第44話 羊皮紙の手紙
レドウは、王都ウィンガルデのアスタルテ家に戻ってきた。
移動時間などないに等しい今のレドウにとって、その時間の短縮を不審に思われることを避け、レドウは数日タルテシュに滞在していたのだ。特に警戒していたのはロイズ地区で取り逃がした何者かわからない側近であったが。
そこへアイリスが訪れる。
「お帰りなさい。何か成果はありました?」
「こいつをゲットしてきた」
そう言ってレドウは盗賊から取り返した祖父のサークレットを見せる。
「例の文字で『叡智を司る冠』と彫られた木箱に入ってた。まあ間違いなく『鍵』だろ?」
「えぇ、間違いないと思います。私も図書館の古文書で『鍵』について記載された文献を読んでいたのですが、冠が神器の一つであるとの記載はありました」
アイリスの言葉に満足そうにうなずくレドウ。
「それからだな、神器とは直接関係ないんだが、気になることが・・・・・・」
「レドウゥ!おかえりぃ!」
レドウが途中まで言いかけたところで、部屋の扉を開け放ってシルフィが飛び込んできた。
「面子も揃ったことですし、それぞれの成果の報告会をしましょう」
三人がレドウの部屋の円卓につき、成果の報告会が始まった。
まずはシルフィが、母ルティアの遺品から『鍵』と思しきペンダントを発見したこと。また同時に古代文字で書かれた手紙があったことを報告した。
次にレドウが生家で祖父さんの遺品から『鍵』と思われるサークレットを発見したこと。そして、
「さっきアイリスに話しかけてたことなんだがな、実は人が魔物化した。それも地竜なみの強さでな」
レドウは生家であるロイズ地区周辺で起こっていた盗賊被害、そしてその討伐における一部始終を語った。細かい部分は面倒なので話してないが、黒幕と思われる側近が居てそいつは逃がしてしまったことも伝える。
「非常にまずいですね。ということは、南岸遺跡の地竜も自然発生したものではなく、やはり何者かの手によって生み出された魔物であるという説が濃厚だということですよね」
アイリスが少し考え込む。すっと立ち上がると声をかけた。
「ラピス。いますか?」
「はい。ここに」
闇の中からアスタルテ家暗部のラピスが現れる。
アイリスはラピスを円卓に促した。
「先日から地竜騒ぎについて、他家の動きに探りを入れてもらっていましたが、何か成果はありましたか?」
「報告いたします。まず上位三家についてですが、警戒が厳しく情報が得られておりません。第四位マーニス家については、当主のユリウスが足しげくいずこかに通っているような動きを見せております。ただし、途中で足取りが途絶えるため場所の詳細については不明です。第五位パーン家についてはナルガ様喪失の衝撃が大きく、家全体が塞ぎこんでいるようです。第六位ハイラー家については変化・動き共になし。第七位カーライル家については当主ニキがタルテシュの冒険者ギルドと接触をしたようです。以上となります」
「ありがとうございます。では引き続きお願いします」
「はっ」
ラピスは席を立つと再び闇に消えた。
「怪しいのはやはりマーニス。裏で糸を引いている者がいるとしたら、ロイスウェルでしょうね」
「ニキとやらが、冒険者ギルドに接触したというのは、あれは大丈夫なんか?」
レドウが最もらしい質問をする。それにアイリスが応える。
「カーライル家は冒険者ギルドのオーナーです。おそらくは地竜騒ぎについて、より具体的な情報を得るためにコンタクトをとったのでしょう。ということは比較的シロの動きです。もちろんニキ・・・・・・カーライル家が黒幕で世間やギルドがどこまで把握しているのかを確認したという可能性もゼロではありませんが」
「ニキはすごくいい人よ。まわりのことをすごく良く考えて動いてくれる人だし」
シルフィがカーライル家のフォローにまわる。本当に好人物なのだろうとレドウは思う。
「じゃあまずはマーニス家の動きに注意ってこったな」
レドウが簡単にまとめた。簡単すぎてガッカリするレベルの纏め方ではあるが、現時点での結論としてはこれに尽きるというのも事実である。
「あ。で、話は変わるけど、レドウこれ読んでもらえないかな?」
シルフィが一枚の羊皮紙を取り出した。シルフィの話にあったペンダントに同封されていた羊皮紙の手紙だ。丁寧に折りたたまれている。
「わかった。今から読んでしまっていいか?」
シルフィとアイリスの二人がうなずく。
レドウはシルフィから手紙を受け取り、読み始める。と、同時にレドウの表情はどんどん険しくなっていった。
「ね、ねぇ。どうしたの?何か変なことでも書いてあった?」
心配そうに尋ねるシルフィ。
アイリスも真剣な表情でレドウを見つめる。
「個人名については、発音がわからねぇから読まずにおくが、冗談じゃなく全く幸せな内容じゃねぇぞ。いいのかこの場で読んでも?」
レドウの言葉にゴクリと唾を飲み込むシルフィ。
「お聞かせください」
アイリスは静かにレドウを促した。シルフィもやや強張った表情だがうなずいた。
レドウはアイリスとシルフィにうなずくと手紙の内容を読み上げる。
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娘 ○○○へ
どうやら我らはここまでのようだ。
だが、私とお前が耐え忍ぶことで望みを繋ぐことが出来ると信じよう。
△△△大公の意に従い、お前はやつのもとに嫁ぐのだ。
麗しいお前ならやつを篭絡することが出来る。そして血を繋ぐのだ。
無念だろうが我らの復讐はここから始まる。何世代先になろうとも我らは必ず復活を果たす。
そのために、お前にこのペンダントを託す。
このペンダントのある限り、お前の子々孫々はお前の美貌を兼ね備えた娘でありつづけるだろう。
その容姿をもって憎きヴィスタリアを篭絡させ続けよ。
私はこれから野にくだり、落ち延びた末に新しく家族をつくることに専念する。
願わくば我らが再び手を取り合うその日まで互いに存続せんことを。
父 ××××より
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「こ・・・・・・このペンダントッ!」
シルフィは身につけていたレプリカではなく、本物のペンダントを懐から取り出した。
「これは衝撃的ですね・・・・・・。下手したら聞かなかった方が幸せなくらい」
さすがのアイリスも紡ぐ言葉を見つけられずにいる。シルフィが深呼吸をして尋ねる。
「アイリス。ルティアママは、私とそっくりか?子供の頃の記憶では曖昧なのだ」
「私は、生前のルティア様と直接お会いしたことはありません。アレク様にルティア様の肖像を見せて頂いたことがありますが、その特徴は今のシルフィとそっくりです」
予想していた通りの回答に小さくうなずくシルフィ。
「つまりアスタルテ家の『女系家族』は、この手紙を残した父娘によって呪われた結果なのね。そして、私はその当時過酷な運命を背負わされた娘の子孫であり、生き写し。そして何かの復習を果たすその時まで・・・・・・」
ペンダントを握り締めて、シルフィが顔をうずめた。
「旧帝国の皇族」
アイリスが一つの解にたどり着く。
「まだ仮説の域を出ないですが、この手紙は百年戦争の結果ヴィスタ聖教国に敗れた旧帝国の皇族一家が残したのではないでしょうか。つまり、アスタルテ家というのは密かに紡がれた旧帝国皇族の末裔。すると復讐というのは・・・・・・」
そこまで言ってアイリスは言葉を飲み込んだ。
現国家、ヴィスタリア連合王国に弓を引くということで他ならないからだ。
「なんて悲しい、なんて残酷な現実」
シルフィは静かに顔をあげた。
「でも私は負けない。私の手でこの悲しい願いを遂げさせてあげたい。もっともこの平和な世の中で国家転覆なんてさせない・・・・・・。だけど、せめて私は娘の末裔として血を分けた父の血族と再会を果たすことを誓うわ」
シルフィの目には力があった。アイリスとレドウは静かにうなずく。
「強い・・・・・・とても強い決意です。当時この娘は手紙を最後に父と会うことなく敵であるヴィスタリアの一族として生涯を終えたことでしょう。その辛さはどれほどであったか、今となっては想像することさえ叶わない。でも、きっと父との再会を最後の瞬間まで夢見ていたはずです。それがペンダントを通じて強い呪いとなっていたのであれば、血族の末裔との再会は千年の時を越えて少しでも癒してくれると思います」
「きっとなんとかなると思うぜ。俺にはこの【王者のタクト】がある。人探しくらい簡単に手伝えそうだ」
レドウがにやっと自慢げに笑った。
彼は知らないが、その笑顔にはシルフィを元気付ける充分な力があった。
暑い日が続きますね。エアコンから離れられない日々が続いてますが、皆様も熱中症などにならぬよう充分にお気をつけ下さい。




