第48話 水没遺跡
ジラールはユーリとヘルマンの二人とともに、探索方針を検討していた。
遺跡内は周期的に水没する。
水没すると当たり前だが通路はすべて水で満たされるため、脱出が間に合わなければ冒険者はまず死亡する。遺跡内に安全地帯(水没しない区画)がある可能性はあるが、期待をしない。
水没してから水が引くまでの時間、通路が水で浸され始めてから完全に水没するまでの時間を確認する。ただし毎回同じとは限らないため数パターンサンプリングする必要がある。
ということで命がけの検討である。
何か一つ間違えば、遺跡内で水死する可能性が高い。
水位のチェックはギルドの支援スタッフにお願いしている。そのうちデータは集まってくるはずである。
「なぁ、俺もしかしてこの遺跡には不要なメンバーかな?」
ヘルマンがそうつぶやく。
決して臆病風に吹かれて……というわけでないことはジラールもよく分かっている。何度も死線を潜り抜けてきた同志である。
レドウとは別の意味で昔ながらの仲間である。
ちなみにヘルマンは当然レドウとも面識がある。レドウがかつて魔法使いではなく、戦士として冒険者をしていた時は二人でジラールとともに遺跡に潜ったものだ。
どちらかというと、魔法使いを名乗り始めると同時にレドウが自らパーティを抜けたというのが正しい。
ヘルマンは魔物もいない遺跡で水浸しの床を急いで移動する必要性を感じ、いることで足手まといになることを懸念したのだ。
「確かに、いまのままの装備ではそうかもしれないですが、人がいるということはその分パーティとして知恵が回ると言うことです。剣を持って行くのをやめ、軽装にしてタクトだけ持って一緒に入りましょうか」
「なるほど。風魔法による高速移動だな」
ジラールの助言でヘルマンは求めていることをすぐに理解した。
「お前は使えるのか?」
ヘルマンが、ユーリの方を見る。
「つ、つ、使えるわよ。馬鹿にしないで」
ユーリは顔を真っ赤にして抗議した。
「大丈夫ですよ。練度はありませんが、移動してついてくるだけなら問題ないことは確認ずみです」
「ん。それならいい」
ヘルマンはユーリから目を離して再びジラールを見る。
「まず探索方針です。水位の周期がどのくらいかによりますが、できるだけ安全策をとります。周期の平均時間の三分の一を過ぎたら、帰還を開始することで少しずつ地図を作っていきます。そして徐々に探索範囲を広げていく感じです。戦闘はないものとし、移動はすべて風魔法による高速移動を使います。私はパーティの中心で光魔法を使いながら移動をするので、周囲に注意を向ける余裕があまりありません。そのため先頭をヘルマンに、しんがりをユーリにお願いします」
ジラールの指示を聞いてうなずく二人。
「ヘルマンは、戦闘者としてではなく探索者として周囲に気を配りながら進んでください。ユーリはマッピングをお願いします。どちらも重要ですよ。あといないと思いますが、もし魔物がいた場合は、原則逃げでお願いします。戦って時間を忘れて水没に巻き込まれたらアウトですからね」
ジラールの追加の注意喚起にもしっかりうなずく二人。
「あとは確認しておくことありますか?」
確認するジラールに向かって手を上げたのはユーリ。
「もし、誰かが罠かなにかにはまって動けなくなった場合はどうしますか?」
「探索時間中……つまり三分の一の範囲である場合は救出を行いますが、時間を越えてめどが立たない場合は撤退します。わかりますね?」
二人は微妙な表情をする。
「仮に私がはまったとしてさっきの条件に該当したら、必ず私を見捨てて脱出してください。という意味です。三人共倒れするのが最も被害が大きいですからね」
「……分かりました。罠には気をつけます」
「俺が必ず看破してやる。そのための先頭だ」
ヘルマンが力強くうなずく。ユーリはやや不安そうであったが、ジラールと目が合うと慌てて頷いた。
「よし、では今日はここまで。ゆっくり身体を休めて調査の終わる三日後に備えてください。その頃には水位の変化データも出ていることでしょう。」
ジラールの解散の合図でユーリとヘルマンは宿を離れていった。
(やれやれ思った以上にやっかいな遺跡ですね……気になるのは、自然発生的なものか、侵入者を排除するための罠か……まあ罠なんでしょうね。この地に自然にこれほどの水があるとは思えませんし……)
翌朝、ギルドの支援スタッフからジラールのもとに調査結果が届いた。その結果は良くないものだった。
「見事にバラバラですね。何の法則性もなさそうですし」
そう、ギルドの支援スタッフがもたらしたデータは「水の満ち引きに時間的な法則性がない」ことを表すものであった。
「一番短いときで三刻ほど。長いときで九刻かかっていますね」
ギルドの支援スタッフが報告を続ける。
あえて法則があるとするなら短い周期が数回起こったあとに長い周期があるというくらいだが、それでも長い周期が二回以上続くこともあり、いつ短い周期になるのかが分からないのである。
「仕方ありません。一番短い周期……三刻を基準に、一刻ずつ調査を続けましょう。支援スタッフさんは、そのまま周期の調査を続けてください。いずれ見つかるかもわかりませんので」
「承知した。データはとり続けるので、必要な時に尋ねてくれ」」
そう言って支援スタッフは退出していった。
しばらくしてユーリ、そしてヘルマンがジラールのもとに集まった。
二人は数日前とくらべ明らかな軽装で現れた。タクト以外の武器らしき物も持っていない。
「準備は良さそうですね。ちなみにお二人は泳げますか?」
ジラールの問いに首を横に振る二人。
まあタルテシュ付近に泳げるような川も湖もあるわけではない。
「わかりました。ではとにかく水につかることのないようにゆきましょうか」
ジラールたち一行は、仮称タルテシュ遺跡の入り口……要するに元道具屋までやってきた。
そこでは数人の支援スタッフたちがジラールたちのやってくるのを待っていた
「お待ちしておりました。ちょうどいま水位が一番満ちている時です」
「それはちょうど良い時間でしたね。すぐに準備しましょう」
ジラールたち三人は、先ほど決めた隊列で井戸の前に並び、水がゆっくりと引いていくのを待つ。
水が引くのは思っていたよりも早い。目に見えて引いていくのが分かるのだ。
「水が増えるときもこのくらいの速度で増えますか?」
ジラールが支援スタッフに尋ねる。
「いえ、引くときの方が明らかに早いですね。でも水位が上がる速度が遅いか?と問われると、体感ではかなり早く感じるのではないか。というところです」
「なるほど……予想時間より早くても水の気配を感じたらすぐ撤退しないとですね」
ジラールは周りにというよりむしろ自分に言い聞かせるように口にする。
もちろんユーリとヘルマンの二人もその言葉を真剣に聞いている。
「ちなみに直近の水位周期はどのくらいでした?」
「そうですね、五刻半程度です。長いとも短いとも言いがたい時間です。ここ最近のデータでは、このあとの周期は長めですが油断は禁物かと」
支援スタッフの言葉にゆっくりとうなずくジラール。
「その通りです。初回は二刻程度で戻ってくる予定です。成果があろうとなかろうと」
そうこうしているうちに井戸の底の横穴が見えてきた。
「皆さん準備は良いですか?」
ジラールの声でユーリとヘルマンの二人はタクトを振るった。
足下に風の渦が現れ、二人の身体が少しだけ地面から浮く。
「ではいきましょう」
二人の様子を確認したジラールもタクトを振り、風移動と光魔法を発動した。そして井戸の中へヘルマン、ジラール、ユーリの順で飛び込んでいく。
最初に底に飛び降りたヘルマンは風移動の力で水面にホバリングすると横穴に飛び込む。次にジラール、そしてユーリ。
若干ユーリが着地でバランスを崩すも、そのためのしんがりということでジラールの想定内。
ジラール一行はタルテシュの水没遺跡の調査を開始した。
台風が近づいておりますが、個人的に明日から夏休みでしてちょっと旅立ちますので更新を少しお休みします。次回は8/2に掲載予定です。よろしくお願いいたしますm(_ _)m




