第45話 水の神器
「次は私の成果をお話しますね」
そう言ってアイリスが語り始めた。
ルティアの残した羊皮紙の手紙、ペンダントからわかったアスタルテ家の真実。
これがかなり重い話題となったのだが、本来今三人が集まって話題にすべきことは別にある。
神器についてと『鍵』について、そしてそれぞれの祭殿についての話題である。
アイリスは国家のあらゆる文献が蔵書となっている国立図書館、それも通常公開されていない国家機密扱いの文書を調査してきたことを伝えた。
「実際のところ、ほぼ全ての記載が例の古代文字で記載されていたため、レドウさんのように読み進めることは出来なかったのですが、シルフィから事前に情報をもらっていたルティア様のメモを頼りに、少しですが文献を読んできました」
そう言ってアイリスがシルフィを見ると、シルフィは自慢気に胸を張っていた。
「全ては読みきれなかったのですが、現状分かったのは『鍵』の内容についてです」
アイリスは書き付けたメモを広げた。
------
『鍵』は全部で五つ
火・・・・・・【力】大剣復活済:【勇気の大剣】
水・・・・・・【心】ペンダント未
風・・・・・・【技】指輪未
光・・・・・・【知】冠未
闇・・・・・・【証】タクト復活済:【王者のタクト】
------
「これに、レドウさんが生家で手に入れたサークレットと、ルティア様のペンダントを書き足すとこうなります」
------
『鍵』は全部で五つ
火・・・・・・【力】大剣復活済:【勇気の大剣】
水・・・・・・【心】ペンダント未『鍵』:ルティア様のペンダント?
風・・・・・・【技】指輪未
光・・・・・・【知】冠未『鍵』:レドウさんのお祖父さまのサークレット?
闇・・・・・・【証】タクト復活済:【王者のタクト】
------
「どちらも実際に神器として復活させてみないことには本物かは分かりませんが、現在全く手がかりがないのは風関係ということになります」
と、報告を締めくくるアイリス。
「『水の祭殿』で見た『心』っていうのが、ペンダントだっていうことなのかな?」
「いえ、というよりも『水の祭殿』が水の力を司っているから魔元素を表す言葉として『心』という言葉を使ったのではないでしょうか」
シルフィの質問にアイリスが答える。ただこの回答には自信がなさそうだ。
「ねぇねぇ、水って『鍵』と祭殿がそろってるよね」
待ちきれないというようにシルフィがせかす。
「お待ちください。復活を試すのは朝にしませんか?」
「どうして?」
二人を制止したアイリスに、シルフィが問いかける。
「【王者のタクト】復活の時を思い出してください。そしてアレク様から聞いた【勇気の大剣】復活の時の様子もです。いずれも周囲の目がくらむほどに激しい光を放ったということは、水の神器復活の際も同じようなことが起こることが予想できます。そして水の祭殿は滝の裏です。隠されているといっても外のため、周囲に光が漏れ出て明らかに何かがあったと伝えてしまうことになりかねません。あの位置に祭殿があることを私たちは知られたくないのです。光があっても目立ちにくい、かつ人があまり活動していない朝を推薦します」
アイリスの説明は納得のいくものであったため、シルフィとレドウも理解を示した。
「あと『水満ちる時』ってのあったろ?あれは何かわかったんか?」
今度はレドウが疑問を投げかけた。
これにはシルフィとアイリスの二人とも答えを持ち合わせていないようだ。
少し時をおいてアイリスが口を開いた。
「単純にリーデル大河の流量だと仮定しましょう。リーデル大河の豊かな水は上流のリデル湖、さらに言えば湖に流れ込む雪解け水です。冬に積もった雪が春になって解け、リデル湖に流れ込むことで一時的に水位が上昇し、大河の流量が増えます。そして少しずつ流量は落ち着いていきます。つまり今この時期こそが最も適した時期なのではないかと思います」
苦しい解説ではあるが、まあまあ理解できる内容である。
「要するにわからねぇってことだな。ま、やって駄目なら次考えりゃいいんだけどな」
身も蓋もないレドウの発言で締めくくられたが、やってみないと分からないだろうという点において三人の意見は一致した。
では翌朝にしようということになり、その場は解散となった。
・・・・・・
翌朝、周囲がやや明るくなり始めた早朝、三名は再びレドウの部屋に集まっていた。
「んじゃあいくぞ?」
レドウが【王者のタクト】を振り、水の祭殿への転移ゲートを創造した。
「何回見ても便利よね」
シルフィの呟きを聞きながら、三名はゲートをくぐり水の祭殿へと向かった。
ゴオゴオと音を立てて流れる水の音。
南岸遺跡から来たときには夜だったため、分からなかったが『水の祭殿』はドーム状の天井があり、岩壁をくりぬいたような部屋だった。
その一面が滝の水に覆われ、その向こうに光の世界が広がっており、水の壁を通して柔らかな光が部屋全体を照らしていた。
「予想以上に神秘的な空間ね。秘密基地にしちゃいたいくらい」
シルフィのテンションが分かりやすく上がっている。秘密基地とか言ってるあたりガチである。
だが、それも仕方ないかもしれない。
アイリスも、レドウでさえも一瞬言葉を失うほどの美しい世界がそこにはあったからだ。
「遺跡のゲートはもう動かねぇから、ここは俺がいないとこられねぇぞ?」
「毎回レドウが連れてきてくれればいい。もう決めた!ここ私の秘密基地ね!」
シルフィはずいぶん嬉しそうである。秘密基地がそんなに欲しかったのだろうか?
「毎回かよ・・・・・・。めんどくせぇ」
ちょっと嫌そうなレドウ。
「じゃあ目的を済ませましょう」
そんなレドウを尻目にアイリスが促すと、シルフィはゆっくりうなずきペンダントを持って祭壇に近づいた。祭壇の前で深呼吸を一つするとルティアのペンダントを祭壇に置く。
「ん、反応がないわね。外れかしら」
祭壇に置いたペンダントを再び手に取ろうとしたその瞬間だった。
バチッ!という音と共に青い火花が飛び散ると、ドーム状の天井一杯に広がった青い光が祭壇の上のペンダントを直撃した。
風圧なのだろうか。その落雷にも似た激しい衝撃にシルフィがバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
「あっ!」
思わず悲鳴を上げるが、体勢を立て直せないほど倒れてしまったところをレドウが受け止めた。
「あ、ありがとう」
「いい。問題ねぇ。それより見てみろ」
レドウが指し示した祭壇の上ではペンダントを打ち抜いた青い光が消えようとしていた。
祭壇にかけよる三人。
そこには中央に青く輝く聖魔晶をあしらった黄金の意匠に姿を変えたペンダントがあった。
「復活したな」
「やったわ!」
「やりましたね!」
喜びに沸く三名。
《マスター、報告があります。水の神器が復活しました》
(わかるわ!目の前にあるだろ)
思わずタクトの精につっこむレドウ。
《必要な報告ですのでお伝えしました。以上です》
しかし動ぜず淡々と連絡事項だけ伝え、タクトの精からのメッセージは途絶えた。
シルフィはゆっくり祭壇に近づいてペンダントを手に取ろうとしたが、直前で何故かその手を引っ込めた。
「レドウが取って」
「なんでだ?自分で置いたんだから自分で取りゃいいだろ」
首をかしげるレドウ。
「これはレドウが持っていた方がいいと思う。それに私が持ったら呪いが継続されちゃうかもだし。それにちゃんとルティアママの形見はちゃんと持ってるのよ」
そう言ってシルフィは自分の首から下がっているレプリカを見せた。
「実際にルティアママが身に着けていたのは、変化した本物じゃなくてこっちのレプリカだもの。こっちがちゃんとした形見。いいからレドウが取って」
シルフィがそういって祭壇から離れる。
アイリスもそれにしたがって祭壇から一緒に離れた。
「そもそも【王者のタクト】を手にしているレドウさんが、神器を持たないと、効果が出ないのではないでしょうか?」
「そんなもんか?じゃあ俺が取るぞ」
レドウは祭壇に置かれている水の神器を手に取った。
その瞬間【王者のタクト】の時のように知識の奔流がレドウを襲う。
流石に二度目。なんとか意識を失って倒れずに踏みとどまるレドウ。
《マスター、報告があります。マスターは水の神器【聖心のペンダント】を入手しました。これによって知識解放レベルが2となります》
タクトの精が何かを言っている。知識解放レベルが上がったとか。
(わかった。今度ゆっくり聞かせてくれ)
《承知いたしました》
レドウは【聖心のペンダント】を首から下げ、二人の元に戻ったのだった。




