第43話 そのころ冒険者ギルドでは
いつもの昼下がり。
いつものカウンター。
タルテシュの冒険者ギルドは今日もいつものように賑わっていた。
駆け込みの当日依頼が集中するため、午前中が最も忙しい繁忙時間となるが、遺跡探索と冒険者のメッカであるタルテシュのギルドは昼になっても人の往来が激しいのが特徴だ。
そんな忙しいギルドにも関わらず、カウンターの奥でグダッとしている職員が一人いた。
リズだ。
ちょっと前に役職が変わり、窓口スタッフを統括する立場になったため、最近はカウンターに立つことは稀である。ぱっと見には奥でダラけているだけに見えるリズだが、文句を言うスタッフはいない。
それというのも問題が発生した時の対応能力と速度は変わらずピカイチであるため、有事の際には彼女に頼れば必ず解決に至るからだ。実力は全スタッフの認めるところである。
各窓口のスタッフは少なからず彼女に助けられており、スタッフにとって窓口カウンターに立ってもらうことより、有事にその力を自由に借りられることが重要ということである。
だからこそ、問題が発生していない時はゆっくり休んでいてよく、問題が起こったときにすばやく対応してくれさえすればいい。ほとんどのスタッフがそう考えているのだ。
しかし、当の本人の考えは違っていた。
(ヒマ過ぎるぅ・・・・・・。カウンターに立ちたいぃ~)
根っからの現場人間のようである。
それぞれの両者の思惑はともかく、そうした悶々とした気分を抑えつつ一日が過ぎていくことがここ数日のリズの過ごし方だったのだが、今日は違っていた。
「なんじゃ。暇しているようじゃの?」
「わぁ。ギルド長ぁじゃないですかぁ」
リズは背後からかかった声に飛び起きる。
そこには年に一度くらいしかお目にかかることのないギルド長がいた。その背後にはさらにお目にかかることのない人物も控えている。
「ニキィ!」
リズは、そのうしろに控えた大物に飛びついた。
ニキと呼ばれたその男はリズを優しく抱きとめるとそっと頭を撫でる。
「おや、これは錚々たる顔ぶれですね」
ここで現れたのはジラールだ。弟子のユーリは来ていないようである。
「役者はそろったようじゃな。では奥の部屋にゆこうか」
ギルド長に促され面々は、冒険者ギルド奥にある会議室へと向かった。
会議室に集まったのは四名。
まず、ギルド長のキプロス=カリガ。
そしてギルドスタッフチーフのリズ=メルローズと、冒険者代表として、ジラール=グレッグス。
残りの一名は、冒険者ギルドオーナーにしてカーライル家当主ニキ=イスト=カーライル その人であった。
非常に気さくな人柄であり、36歳とまだ若く行動力も持ち合わせた好漢である。
いずれの人物もギルド長に召集されて集まってきている。リズに関しては今呼ばれたところだが・・・・・・。
「まず皆に集まってもらったのは他でもない、南岸遺跡の悲劇についてじゃ。冒険者ギルドとしても多くの被害が出ており、整理した上で対策を講じる必要がある」
ギルド長のキプロスが切り出した。本日の主要な議題である。
「わたくしから報告致しましょう」
続いて、ジラールが発言する。
南岸遺跡で地竜が発生し、これを討伐したことをレドウから報告を受けたこと。
実際に調査に入ると犠牲者が多数おり、ギルドに捜索依頼の出ていた失踪した冒険者たちであったこと。
犠牲者の中にパーン家の騎士団副団長のナルガ=アド=パーンがいたこと。
ナルガの遺品であるデュランダルは、レドウと同行していたアスタルテ家騎士団長のアイリスからパーン家に返却されたものの、ソーマの手でアイリスに託されたこと。
今回の地竜のような事例はまだ他には報告されていないこと。
などを淡々と報告した。
「つまりぃ、ギルドに捜索依頼が来ていた冒険者はぁ、全員その魔物に倒されちゃってたけど、レドウ君たちが倒した。ってことよねぇ?」
「そういうことじゃな」
ギルド長キプロスもうなずく。
「そもそもパーン家の副団長ナルガは稀代の英雄候補との呼び声も高かった強者であったはず。アスタルテ家の剣豪アイリス殿の助力があったとはいえ、そのような化け物じみた魔物を討伐出来る技量がレドウ君という冒険者にはあるのかね?」
ニキが当然の疑問を投げかける。
一斉に皆の視線がジラールに集中する。
「そうですね。彼は実績の低い魔法使いとして冒険者登録をしている変わり者ですが、単純な戦闘力という意味においてはギルドに登録している冒険者の中でもトップクラスでしょうね。それも一、二を争うほどの」
ジラールの言葉にリズが力強くうなずく。
「そもそもぉ、登録者で私に実力で勝てそうな人ってぇ、レドウを含めた数人だけよぉ?」
リズが爆弾発言をした。ギルドスタッフのリズに実力で?戦闘?
ギルド長キプロスとジラールはきょとんとしている。
「馬鹿、リズ!」
ニキが慌てて制するも、時既に遅し。
「あ~。これ内緒でしたぁ」
リズの緩い発言に、一同脱力する。
「ふぅ。この面子ならまだ良いですが、他言無用ですよ。実はこのリズ君は、わがカーライル家の斥候でして……戦闘技術は他家の騎士や暗部と遜色ない実力者です」
「えへん。秘密なんだよぉ?」
まるで秘密にする気のなさそうなリズの返事に、呆れたように溜息をつくニキ。
「ようするにじゃ、わかっていることはレドウ君は変わり者かもしれないが、冒険者ギルドきっての強者であるということじゃな?」
ギルド長キプロスが場を落ち着かせるために確認をする。さすがの年の功である。
「あぁ~、ジラールも強いよぉ。スタイルが違うけどぉ」
折角落ち着いた場を再びリズが混ぜっ返す。
「リズ、いまはそこはもういいです。次の話題に入れないではないですか」
ニキが嗜める。
「そうです。問題なのは、こうした強魔物が今後も現れる可能性があるということです。そして現れた場合、再び犠牲者が生まれることは間違いありません。レドウから話を聞く限り、もしわたくしの方が先に調査で入っていた場合、多くの犠牲者たちと同様の道を辿っていた可能性があります」
ジラールが真剣な表情で続ける。
「実はですね・・・・・・強魔物の出現については、人の関与を疑っています」
ここでニキが切り出した。
「王家の一部がキナ臭い動きを見せています。表立っての動きはないのですが西国への侵攻を画策している者がいるようで、そのための軍事力としてなにか開発をしているという情報をつかんでいます」
「そのうちの一つが強魔物だということじゃな?」
ギルド長の確認にニキは大きくうなずく。
「実験に遺跡を利用している可能性があります。ですが、兵器開発のために冒険者をはじめとした一般市民に危害を加えるなどあってはならないことです。恐らくは、意図せずしてパーン家に犠牲者が出ました。万が一明るみになれば、パーン家からのクレームを皮切りに内紛に発展しかねません。そのためますます事実を隠蔽する方針に転換しているはずですが、急な動きには必ず綻びがあります。情報が得られ次第、リズを介してギルドに情報を流しますので、少々お待ちください」
何故か偉そうにうなずくリズ。
「遺跡のどこに強魔物が現れても不思議ではない。その危険性を強く認識し、発見次第手を出さずに逃げてギルドに報告するよう私からも情報を発信しましょう」
「すまないな、ジラール君。こういうとき君がいてくれることが非常に心強い」
ギルド長キプロスがうなずく。
「私はレドウ君の人となりを確認したい。王都に戻ったらコンタクトをとってみようと思う。彼は今アスタルテ家にいるのだな?」
「そうよぉ。私が依頼を請けてぇ、レドウを派遣しているから間違いないわよぉ」
ニキの問いにリズが自信満々の笑みを浮かべる。
「では各々、すべき事出来ることを実施し、情報はギルドに集約させることとしよう」
ギルド長キプロスの纏めをもってその場を解散した。
レドウの知らぬところでは、少しずつ事態が動き出していたのだ。




