣例だ。だがさして気にするほどの話ではないゆえ、お前に言われなければそのまま受理するところだったが、これはクサいな」


 レイノルドはハズベルト家の騎士団員である。

 一般公募から試験を受けて実力で師団長の座についた人物であるが、バックボーンのないことや実家が貧しい農家であることから、マーニス家にしてみれば買収しやすい正規軍上位者とも言える。


「早速背後関係を洗わせよう。買収が事実なら残念だが平騎士へ降格だな。初犯で魔が差しただけなら改めてチャンスをやってもいいが」


 ライゼルがパチリと指を鳴らした。

 最強と呼び声の高いハズベルト家の暗部が動き出す。


「まあ仮に買収が事実であったところでそれを元にマーニス家を責めるには弱い。無駄金払っただけという形である意味罰則を受けているのと同様だからな」

「その点はわしはまあ良いと思うのだよ。決闘が裏工作によって汚されることを避けたいだけだ。結果は聖教の教えによって下される」

「であるならソーマ、俺はお前を立会人に指名しようと思うがどうだ?」


 ライゼルは再びにやりとする。

 ソーマの清廉潔白ぶりは他の誰よりも信頼できるとライゼルは考えている。

 彼がアスタルテ家に恩義を感じていることは知っているが、そのようなことで公正な決闘においてどちらかに肩入れするような性格ではないことを誰よりも理解していたのだ。


「分かった。このわしが立会人を引き受けよう。アスタルテ家の決闘当事者である者に少々興味がある。もちろん結果如何ではその場限りとなってしまうだろうが、為人(なりひと)を見てみたいのよ」

「相変わらずお前も根っからの武人だ。引退するのは早かったのではないか?」


 豪快に笑い合う二人の武人たちであった。



……


「なに!レイノルドが更迭されただと!どういうことだ」


 マーニス家の豪華な一室で一人の若い男が暗部を怒鳴りつけていた。

 この男はマーニス家の次男ラーギルである。


 弟のミュラーが決闘をすると聞いてすぐに手を回したのはこの男である。


「あの馬鹿ミュラーのせいで、何故この私かここまで気をもまなくてはならんのだ!」


 ラーギルは年の離れた弟ミュラーをマーニス家の駒として見ていた。


 商才もなく、裏工作も出来ず、ただ吠えるだけの馬鹿だが騎士としての才能を見いだしたラーギルは、幼い頃より弟に剣の道をそれとなくほのめかせ、なんとか正規軍に送り込むことに成功したのだ。その上でミュラーを通じてマーニス家の息がかかった騎士を少しずつ増やし、徐々にマーニス家の影響力を強めていくのがこの男の作戦であった。そしてやっと子飼いの騎士であるレイノルドが師団長に届いた矢先の出来事である。

 ちなみに、マーニス家の息のかかった騎士たちを束ねる役を仰せつかっていたのがレイノルドである。


 今回、ミュラーの馬鹿が『決闘』などという馬鹿げたことを申請してきてしまったため、順調に進めていたラーギルの思惑に思わぬ亀裂が生じたのがきっかけである。

 弟ミュラーには今後もマーニス家の駒として正規軍の中で働いてもらわねば困るラーギルにとって命の危険が伴う『決闘』を行うことなど愚の骨頂であった。

 

 そこそこ剣は振れるが真の強者と戦ったらミュラーはかなわぬだろうと踏んでいたラーギルは、すぐに対策を打ったというわけだ。

 立会人に息のかかった騎士(今回で言うとレイノルドだが)を指名し、身体検査の無防備なタイミングで相手に致命傷を与える作戦であった。死人に口なしとはよく言ったもので、一度決闘場に立ってしまえば不正などあってなかったことにされる規定を逆手にとったやりくちである。


 だが、それは誰の思惑か達成されずに潰えた。

 それがラーギルにとって納得のいかない結果となったのだ。


「決闘の最中に相手を吹き矢などで仕留めることは出来るか?」


 ラーギルは暗部に問う。

 作戦の変更など最もラーギルの嫌う行為であるが、目的の未達ほど苛立たせる結果はないのだ。


「難しいです。単純に距離があり吹き矢では届きません。弓などで狙撃することは出来ますが明らかな外部介入とバレますので、下手したらマーニス家の取り潰しとなります。そのような危ない橋は渡れません」

「忌々しい限りだ」


 歯ぎしりをするラーギル。


「あとは事前に暗殺することも考えたのですが、あの日以降決闘相手の姿を確認出来ておりません。警戒して身を隠しているものと思われ、容易に目的を達成するには至らないかと。当日の狙撃暗殺も難しいと考えます。立会人による暗殺が最も適した手段であることに代わりはなかったのですが……」

「もうよい!下がれ」


(こうなっては非常に不本意だが馬鹿の剣の実力に賭けるしかないか。せめて『焔の剣』でも持たせるか。いやまてよ、あとはアレだ)


 こうしてマーニス家ラーギルの事前工作という策謀は失敗に終わった。

 だが、すぐに次の手を打つべくラーギルの頭脳は恐ろしい勢いで回転を始めていた。


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