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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
幕間 ~ジラールの冒険
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第49話 探索者ジラール

 安全策をとったジラール一行にとって実に地味な作業が続く。

 遺跡内を風移動(ウィンドウォーク)で駆け回って地図を作成。

 一刻ほどそれを続けたら、帰還開始。水が引くことを確認しながら再び開始。この繰り返しである。

 

 それでも二日目にはそれなりのマップが出来上がっていた。

 風移動(ウィンドウォーク)で徒歩移動の二倍程度で移動できているものの、その他多くの遺跡と比較するとほぼ平均かやや小さめの印象である。


「およそ遺跡の概要は見えてきましたが、非常に不可解です。あの大量の水はいったいどこから流れ出て、どこに消えるのかが皆目検討もつかないということが最大の問題ですね」

「仕掛けらしきものが一切なかったよね」


 ため息混じりに話すジラールに、ユーリも同調する。


「だが、現実に水は現れ侵入者を排除するように遺跡を飲み込む。これでは探索など思うように進まないのは当然か」


 ヘルマンもお手上げ気味につぶやく。


「ともかく出来上がったマップをよく見てみましょうか。ユーリ」

「はい、これです」


 ジラールの言葉にユーリが現時点でのマップを広げる。


 井戸を入り口として上下に道があり、下が本来の入り口に続いている。

 上に向かってしばらく一本道が続いたあと、碁盤の目のように通路が張り巡らされており、そのうちの三本が折り返しが繰り返す回廊となって続いた上で、広間に繋がっている。

 また、三つの広間はそれぞれが広めの回廊で繋がっているため行き来は可能だが、そこから先には道が繋がっている気配はなく、今のところ階層の広がりもなさそうに見える。


 結局のところ、この遺跡において探索に時間がかかるのは碁盤の迷宮で正しい道が判別しづらくなるからであり、遺跡の規模そのものの大きさが巨大というわけではない。

 しかし、時折どこからともなく現れる大量の水が遺跡を埋め尽くすため、危険な場所であるということには変わりないのだ。


「この三カ所の広間。ここを少しずつ調査していくしかなさそうですね」


 再度遺跡に潜る三人。目的地ははっきりしているため、まっすぐ目的地である広間に到達する。


「床と壁、双方の調査を念入りにお願いします」


 ジラールは二人に指示を出すと、自身もじっくりと部屋の様子を観察する。

 と、ここで一つの異変に気づく。最初に遺跡に潜った時に本来の入り口付近で感じた違和感と一緒だが今度は逆のパターンである。


「ユーリ、壁が乾いてないですか?何度もこの場所が水没しているのなら、壁が濡れているかもしくは相応の湿気があっても良さそうなものですが」


 急いで壁を確認するユーリ。


「確かに、師匠の言うとおりです。この壁に濡れた形跡がありません。本当に水没しているのでしょうか?」

「そうですか……風移動(ウィンドウォーク)のせいですね。私としたことが遺跡の大事な点を見逃してました。ヘルマンさん」

「はいよ」

「床に注意して入り口までゆっくり戻り、水没したあとのある境を特定して来てください。あとついでに入り口からこの部屋までが、ゆるやかな坂になっているかも確認できるとベストです」


 ヘルマンはジラールの言葉にうなずくと光魔法(ライト)を発動し、徒歩で通路へと戻っていった。


「ユーリ。あなたは、ほかの二つの広間に水没の後があるか確認してきてください。私はここでヘルマンの帰りを待ちます」

「わかった。任せといて」


 ユーリも同じく光魔法(ライト)を発動して広間と広間をつなぐ通路へと入っていった。

 二人を見送ると、ジラールは考え込む。


(あまり先入観に囚われて決めつけはよくありませんが、この部屋もしくは他の二つの広間には何かあるはずです。ほかの部屋の状況によっては……いや、しっかり確認して動くべきですね)


 程なくしてヘルマンが戻ってきた。


「ジラール、分かったぞ。完全水没している跡があるのは碁盤回廊までだ。この広間へ続く折り返し通路だけが緩やかな上り坂になっていて途中で水没の跡がなくなっている。少し分かりづらいが間違いない」

「やはりそうでしたか。とするとユーリに行かせている他の二部屋も水没していない可能性が高そうですね。となると水没の心配をせずにじっくり調査を……」


 ジラールがそこまで言ったとき、地鳴りのような音が近づいてくるのが聞こえた。とっさに警戒するジラールとヘルマン。通路から全速力でユーリが飛び出してきた。


「ごめんなさい!逃げて!」


 ユーリが飛び出した直後、通路から大量の水がものすごい勢いで流れ込んできたのだ。

 ジラールとヘルマンはすぐに風移動(ウィンドウォーク)を発動する。続いてヘルマンも光魔法(ライト)を発動し、通路に向かって駆けだした。


「ユーリ!急ぎなさい!」


 最初に移動を開始したヘルマンの後に続くよう、ユーリを促す。


「師匠は?!」

「ちょっと時間稼ぎをします。ヘルマンを追いなさい!」


 ジラールの声を背中に聞きながらユーリも出口へ向かって走る。


「さて、止まってくれると嬉しいですが……」


 濁流のように迫り来る大水に対してタクトを構えるジラール。

 彼の構えるタクトはトリプルタクト、3系統の魔元素を操る逸品である。得意とする風魔法、光魔法に加え、隠し球にしていた三種目の魔法である水魔法がここで役に立つ。

 

 氷結地獄(コキュートス)


 ジラールが振るったタクトからは、水魔元素の凝縮エネルギーが放たれた。そのエネルギーは濁流と衝突し、その水が瞬く間に凍り付いていく。

 そして巨大な氷の壁ができあがった。しかしジラールは首をひねる。


(完全凍結には至りませんか。ここはこれで良くても他の部屋からも水は流れているはずです。文字通り時間稼ぎ……。急いで出口に戻りましょう)


 風移動(ウィンドウォーク)を発動してヘルマンとユーリを追うジラール。

 彼が碁盤迷宮の中程にさしかかったあたりで水位は一段と増し、恐ろしい勢いで逃げる彼を追い詰めてゆく。

 ジラールも風移動(ウィンドウォーク)の出力を最大にして必死に出口である井戸に向かって走る。

 

 全力疾走のジラールが井戸に到着すると同時に井戸から噴き出すほどの勢いで水があふれ、ジラールとともに陸上まで飛び出した。しかし、幸いジラールを押し出した以上の威力になることはなく、水位上昇はそこで止まったようだ。


 そして二度と水位が下がることはなかった。


……


「ユーリ、何がどうなったのか教えてくれますか?」


 ギルド支援スタッフのキャンプでジラールが尋ねる。

 ヘルマンとユーリの二人は、ジラールの時間稼ぎのおかげで悠々出口に到達できていた。


「えっと……」


 ユーリの話によると、他二部屋の水没していない確認はすぐに取れたのだという。

 ついでに探索の手がかりがないか、部屋の調査を行ったところ中央の部屋に隠し扉があることを発見したのだそうだ。はやる気持ちを抑えつつ、隠し扉を開けて中に入ると、そこに台座に飾られた一つの古い指輪を発見したとのこと。


 ユーリがそれを手に取ると、台座が床下に沈み始め周囲から水の匂いがしたため、慌てて隠し部屋から飛び出すと、大量の水があふれ出したのだそうだ。


「これがその指輪……。よく見ると錆もひどいし、大きくて私の指にははまらないし、価値もなさそうだけど」


 そういって差し出した指輪をジラールが手に取る。

 確かにユーリの言うとおり、一見しただけでは価値はなさそうに見える。


「この指輪についてはこれから調査するとして……いつも言ってるでしょう、功を焦ってはいけないと。何もない可能性もゼロではありませんが、これまでの遺跡の状況と水没するという性質から、そこに罠があることは容易に想像できます。何故対策を打ってからと考えられないのです。今回の貴女の判断ミスはパーティ全体を危機に陥れているのですよ。反省が足りません!」


 ジラールの叱責を受け、小さくなるユーリ。

 ヘルマンも厳しい表情でユーリを見つめている。


「も……申し訳ありませんでした」

「しばらく貴女に謹慎を言い渡します。もう一度座学をなさい。今の状態で他の依頼を受けることを許可できません」

「そんな……」


 小さくなったユーリがさらにうなだれる。


「ま、仕方ないだろう。特に今回のはな。ジラールの対処がなかったら三人とも死んでるとこだ」


 ヘルマンもジラールと同意見のようである。


「貴女は戦闘に関しては一流であることを認めますが、探索者としては未熟にもほどがあります。まだまだ学ぶべきことを多いことを自覚なさい」


 ショックのあまりユーリは言葉をなくしている。


「ジラール。ギルドへの報告はどうする?もう探索は無理だよな?」

「大まかなことは同席している支援スタッフからもう連絡が行ってると思いますが、私から報告しておきます」


 ヘルマンに対してジラールが答えた。

 その手には、ユーリから受け取った古ぼけた指輪がある。


 ジラールは知らないが、その指輪には古代文字が刻まれていた。『技を司る指輪』と。



連載再開します。幕間ジラール編はこれで完結です。次回から第四章になります。

暑い日が続きますが、熱中症など体調に気をつけてお過ごしくださいませ。

私もエアコンが欠かせない日々です。。。(汗

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